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部下の主体性を引き出す1on1ミーティングの極意ー日経ビジネス記事(冨山真由氏)より

 日経ビジネス2024/5/27の記事に『「部下が言ったとおりに動かない」 その原因はあなたにある』が掲載されていました。この記事では、部下の主体性を引き出す効果的な1on1ミーティングの進め方について、行動科学の観点から詳細に解説されていました。

 まず、1on1を成功させるための土台として、部下との信頼関係の構築が不可欠であると強調されています。信頼関係を築くためには、1on1の時間だけでなく、日頃から積極的にコミュニケーションを取り、部下の存在を認め、話を聞くことが重要です。例えば、挨拶をする、ねぎらいの言葉をかける、困りごとがないか尋ねるなど、些細なことからでも構いません。

 さらに、部下の行動を承認することも信頼関係を深める上で重要です。従来型のマネジメントでは、結果が出た後に評価することが一般的でしたが、この記事では、結果だけでなく、プロセスや行動そのものを承認することが推奨されています。
 例えば、部下が顧客に積極的に挨拶をした、難しいタスクに挑戦した、といった行動を具体的に評価し、感謝の気持ちを伝えることで、部下のモチベーションを高め、自発的な行動を促すことができます。

 承認には、存在承認、所有承認、行動承認の3つのレベルがありますが、特に重要なのは行動承認です。部下の行動を注意深く観察し、「〇〇さんが××してくれたおかげで助かりました」「〇〇さんの××という行動は素晴らしいと思います」といった具合に、具体的な行動を言葉で承認することで、
部下は自分の行動が認められていると感じ、自信を持つことができます。「観察」の重要性については、以前私も以下記事にて取り上げたところです。

 また、1on1の時間を有効活用するためには、事前に部下との日常的なコミュニケーションの中で、些細な問題や疑問点を解決しておくことが大切です。1on1では、より深いレベルでの対話に集中し、部下の成長や目標達成をサポートすることに焦点を当てるべきです。

 この記事では、問題行動のある部下への対応についても触れられています。叱責するのではなく、まずは小さな行動目標を設定し、達成できたことを承認することで、徐々に自発的な行動を促していくアプローチが有効であるとされています。
 例えば、遅刻が多い部下に対しては、まずは「明日から1週間、遅刻せずに来てください」という小さな目標を設定し、達成できたら「1週間遅刻せずに来ることができて、素晴らしいと思います」と具体的に承認します。このように、段階的に目標を設定し、達成するたびに承認することで、部下は自信をつけ、より高い目標に挑戦する意欲を持つことができます。

 また、新時代のマネージャーが持つべき視点として、「部下を権力で動かすのではなく、どうすれば部下が主体的に動けるかを考えること」「部下の困りごとを理解し、業務を円滑に進めるためにサポートすること」が重要であると述べられています。これらの視点を持ち、日頃から部下との信頼関係を築くことで、1on1の効果を最大限に引き出し、チーム全体の成長につなげることができると結論づけられています。

 内発的動機付けと外発的動機付けについても言及されています。従来のマネジメントでは、昇進や昇給といった外発的な報酬で部下を動機づけることが一般的でしたが、現代では、部下自身の成長や達成感といった内発的な動機付けが重要視されています。部下の行動を承認し、感謝の気持ちを伝えることは、内発的な動機付けを促進し、より高いパフォーマンスを引き出すことにつながります。

人事の立場から考えること

 人事の視点から考えると、この記事で解説されている1on1の考え方・進め方は、組織の活性化に多岐にわたる効果をもたらすと考えられます。種々の企画・施策に活用すべきでしょう。

エンゲージメントと定着率の向上

 部下の行動を承認し、内発的動機付けを促すことは、仕事への満足度やエンゲージメントを高める上で非常に効果的です。例えば、あるプロジェクトで部下が主体的に課題解決に取り組み、成果を上げた場合、上司がそのプロセスと結果の両方を具体的に評価し、「〇〇さんの粘り強い交渉のおかげで、このプロジェクトは成功しました。本当に感謝しています」といった言葉を伝えることで、部下は自分の貢献が認められたと感じ、仕事への意欲がさらに高まります。

 エンゲージメントの高い従業員は、生産性や創造性が高く、離職率も低い傾向があります。また、自発的に行動する従業員が増えることで、組織全体の活気も向上し、より良い成果を生み出す好循環が生まれます。

効果的な人材育成と能力開発

 定期的な1on1は、部下の成長を長期的にサポートする上で欠かせない機会です。1on1を通じて、部下のキャリア目標や課題を深く理解し、個々に合わせた育成計画を立てることができます。例えば、プレゼンテーションスキルを向上させたい部下には、研修への参加を促したり、実践の機会を提供したりすることで、具体的なスキルアップを支援できます。

 また、1on1は、部下の潜在的な能力を引き出す機会でもあります。上司が積極的に質問を投げかけ、部下の考えやアイデアを引き出すことで、新たな才能や可能性を発見できるかもしれません。

組織内コミュニケーションの円滑化と心理的安全性の向上

 1on1は、上司と部下間の信頼関係を構築し、コミュニケーションを円滑にするための重要なツールです。日頃から1on1で率直な意見交換を行うことで、問題や課題を早期に発見し、解決することができます。例えば、部下が業務上の悩みを抱えている場合、1on1で相談することで、上司が適切なアドバイスやサポートを提供し、問題の深刻化を防ぐことができます。

 また、1on1で安心して話せる雰囲気を作ることで、心理的安全性を高めることができます。心理的安全性の高い職場では、従業員が自由に意見を述べることができ、創造的なアイデアが生まれやすくなります。

組織文化の醸成と価値観の共有

 1on1で部下の行動を承認し、感謝の気持ちを伝えることは、互いを尊重し合う組織文化を醸成する上で重要です。例えば、部下がチームのために自主的に残業をした場合、上司が「〇〇さんの協力のおかげで、チーム全体の目標を達成できました。本当にありがとうございます」と感謝の気持ちを伝えることで、チームワークを重視する文化が育ちます。

 また、1on1は、組織の価値観を共有し、浸透させるための機会でもあります。上司が1on1で組織のビジョンや目標を繰り返し伝えることで、部下は組織の一員としての自覚を持ち、共通の価値観に向かって進むことができます。

パフォーマンスの向上と目標達成の促進

 1on1は、部下の目標達成をサポートし、パフォーマンスを向上させるための効果的な手段です。1on1で定期的に目標の進捗状況を確認し、フィードバックを行うことで、部下は常に目標を意識し、モチベーションを維持することができます。

 また、1on1で部下の課題や問題点を共有し、解決策を一緒に考えることで、より効率的な仕事の進め方を模索することができます。例えば、あるタスクが遅れている場合、1on1で原因を分析し、具体的な対策を立てることで、遅れを取り戻すことができるかもしれません。

ハラスメントリスクの低減とメンタルヘルスケアの促進

 定期的な1on1は、部下のメンタルヘルス状態を把握し、サポートするための貴重な機会です。1on1で部下の様子を注意深く観察し、変化に気づいたら積極的に声をかけることで、精神的な負担を軽減し、ハラスメントのリスクを低減することができます。ハラスメントを起こさないにはどのようなアプローチが必要か、という観点も重要ですが、普段の自然な確認も大切です。

 また、1on1で部下の悩みや不安を共有することで、早期に問題を発見し、適切な対応を取ることができます。必要に応じて、専門機関への相談を促したり、休暇を取得させたりすることで、部下のメンタルヘルスを守ることができます。

 人事としても、これらの効果を最大限に引き出すために、1on1の導入・運用を積極的に支援する必要があるでしょう。マネージャー向けの研修を実施したり、1on1の進め方に関するガイドラインを作成したりすることで、組織全体で効果的な1on1を実施できる環境を整えることができるものと思います。

1on1ミーティングの理想的なシーンを描いています。マネージャーと部下がデスクを挟んで向かい合い、信頼関係の中で対話を行っている様子が表現されています。マネージャーは積極的に耳を傾け、微笑みながら部下の話を聞いており、部下は自信を持って話しているようです。モダンなオフィス環境で、大きな窓や植物、ホワイトボードがあり、暖かい照明と優しい色使いが雰囲気を和らげています。このシーンは、効果的なコミュニケーションと信頼の重要性を強調しています。


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