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おばけ屋敷でまちづくり㊥ まず身を守り悲鳴で周囲に危機 非日常の体験を学びに

 「子どもが不審者に襲われたらどうしたらいいか」。コミュニティ・スクール(学校運営協議会)の中でもよく議論に上る。私が所属する東松島市の矢本二中学区では「子ども110番の家」活動も意見交換された。

 110番の家は助けを求めてきた子どもを保護し、警察などに通報するボランティア活動。昔は住民の顔が見える環境で、誰がどこに住んでいるのかもわかったが、人口減少や核家族化が進み、日中は不在。いくら「110番の家」の看板を掲げていても、全く接点がない中、子どもも知らない家には入りにくいのではないか。

 だとしたら、まず自分で身を守り、大きな声や悲鳴で周囲に危機を知らせることも手段の一つ。ここで、ようやく「おばけ屋敷」とつながる。

 8月2日にあった矢本西小の「第2回西小におばけが大集合」では、全校児童の約7割以上となる保護者を含め、およそ300人が参加した。怖さの加減で2コース設け、事前に希望を取ったが、いざ入り口に立つと足がすくみ、急きょコースを変える児童もいた。

寄り添って歩く児童たち。後ろから迫る恐怖に気付いた時、どんな行動を起こすのか

 2―5人で1グループを組み、色テープでふさいで光量を落とした懐中電灯、おばけの動きを10秒間止めるお札を持って夜の校舎を歩く。おぞましい装飾や不気味な音源が五感を刺激し、最初の教室に入ることすらためらわせた。

 おばけは児童の恐怖心に応じて怖さのレベルを変える。感染対策で相手に触れない、声を出さないルールはあるが、怖がって前に進めない子の前ではあえて動かず、威勢の良い子には少々こちらも強気な態度。こうした加減が大事であり、同じせりふと立ち回りの舞台役者との違いはここにある。

 おばけ役は相手との距離、出没するタイミングとスピードが重視され、そこに演技力が加わる。後ろからじわじわ追うゾンビ、わき道からすっと現れる猟奇的なマスクの男、その場を動かず、鋭いまなざしを向ける髪の長い女…。

 おばけ屋敷は冷静に考えれば全て作りものの世界。でもこの世界観に引き込まれた児童は、あたかも襲われる恐怖心を抱き、その場を逃げる。または硬直して動けなくなる。と思えば友達をかばったり、大きな悲鳴を上げたりするなど普段の生活ではあまりない行動を見せた。

 安全なおばけ屋敷の中での非日常の恐怖体験は「自分の中のもう一人の自分」と向き合うことができ、それは新たな気付きや学びにつながる。真の自分を知るには、こんな機会も必要ではないか。【外処健一】





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