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教室のアリ 第8話 「4月19日」③ 〈恐怖のランドセル〉

 オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組。
6限終了のチャイムが鳴り、終わりの会が始まった。心臓(ちっちゃいけれど)はドキドキだ。「教室のアリの大冒険」…大袈裟でもなんでもない、人生最大の旅だ。

〈アリ生 最大の勇気 最大の旅〉
 今、オレはランドセルの中にいるんだ。「さようなら!」、元気の良い挨拶が旅の始まりの合図。ランドセルから顔を出して待っていると、ダイキくんが…「うおリャー!!!腹減ったぜーーー」とかなんとか叫びながら猛ダッシュでやってきた。オレ(とランドセル)を奪うように取ると、机に戻った。その次の瞬間、オレの上に筆箱が降ってきた。なんとかギリギリでかわして、潰されずに済んだとホッとしたそのまた次の瞬間には、教科書やらノートやら、紙やらなんやら次から次へとオレを襲ってくるではないか!「ドーン」「ガーン」ランドセルの底が凄まじい音をあげていた。オレは「そりゃ、ジャムもつぶれるよ…」、やれやれと思ったね。で、振り回すようにオレ(とランドセル)を背負うと、玉転がしの練習の時と同じように、「バイバーイ」って言いながらすごいスピードで走り出した。時間にして10分くらい、オレは生きた心地がしなかったよ。走る衝撃と左右に揺れるランドセル。荷物も揺れるからいろんなものが向かってくる。並の運動神経しか持ってないアリだったら死んでいたね。そんな中でもオレは外が見たかったんだ。這って上の方に上がっていき、顔だけなんとか出すことができた。初めて経験する「高さ」から街を見るのは新鮮だった。いつもならすごく高いところにある葉っぱや人間の顔もすごく近いんだよ。風も気持ちよかったし、いつかオレも「この高さで走ってみたい」そう思った。学校から出るのはシロツメグサ事件以来だった。ダイキくんは走ったと思ったら、突然止まる。1分くらい経つとまたまた走り出す。それを繰り返し、遂にダイキくんの家に着いた。人間の家はどんな食べ物があって、学校から帰ってくるとなにをするのか?ワクワクしていた。だけど到着の1秒後、最大級の事件が起きた。

〈ランドセルジェットコースター〉
 なんと、ダイキくんはオレ(とランドセル)を「ただいま〜」と言いながら投げたんだ!オレ(とランドセル)は壁にドーンとぶつかり、教科書2冊くらいとオレは外に放り出された。ダイキくんはすぐに、長い靴下、膝下のズボンにベルトをして長袖のシャツの上に半袖を着て、帽子をかぶり、信じられないくらい大きな手袋と鉄の棒を持ってまたまたダッシュでどっかに行ってしまったんだ!家の奥の方には誰かがいる。オレはその人とふたり(ひとりとひとアリ)っきりになってしまった。わかったことは「人間は意外と忙しい」ということだね。ダイキくんはどこに行ったのか?そんなことを考えながらしばらく待つことにしよう。あ、いい匂いがしてきたな。

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