教室のアリ 第34話 「5月14日」〜「5月24日」〈川の名は?〉
オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組で名前はコタロー。仲間は頭のいいポンタと食いしん坊のまるお。
〈個匹活動〉
オレたちは楽しくやっている。掃除の時もホウキで掃かれる大ミスはしなくなった(たまにまるおが危ない)。最近は3匹ではなく、それぞれで行動することも多くなってきた。それぞれ好きな授業があるだろうし、勉強したいことも違うだろう。オレは海に行きたいから、社会の授業(オレはどこに住んでいるのか?どうやって海に行くのかのヒントを探している)と文字をもっと読めるようになりたいから国語が多い。3年生から6年生くらいまでが中心だ。ポンタは算数が多いかな。まるおは…家庭科の調理実習に行って、
「キャーキャー言われたんだ!ボク、人気者かも」って帰ってきた。アホなのか鈍感なのか…太ったアリが調理実習で見つかったら大騒ぎになることくらいわかって欲しい。あと、体育を真剣に見つめている。まるおの話では5年2組は運動会に向けて「順調」で、ダイキくんも「ぶっこ抜く」らしい。で、3匹いっしょなのは給食の時とみんなが帰ったあとが多くなった。少し寂しいけど、それだけ学校に慣れたってことだから良しとしよう。
〈シュニン、再び〉
子どもたちが帰って、教室がオレンジなったいつもの時間、いつものように外を眺めていたら、花壇のところにあいつ(シュニン)とヒラヤマ先生がやってきた。口から煙を吐きながらシュニンが言った。
「少しは勉強をしているのか、ダイキは?」
「しています。この前も復習で出した都道府県のプリントをしっかりやってきました」
「都道府県って、それ4年生の範囲でしょ(薄笑)。大丈夫なのか?」
「はい、都道府県を覚えないと、5年の河川、山地などの理解ができませんから、まずはそこからです」
「まぁ、信じるよ、ヒラヤマ先生。中間テスト次第では…わかってるよね。」
言い方が本当にムカつく。
「あいつ、偉そうだよな。この前、体育の授業にお助けマンとか言って、威張って出てきて、走ったら転んだくせに」まるおはよく見ている(体育に限る)。オレたちはシュニンにイライラした。でも、何もできない。ただ見て、イライラする。オレたちが出来るのは、エサを見つけて運んで、集めて、食べる。それが生きることだ。前にも言ったけど、人間は違うようだ。人間もそうだったら楽なのに、でも食べ物を見つけられなかったらあの世行きだ。
〈ヒラヤマ先生、ありがとう〉
何日も同じような日々が続いた。運動会の練習はオレが見ても『気合い』が入っている。大きなボールを運ぶのは上手くなった(上から目線)。体育が終わって、給食を食べて少し眠い5限は社会だった。まるおは教室の後ろのロッカーで寝ている。オレはなんとか我慢してポンタと授業を受けていた。
「日本で一番長い川はなんですか?」ヒラヤマ先生が聞いた。
「シナノガワー」子どもたちは一斉に言った(ダイキくんは口をパクパクしただけだけど内緒にしておこう)
「正解です。では、学校の近くには2本の川が流れています。わかる人―?」んんん?学校の近くを流れる川?野球の時に見た川のことか?これは、覚えなくては!海に行くためのヒントになるかもしれないとオレは思って、耳を大きくした。サクラさんが手を上げた。
「アラカワとスミダガワです」
「サクラさん、正解です。スポーツをしている皆さんはよくアラカワで練習をしますね」おー、そういう名前か!つまり、オレたちが野球で行って、まるおがあの世行きになりそうになったのは『アラカワ』だったのだ!スミダガワはよくわからないけど…ヒラヤマ先生ありがとう!誰かが地図を開きっぱなしにしたときにアラカワを勉強して『海に行く』準備をするよ。レフトの先にあった白く高い棒の先に流れていたのはアラカワ、アラカワの先には海がある。
それからオレは海とアラカワのことを考えていた。ポンタは計算をひたすらやっていた。まるおは…まるおだ。家庭科と体育が楽しくてしょうがない様子。時は過ぎ、明日は運動会。オレたちがいろんな種類のエサを食べられるビッグイベントだ。
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