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最大級津波は「避難」第一 県が浸水想定公表 自治体防災計画見直しへ

 県が10日に公表した最大クラスの津波による浸水想定は、最悪の場合を考慮し、東日本大震災の浸水域を上回るものとなった。復興のまちづくりでかさ上げされた市街地も影響が及び、数百年に一度の規模の津波は防潮堤などの構造物だけに頼らず、自治体に「避難」を軸とした対策を促す内容。震災を経て内陸部に安住の地を求めた住民には不安と戸惑いが広がり、明確な説明を求める声が聞かれた。

【石巻市】新市街地も1メートル以上 
高台の駐車場を検討

 石巻市の浸水面積は震災時の約1.16倍。震災の移転先として内陸部に造成した住宅地にも津波が達する。このうち新蛇田地区ののぞみ野、あゆみ野は造成前に50センチほどの浸水があったが、新たな想定では2メートル前後とされた。

 石巻赤十字病院近くにある新興住宅地のわかばも、1メートル以上の浸水想定。震災で津波は来ておらず被災して移り住んだ人が多い。南浜町で被災した木村一男わかば町内会長(72)は「海からかなり離れているので津波の心配はないと思っていたが」と戸惑い、「どこへ逃げればいいのか。行政にはしっかりとした情報を示してほしい」と求めた。

津波の避難場所として適さなくなる所も(石巻市蛇田地区)

 災害医療拠点の同病院は、もともと洪水を想定して設計しており、建物や設備はある程度対応が可能という。広域的な患者搬送などは「地域の医療機関や行政機関をはじめ、県、国と協議していく必要がある」(同病院)とする。

 県の公表に対し、齋藤正美市長は「想定外をなくし、『何としても人命を守る』避難の範囲を示すために設定された」と受け止めを述べた。その上で「地域防災計画などの改定を進め、必要な対策を講じていく」とした。

 市では蛇田中央公園や高玉神社の広場といった避難場所が津波に適応しなくなり、学校などの建物も想定の浸水深によっては使える階層が狭まる可能性がある。半島沿岸部では高台の移転団地まで津波が到達しない予想だが、原発事故時の避難道となる県道は低平地で浸水する想定だ。

 さらに津波注意報や警報時にどこまで避難指示を出すかも課題。地域防災計画などの見直しでは、徒歩避難の原則を継続しつつ、歩いて行ける避難場所の確保や場所の見直しを進める考え。同時に現実的には車での避難が多いことから、高台での駐車場所も検討していく。【熊谷利勝】

【東松島市】市域面積の半分に影響 企業誘致、定住に懸念

 東松島市は、海抜3メートルのなだらかな平地に市街地が形成されており、全面積(約101平方キロ)の半分に相当する49平方キロが浸水すると想定された。旧矢本町では大塩の高台と内陸部、小松の一部を除いて浸水区域になり、市役所や防災集団移転団地のあおい地区も含まれた。旧鳴瀬町も野蒜ケ丘や宮戸の高台、上下堤の一部以外が浸水区域となる。

 震災の教訓を受けて同市では、海岸防潮堤と高盛り土道路などの多重防御による災害に強いまちづくりを進めてきた。渥美巖市長は「今回の想定はせっかく作ったこれらのものが全て壊れた場合を想定したもの。そうした説明がなければ住民の不安をあおるだけ。今後の企業誘致や移住定住にも関わる。国や県には、しっかりと対応を求めたい」と語る。

 市は、県担当者による市議会や浸水区域内の自治会長への説明会開催を検討。ハザードマップの見直しや避難者が集う鷹来の森運動公園の機能についても考えていく。

 一方、住民側も今回の発表に困惑を見せる。防災集団移転地のあおい地区に暮らす小野竹一さん(75)は「今さら浸水すると言われても」と困惑。「防災訓練では他地域からの避難者を受け入れる訓練を進めてきた。ゼロから見直さなければならない」と語った。防潮堤が壊れる想定に対しても「不安に思う人も出てくる」と苦言を呈した。【横井康彦】

【女川町】高台移転の役場も被災 住民受け止めは冷静

 震災で最大14.8メートルの津波が発生した女川町は、新たな想定でそれを超える最大20.7メートルの津波が押し寄せる。かさ上げされた女川駅や駅前商店街だけでなく、海抜約20メートルの高台に移転新設した役場すらも3~5メートル浸水する可能性がある。

 町の担当者は「正直困惑しているが、防災計画を見直すべきところは見直す。県には当然、住民への懇切丁寧な説明を求める」と話す。須田善明町長は「浸水想定に含まれたとはいえ、発生確率や頻度を考えれば役場の移転やさらなる過度なハード対策は現実的でない。機能代替の手法検討などソフト的対応が適正と考える」とコメントした。

 住民の受け止めも冷静だ。駅前の青果店「相喜フルーツ」の相原義勝店主(74)は「いつどれだけの津波が起こるか分からないというのが震災の教訓。より高い所に逃げるという意識は住民に根付いており、想定が何であれ命を守るために、やるべきことは変わらない」と語った。

 町に立地する東北電力女川原子力発電所は、令和6年2月の再稼働を目指し、安全対策工事が進む。防潮堤は海抜29メートルの高さとなり、最大級の津波想定も耐える構造になっている。【山口紘史】





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