不二宮央

福島県出身の小説家、エッセイスト。 雑誌「カルチェラタン」(ヤネウラ出版)にて、小説「…

不二宮央

福島県出身の小説家、エッセイスト。 雑誌「カルチェラタン」(ヤネウラ出版)にて、小説「絡龍巣の古美術商」と旅エッセイ「ゆらぎ、おんな旅」を連載中。 書籍:「飛行機雲のむかう先」・「夏の備忘録」・「梅屋敷の狐」・「残り香」・「99の星屑」・「不親切なお料理の本」

マガジン

  • 眠れない夜にどこかの旅を

    私がどこかの街に出かけた時のエッセイをまとめています。

  • 不二宮央のエッセイ手帳

    日々のエッセイをまとめました。

  • 「今日はなんの日?」

    毎日note365日達成を目指して、今日という日が何の日なのかをテーマにエッセイを綴っています。

最近の記事

生家へ帰る2023年の冬の道中

 生まれ育った故郷に帰る。それもまた、私にとっては一つの旅なのだった。  関東圏に引っ越してきてから、もうすぐ8年になる。初めて住んだ埼玉県は最寄りの新幹線駅が大宮だったために殆ど東京駅に訪れたことがなかった。3年前になると思うが、横浜に引っ越してからは向かう先によって東京駅と品川駅を使い分けている。おかげで魔界と呼ばれる東京の主要駅の中でも、東京駅だけは迷わずに目的のホームに向かえるようになった。(新宿や渋谷、池袋のことはさっぱりわからない。昔上京したばかりの頃に友人が「

    • ポストカード文通①

       北海道に住む肉親から住所の確認の連絡が来たのは11月も終わりの頃だった。  唐突な連絡だったので「蟹でも送ってくれるのか」と下心を出したのだが、黒い猫の配達員が来る気配はない。私はというと、相も変わらず日本全国を飛び回る毎日を送っていた。  住所の確認からちょうど一週間ほど経った頃、郵便受けにポストカードが届いた。くだんの肉親からである。彼女らしい整った大き目の文字、これは何歳になっても変わらないらしい。そして書かれた内容から感じられる明るさ。みっちり文字の詰め込まれた

      • 1年も経ってしまって、慌ただしい1年がまた終わろうとしている。 年の瀬が近づくとこうしてまた何かを振り返りたくなってnoteに目が向いたので、少しずつまた更新をしたいと思います。

        • 38日続いた私の毎日noteですが、体調不良と過労によって更新を週1回に変更することにしました。「今日はなんの日」から新しいマガジン「散文ビスケット」にて更新をしていきます。

        生家へ帰る2023年の冬の道中

        • ポストカード文通①

        • 1年も経ってしまって、慌ただしい1年がまた終わろうとしている。 年の瀬が近づくとこうしてまた何かを振り返りたくなってnoteに目が向いたので、少しずつまた更新をしたいと思います。

        • 38日続いた私の毎日noteですが、体調不良と過労によって更新を週1回に変更することにしました。「今日はなんの日」から新しいマガジン「散文ビスケット」にて更新をしていきます。

        マガジン

        • 眠れない夜にどこかの旅を
          1本
        • 不二宮央のエッセイ手帳
          1本
        • 「今日はなんの日?」
          38本

        記事

          殺生石が割れた日と九尾の狐

           あまりにもぱっくりと割れてしまっていたので、しばらく写真を呆然と見ていた。世が世なら、今頃現地では再び九尾の狐を封印するために町中で大騒ぎになっているに違いない。  私が最後に殺生石を訪れたのは最近で、昨年の11月。その時に見た殺生石はヒビこそ入っていたものの変わった様子はなかった。そもそも、ヒビというのも私が幼い頃から少しずつ入っていたものであるし、秋晴れの清々しい風の吹く中ではとても禍々しさなど感じるはずもない。  殺生石に封じられているのは九尾の狐という妖怪で、古来

          殺生石が割れた日と九尾の狐

          サンゴの日と修学旅行

           このご時世になって、学校行事もできないという学生さんが多いことに心が痛む。社会に出ればその殆どがもう関わることのない昔の人になってしまうのだけれど、それでも長い人生の中の一瞬を思い出すのに、学校行事の思い出という役割は大きい。  私が人生で初めて飛行機に乗った歳であり、福島空港から那覇空港までの直行便が出ていた最後の年であり、私が初めて星の砂浜に素足をつけた中学二年生の初夏。  ずっと楽しみにしていた沖縄への修学旅行は、直前に去った台風の影響で海の体験が中止になった。それ

          サンゴの日と修学旅行

          バウムクーヘンの日と窓

           名古屋駅の1階には、バウムクーヘンが作られる様子を見ることができる窓がある。  私が尊敬していた女上司と出張先の名古屋駅で待ち合わせることになった。「尊敬していた」と過去形なのは、彼女がもうこの世にはいないからで、尊敬しているという気持ちは変わらない。  あれは季節がいつの頃だったか忘れてしまったけれど、先に着いた私は手持無沙汰だったので、ずっとバウムクーヘンを見ていた。くるくると回っている様子がなんだか心地よくてずっと眺めていると、彼女からの着信だったかメールだったかで

          バウムクーヘンの日と窓

          桃の節句とお雛様

           生家には、母方の祖父母からいただいたお雛様がある。  漆塗りの七段のお雛様は、お雛様の髪飾りから牛車に至るまでひとつひとつを飾り付ける。幼い私どころか、今の私でもすっぽり入ってしまいそうなほどの大きな箱に、雛人形やお道具の箱がまるでパズルのように仕舞われていて、私は雛人形を飾るよりもこのパズルを解く方が難しくて嫌いだった。  今思えば、こんな立派な雛飾りを買うのは大変だっただろう。決して裕福ではない母方の両親が、私のためにこれを贈ってくれたのだ。  人形というのは人と同じ

          桃の節句とお雛様

          スーツを仕立てる日と様になる

           これは私の偏見なのだけれど、どうしてか日本のサラリーマンのスーツ姿はどうしてもスマートなカッコよさというものを感じられなかった。頭にネクタイを巻いて泥酔するというイメージは、恐らくテレビコメディの擦り込みだとは思う。あまり、スーツを着て仕事に行く人が身近にいなかったせいもあって、それよりも礼服として見ることが多かった。  今の本業の画商業に転職してからスーツは「着こなし」と「自分に似合うサイズ感」がどれだけ重要なのかを知った。季節の寒暖に合わせるだけではない生地の違い、カ

          スーツを仕立てる日と様になる

          再石灰化の日と親知らず

           再石灰化の日ということで、ちょうど歯にまつわる話をするのに、今日ほど最適な日はない。  今日初めて、親知らずを抜歯した。  事の発端は2週間前で、生えかけていた左下の親知らずが急に痛み出した。過去にも何度か歯が生えようとして炎症を起こしたり、腫れたり傷んだりということがあったけれど、今回の痛みはそれとは違っている。親知らずの隣の奥歯がぎゅいぎゅい押されて痛むのだ。あまりの激痛に、私は鎮痛薬を飲み続け三日三晩苦しんだ。二日目の朝4時、疼く痛みで目が覚めた私はそのまま口腔外科

          再石灰化の日と親知らず

          エッセイの日と1ヶ月

           エッセイ記念日ということなので、ここ1ヶ月毎日noteを更新して思ったことを書こうと思う。  正直、毎日はきつい。これが率直な感想。私のように毎日のスケジュールが臨機応変で不確定要素が多い仕事の人間は、毎日何かを続けるということへのハードルが高いと感じた。決まった時間に何かを行う、ということができない。  私もnoteの更新は朝一番の移動時間か、全てが終わった日付の変わり目あたりが多く、大抵物事を考えたりというのはその辺りの時間帯が向いているようにも思う。それに加えて、テ

          エッセイの日と1ヶ月

          Pokémon Dayとあの頃の遊び相手

           ポケモンの日。  私の母はゲームに厳しく、従兄弟のお兄さんたちがお盆やお正月で集まる度にゲームで遊ぶ中、私はなかなかゲーム機を買ってもらえなかった。初めて私が自分のゲーム機を手にしたのは小学2年生のクリスマス。サンタさんが枕元に置いてくれた(もしかしたらクリスマスツリーの下に置いてあったかもしれない)可愛らしいラッピングに包まれたゲーム機は踊り出すほど嬉しかった。ゲームボーイカラーのイエロー。最初のカセットはとっとこハム太郎。なぜか友人の登録はクレオパトラや当時気になってい

          Pokémon Dayとあの頃の遊び相手

          フロリダグレープフルーツの日とギザギザスプーン

           グレープフルーツの食べ方は、やっぱり丸ごとを半分に切って、ギザギザのスプーンですくって食べるのが1番だと思う。  グレープフルーツは、あまり好きな果物ではなかったけれど、ピンクグレープフルーツというものが出てから少し認識が変わった。キウイで言えば、グリーンよりもゴールドが好きなのと似ている。  生家にはギザギザのスプーンが用意されていて、それはいつもグレープフルーツを食べるのに使われていた。グレープフルーツ以前は、何に使っていたのか覚えていない。あのギザギザで、硬いアイ

          フロリダグレープフルーツの日とギザギザスプーン

          とちぎいちごの日の旬

           栃木県は、いちごの産地として名高い。西は福岡が有名だけれど、南東北に育った私は栃木のいちごの方がなじみがあった。  好きな果物は何かと聞かれたら恐らくトップ5には入るいちごは、特に冬になるとスーパーに多く並ぶので、今年は特に週に何度も食べている。  ところで、いちごの旬はいつだろうという話になった時、私は「5月ごろだ」と答えた。これはスーパーの販売時期と大きく異なる。私の生家の庭にはいちご畑があり、私が物心つく前からずっと毎年赤い実をたくさんつけていた。ただ、あまりにも酸

          とちぎいちごの日の旬

          ブルボン・プチの日とガチョウの猛攻

           ブルボン社のお菓子はどれもどこか懐かしく、幼い日々を思い出させるものが多い。その中でも、プチはお出かけとセットになっている。家でバームロールやルマンドを茶箪笥から出してこそこそと食べたあの頃、母とのお出かけはプチがお供をしていた。  もうここ数年は、間食を殆どしない生活のせいでお菓子を食べる機会がめっきり減っている。プチシリーズは甘い物からしょっぱいものまでよりどりみどり、私はこの中でも特にえび満月が好きだ。大人になってもお酒のアテになる味わいと、プチならではの手軽さが良

          ブルボン・プチの日とガチョウの猛攻

          風呂敷の日とお重箱

           生家では、事あるごとに風呂敷にお重箱を包んで渡すという習慣があったため、今も私は風呂敷を必ず1枚は持っておくことにしている。季節に応じて花の模様や色味の違うものもあったら良いだろうなぁと思うこともある。  これは親戚付き合いあるあるなのだけれど、お重箱をきちんと洗って戻してくれる家は案外少ないので、母も今は使い捨てのパックで包んでいくようだ。正解だと思う。  私はお重箱を使うのがお正月のおせち(食べたいものだけを詰めた豪華箱のこと)だけなので、螺鈿細工風の桜の柄のものし

          風呂敷の日とお重箱