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教室のアリ 第10話 「4月21日」 〈ダイキのリュック、戦争について〉

 オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組。

日曜日の朝がきた。お掃除があまり得意ではないダイキくんのママのおかげでお腹は満タンだ(キッチンの隅に好物があった)。そしてオレはリュックに忍びこんでその時を待った。8時半(オレは時計が読める)、金曜日のように乱暴に扱われるかもしれないからリュックの中で身を守っていると、宙に浮くような感覚がした。どうやらダイキくんに背負われたようだ。「いってきまーす!」。昨日の落ち込んだ感じはどこかに飛んでいったようだ。

〈小さなアリが踏み出した小さな一歩〉
今、オレは自転車に乗っている。勇気を出してリュックから顔を出してみた。「速い」「高い」そして、「とっても気持ちいい」。もし、教室にいたままだったら、こんな気持ちにはなれなかった。ずっと窓から元気な子どもたちを見ているだけだった。一歩を踏み出して良かったと心から思う。アリでもできたんだ。小さなオレでもできたんだ。

〈競うこと、戦うこと、生きること〉
川を見ながら自転車に乗って進んでいると…「キキーー!!」。ありえないくらいに急に止まった。オレはリュックから飛び出すかと思ったよ。グラウンドには同じ服を着て同じ帽子をかぶった子どもたちが30人くらい集まっていた。そして、10人くらいのママもいた。2列になって声を出しながら走り出すと、次は小さなボールを投げあっていた。その時、グラブの使い方を初めて知った。次に鉄の棒にボールを当てると、ボールは遠くに飛んでいった。遠くに飛べば飛ぶほどダイキくんは喜んでいた。これは「野球」と呼ぶスポーツらしい。隣のグラウンドでは「サッカー」をしている子どもがいた。思ったことは人間っていろんなことで喜べる。じゃんけんで勝った時、走って人より速かった時、玉転がしで勝った時…勝ったり負けたりで喜んだり悲しんだりする。アリは生きていくだけで喜べるのに…そう言えば先生が授業の前にこんなこともを言っていた。「国と国が戦っています。悲しいことです。争いは良くないです。」どっちなんだろう?いろんなことを考えていると、野球は終わった。オレはまたリュックに入り、風を浴びて家に帰った。あしたは学校に戻ろう。

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