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ラ クレリエールの料理集 vol.11

東京・港区白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。
2020年10月にスタートした連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」では、柴田の料理人人生を振り返りつつ、なぜ今ミシュラン三つ星に挑戦するのかを綴りました。そして今度は「クレリエールの料理」を切り口に料理人として、シェフあるいは経営者として、考えていることや思っていることをお伝えしたいと思っています。

今までの連載「ミシュラン三つ星レストランへの挑戦」はコチラからどうぞ
 → 第一章 レストランのシェフになる
 → 第二章 プロの世界へ
 → 第三章 「料理長」を見据えて
 → 第四章 レストラン ラ クレリエール
 → 第五章 オーナーシェフの「仕事」
 → 第六章 ミシュラン三つ星を目指す

「料理集」のバックナンバーです。
 → 「ラ クレリエールの料理集1(第一皿~第五皿)」
 → 第六皿 パロンブのロースト

第7皿(résumé)仔羊のロースト トリュフのソース

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この料理のポイント

*リムーザンの羊
*「冬の羊」の愉しみ
*バターで焼く

成り立ち

「羊のローストもフランスでは季節によってこんなに違うんだ!」という驚きが、このお料理の根っこです。一年365日、フランスの三ツ星レストランのメニューから羊料理が外れることはありません。中でもローストは最もポピュラーな料理の一つ。僕も日本でさんざん作りました。でも「羊のローストと言えば」という感じでスタイルは決まっていた。もちろん旬に合わせて付け合わせが変わったりソースに多少のアレンジが加わったりはしましたが、羊の自体はハーブとオリーブオイルで焼くのが基本。そのことに疑問を感じたこともありませんでした。
僕がブルゴーニュのオステルリー・ビュー・ムーランからパリのル・グラン・ヴェフールへ移ったのは、夏の初め。出されていた「羊のロースト」は、グリーンピースやミントと共にパプリカとアンチョビのソースを添えた軽やかでさわやかな一皿でした。季節が進んで冬になると、トリュフやマデラ酒のソースに根菜類が付け合わされ、羊自体もコクを加えた仕上げに変わっていました。今まで食べたことのない力強さと深みがあり、まさに“冬のごちそう”!そんな「冬の羊」の美味しさを日本でも楽しんでいただきたくて作ったのが、今回ご紹介する「仔羊のロースト トリュフのソース」なのです。

メイン食材「リムーザンの羊」

2019年に出会って以来、冬の羊はリムーザンひと筋です。きっかけは業者さんの紹介でした。高品質・高価格のお肉に定評があり、以前ご紹介した燕三条の青首鴨と同じ業者さんです。ちなみにリムーザンはフランス南西部に位置する地域で、中心都市に窯業で有名なリモージュがあります。初めは価格の高さに驚きましたが、食べてみて「フランスの冬の羊」を表現するにはこれしかない!と確信し、仕入れることにしました。
最大の特長は「肉質」です。赤身が強く、力強い味わいを持っています。羊の場合、一般的に味わいの力強さ=羊臭さとなりやすいのですが、リムーザンの羊には過度な羊臭さがありません。味わい自体も、羊らしい力強さと繊細さを併せ持っていて、しかもそのバランスが絶妙なのです。どちらか一方が強くても弱くても冬のトリュフとの最高到達点には到達できないので、リムーザンの羊に出会っていなかったら、僕は冬の羊のお料理を出せないし、出していません。

「冬の羊」の愉しみ

ル・グラン・ヴェフールで出会った美味しさの衝撃は、僕の中に「冬場のフランスの羊料理=羊×トリュフ」のイメージを強烈に焼きつけました。言うまでもなく、トリュフはフランス料理において冬のごちそうの代表格。レストランモナリザの河野シェフも、ロブションの流れを汲むトリュフのソースで冬の「羊のロースト」を出していました。クレリエールもオープン当初から出したいと思っていたのですが、僕の思い描く形でトリュフと相対し得る羊がいなかった。ようやく3年目にリムーザンの羊と出会い、パズルのピースがピタリと嵌りました。
それ以来、この時期にお勧めを聞かれた時には「羊」を挙げています。すると、フレンチ好きなお客様ほど「冬に羊?」と意外な顔をされます。日本では柔らかくて繊細なアニョー・ド・レが好まれることもあって、「羊の旬=春」というイメージが強いのでしょう。実際、春のフレンチレストランはカフェも高級レストランも軒並み羊料理が並びますし・・・。だからこそ、春の羊とは全く違う美味しさが愉しめる「冬の羊」を僕は推したいのです!
また、クレリエールによくいらっしゃるお客様は、大抵、他にも様々なレストランに行って日常的にフランス料理を楽しまれています。11月ごろからジビエをいろいろと召し上がっているはずです。1月にもなると、まだジビエシーズンではあるけれど、もう食傷気味でしょう。そこで、「冬の羊」の登場です。リムーザンの羊ならではの力強さと繊細さに旬を迎えたトリュフの豊潤さがもたらす美味は、まさにこの時期にしか愉しめない“冬のごちそう”。フランス料理の経験値が高い方ほど喜んでくださっています。

バターで焼く

お肉自体の力強さとソースのコク深さに見合うよう、リムーザンの羊を焼く時は必ずバターを使います。逆に、リムーザン以外の羊には、バターは使いません。春のシステロンの羊はアニョー・ド・レのような繊細さを活かすためオリーブオイルで焼きますし、ニュージーランドの羊は羊らしい力強さを活かしてバーベキューのようにローストしたり藁焼きにしたりしてお出しします。バターで焼くという面でも、この一皿はクレリエールの羊料理の中で特異な存在だと言えるでしょう。

次回はこのお料理のレシピと具体的な工夫などをお話します。

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

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