人材育成で陥りがちな3つの罠
株式会社ブレーンバディ執行役員CHROの永井です。今回は、人材育成の罠について考えていきます。人的資本の維持活用、拡大をしていく上で育成は必要不可欠な機能です。しかし、人材育成を、即効性のある万能薬のように感じてしまうことが現場ではよく起こるのではないでしょうか。結果、育成に取り組んでもなかなか現状改善ができなかったり、成果が出なかったり。
本日は、その時マネジメント層が陥っているかもしれない「人材育成の罠」について考えていきたいと思います。とりわけテクニカルな手法ではなく、そもそもの人材育成に向き合う時の考え方を中心に考えていきます。
人材育成の罠をテーマに、組織開発についてみなさんと一緒に考えていければ嬉しいです。
企業はなぜ人材育成に注力するのか
人材育成の目的は、個人や組織の発揮できるパフォーマンスの総量を増やし、事業・経営戦略を実現していくことです。そのため、採用と同じく調達機能を果たすものです。人的資本を拡大をしていくことで、その組織が挑戦できる領域が増えたり、発生する問題を解決できるようになったりしていきます。
その中で、企業が特に人材育成に注力する理由は、採用のみで人材を調達するのは現実的でないからです。採用には、金銭・時間・工数含めコストが膨大にかかります。採用費用はもちろん、採用リードタイム、採用活動のコストなど、採用するのにも多くの投資が発生します。そして、人材獲得競争が激しくなっている現代社会で、優秀な人材を採用していくのは難易度が上がっています。そのため、できる限り、社内に保有している人的資源の拡大を目指し人材育成に注力します。
現場で陥りがちな人材育成の罠
人材育成の重要性は、改めて書く必要がないほど、強く認識されているのではないかと思います。僕自身も人材育成は非常に重要だと認識していますし、人材を育成できることが競争優位性の構築にも繋がると感じています。しかし、人材育成に向き合っていると、以下のような罠に陥りやすいなと最近感じています。今回は特に強く感じた3つの罠をご紹介します。
<育成の罠① 育成という手段の目的化>
前述の通り、人材育成はあくまで目的達成のための手段です。しかし、現場で人材開発に向き合っていると育成そのものが目的化しがちです。例えば、成果から逆算されて行われていない育成の状態や、ゴールの状態が明確でない育成の取り組みは、目的化している可能性が高いです。この状態に陥ると、無駄に育成コストだけがかかるだけで、成果がでず目的も実現できない可能性が高いです。
また、マネージャー個人で考えた時に、「自分の仕事は人材を育成することだ」と捉えてしまうと手段が目的化しやすいように感じています。マネージャーにとって人を育てることは重要な役割です。しかし、人を育てることだけが仕事ではありません。成果にフォーカスする必要があります。
<育成の罠② パフォーマンスが発揮できない理由は全て能力不足>
この考え方に陥ることは非常に多いのではないかと感じています。全て能力不足だと捉えることは間違いではないかもしれません。しかし、目的達成するためにパフォーマンスを発揮させることが重要だと考えた時に、手段は育成だけではありません。そして、全て能力不足だと仮定した場合、膨大な育成コストがかかることになります。育成する側も育成される側も非常に労力がかかります。そのため、パフォーマンスが発揮できない理由を全て能力不足だと捉え、全て育成が必要だと捉えることは、結論の飛躍が発生している状態だと思います。
考え方は色々ありますが、例えば、パフォーマンスを構成する要素を以下の図のように捉えた時に、パフォーマンスを発揮していない要因は能力の問題ではなく、業務環境側に問題があることも考えられます。
例えば、知識スキルの不足ではなく必要な武器がないケースや、マネジメントが機能していないことにより正しい行動ができない・行動量が不足しているケースなどは能力不足に課題設定をしても改善する可能性は低いです。問題はヒトではなく、コトに発生しています。
このように、仮にパフォーマンスが発揮できていない状態があったとしても、全てが能力不足とは言えません。そのため、全てが育成により解決すべきことと捉えるのはあまり確からしくないかもしれません。
<育成の罠③ 育成は簡単にできるという幻想>
育成の罠②にも少し連動しますが、根底に「育成は簡単にできる」「短期間で育成できる」という思考があると、全てを育成で解決するという発想になりやすいです。しかし、そもそも育成は簡単なことではありません。原理原則に立ち返ってコントロール範囲を考えても、相手はコントロールできない存在です。また、人は情理で動く不合理な存在かつ個性を持ち合わせています。そのため、相手を成長させる(状態を変える)ことは、簡単なことではないのです。
そうした時に、育成は簡単にできるという幻想に陥り、「全部を育成するんだ」と捉えてしまうと、目的達成が遠ざかる可能性があります。そのため、育成すべき項目を最小限にすることが重要だと考えています。例えば、配置により、そもそもの個性を発揮させ、パフォーマンスを向上させることも一つの手段だと思います。サービスの提供難易度を下げることで、結果的に全体のパフォーマンスが上がる可能性もあります。もちろん、短期の視点・中長期、個人・組織の視点から育成しなければならないことはあると思いますが、極力育成範囲を少なくした方が、組織としての目的達成に近づける可能性があります。
罠にハマらないために
では、ここからはどうしたら罠に陥らないか考えていきます。
シンプルに考えると、以下の4ステップで進めていくのが良いのではないかと考えています。
①目的の再確認と明確化
②パフォーマンスを発揮するための構成要素を分解する
③一次情報や事実に基づき現状を正しく把握する
④取り組むべきテーマを決めていく
①については、当たり前すぎるので詳細は書きませんが、何より重要なことです。
②のパフォーマンスを発揮するための構成要素を分解するためには、ジョブディスクリプションの考え方を用いると考えやすいのではないかと思います。例えば、重要業務(行動)/知識・技能/勤務態度(マインドセットやスタンス)に分解して考えるだけでも、ある程度は分解できるのではないかと思います。
その上で、③一次情報や事実に基づき現状を正しく把握することで、どこに異常値が出ているかが明確になってくると思います。また、ここでも様々なフレームを用いることで、パフォーマンス不全の根本理由が見えてきます。
そして、④取り組むべきテーマを決めていくことで育成の罠に陥りにくくなるのではないかと考えています。
自分自身も「育成しなきゃいけない」という時に、「本当に育成でしか解決しないのかな?」「そもそもマネージャーが育成に取り組める状態だっけ?」という問いを忘れないようにしています。
現場と経営・リアルと理想・ミクロとマクロの観点から
今回は、人材育成の罠というテーマで組織開発について考えてきました。現場で人・組織に向き合っていると、どうしても現場に偏ったり短期思考の小さな現状改善を盲信したりすることが多くあると思います。一方で、経営に近づくと理想論により過ぎて現場との乖離が大きくなり過ぎたり、時間軸が長期になり過ぎたりすることもあると思います。
スタートアップの人事というポジションは、この両軸を俯瞰的に見ながら、長期を描き現場に入り実行者であり続けることが重要だと感じています。人材育成の罠に陥る時も、視点がどこかに偏っていることや、机上の空論を語っているケースが多いのではないかと思います。今後も、人材育成に限らず、個人と組織、短期と長期をandで思考し続け、実行者として組織を前に進め続けたいです。
<参考図書>
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