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バウムクーヘンの日と窓

 名古屋駅の1階には、バウムクーヘンが作られる様子を見ることができる窓がある。

 私が尊敬していた女上司と出張先の名古屋駅で待ち合わせることになった。「尊敬していた」と過去形なのは、彼女がもうこの世にはいないからで、尊敬しているという気持ちは変わらない。
 あれは季節がいつの頃だったか忘れてしまったけれど、先に着いた私は手持無沙汰だったので、ずっとバウムクーヘンを見ていた。くるくると回っている様子がなんだか心地よくてずっと眺めていると、彼女からの着信だったかメールだったかで我に返る。彼女も着いたと言うので辺りを見回したが姿が見当たらない。一度駅を出てこちらから連絡をすると、どこからともなくひょっこりと現れた。
「どこにいたの?」
と言うので、
「バームクーヘンをみてました」
と返すと彼女は不思議そうにそんなのあったかなと言うのだった。
 甘いものが嫌いだから仕方ないかとその時は思ったのだが、私は後に彼女の姉から「甘いもの嫌いじゃないよ、プリンとか食べてた」と衝撃の事実を知ることになる。

 ビールがとことん好きだった彼女は、亡くなってしばらくは私の大好きだった祖母や祖父よりも頻繁に夢に出た。最初の頃は怒ってばかりいたが、ある時「あとは任せた」などと言って、それ以来笑ってくれるようになったのでほっとしている。彼女は怒ると怖い。
 昨年は自分の(私のではなく彼女の)誕生日付近で夢に出てきた。
 今年は誕生日よりも少し早い登場だったけれど「米風亭(※)に行こう」と言うので、夏の札幌出張の際は彼女と私のお気に入りのビールを飲みに行かなければならなくなった。

※米風亭…北海道札幌市すすきのにあるダイニングバー。世界各国のビールが楽しめる。1番の看板メニューは「油そば」。

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