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教室のアリ 第25話 「5月8日」〈友のために命懸けのジャンプ〉

オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組。

 水曜日の朝がきた。いつもの教室、いつもの笑顔、いつもの先生…でも、ダイキくんだけは違っていた。いつもは落としても拾わない消しゴムを素早く拾い、3限が終わる頃には5年生になって初めて鉛筆を削った。国語・算数・社会…ヒラヤマ先生が黒板に書いたことの多くをノートに書いていた。先生は時々ダイキくんを気にして、いつもより多くあてていた(少なくてもオレたち3匹にはそう感じた)。

 4限は国際コミュニケーション(簡単にいうと英語)。ダイキくんは…力尽きた。この授業はヒラヤマ先生ではなく、ブルーのセーターを着た女の先生と金髪の男の先生が教えていた。
「What’s this? 」
「バナナー」 最初はみんなと同じように元気に答えていたのだけど…体力の限界…気力も尽きて…まぶたが下がってきた。
「がんばれ!」まるおが叫んだ!(もちろん、聞こえない)
ダイキくんの瞳は閉じられた。右ほほを机につけ、窓の方を向いていた。その時だ!まるおは床に飛び降りてダイキくんの机に向かっていった。続けて、ポンタも飛んだ。
「マジか??死ぬ気か?」オレは言った。
「助けるんだ、起こすんだよ!」まるおは進んでいく。ポンタがそれを追う。こいつらは命知らずのバカだ。でも、シュニンに責められ、家でも何か言われた(はずの)ダイキくんのために飛び、歩く2匹をオレは誇りに思う。だから、オレも行く。踏まれたら、一瞬であの世行きだ。足をバタバタしている子どももいる。鉛筆が降ってくるかもしれない。授業中に教室の真ん中に入って行くなんてこの2匹と出会う前のオレでは信じられない。でも、今は違う。人を助けるために(大げさ)前へ!
「キャー!」いきなりサクラさんが叫んだ。まるおが見つかった。
「先生、大きな丸いアリがいます!」サクラさんの言葉に教室の後ろで授業を見ていたヒラヤマ先生が答えた。
「落ち着いてください。(やばい、机に隠しているお菓子がバレたのか→心の声)アリさんも、天気がいいので散歩ですかね?ほっといてあげましょう」いいぞ!ヒラヤマ先生!
 ダイキくんはサクラさんの大きな声で目が覚め、再び授業に集中した。オレたちは、『天気がいいので散歩しているアリ』を演じて元の場所に戻り、カーテンの影に隠れた。

〈どうした!?ダイキくん〉
 給食と休憩時間が終わり、5限と6限は体育。運動会の練習だ。さぁ、元気満々の子どもたち、そしてダイキくんが見られるぞ!オレたちは窓を開けて(自分たちで開けたわけではない)グラウンドを見つめた。まずは、走って『棒」をみんなでつなぐ。2組はスタートしてからずっと2位だった。そして『棒』はダイキくんに渡された。ダイキくんは…3位になってしまった。抜かれたんだ。
「あれ?足が速いんだよね?」まるおが聞いた。
「そうなんだけど…」オレはそう答えるのが精一杯だった。あんな姿は初めて見た。
 コタポンまるは『ダイキくん元気復活プロジェクト』を始めることにした。

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