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生家へ帰る2023年の冬の道中

 生まれ育った故郷に帰る。それもまた、私にとっては一つの旅なのだった。

 関東圏に引っ越してきてから、もうすぐ8年になる。初めて住んだ埼玉県は最寄りの新幹線駅が大宮だったために殆ど東京駅に訪れたことがなかった。3年前になると思うが、横浜に引っ越してからは向かう先によって東京駅と品川駅を使い分けている。おかげで魔界と呼ばれる東京の主要駅の中でも、東京駅だけは迷わずに目的のホームに向かえるようになった。(新宿や渋谷、池袋のことはさっぱりわからない。昔上京したばかりの頃に友人が「スタンプラリーでも作ってあげようか」と笑っていたことを思い出す)。

 今年1年は、特に故郷を訪れる機会が多かったように思う。特に何か用事があったわけでもないのだが、今までは「家を出たら他人になる」という感じがしていたから足が向かなかった。家族仲もその頃は良くなかったと思っているが、それはおそらく私がまだ「人間」になっていなかったせいなのだと思う。これについてはまた別のエッセイで書きたいと思っているが、とにかく私はここ3年の間に「人間」へと相成ったのだ。

 さて、盆正月の帰省という一大イベントも私にとっては日常の延長に過ぎないのだが、それでも故郷への旅は面白い。東京駅から生家のある福島県まではたった一時間半弱の道程だ。三人掛けの指定席には、まだ私だけが座っている。仙台行き。私と同じ駅で降りる人はどのくらいいるだろうか。わざわざ各駅停車の仙台行きなのだから、きっと各駅でないと停まらない駅が目的地の人も多いことだろう。

 私は先月の末から、沖縄、群馬、長崎、鹿児島、北海道と出張を重ねていたので気温差で風邪を引きそうだ。寒い場所に慣れているせいなのかいつも薄着をしてしまいがちな私は、いつも誰かに心配をされている幸せ者。
 どこから雪景色に変わるだろうか。今年は雪が少ないらしい。昨晩新千歳空港からの発着が遅れたせいで終電を逃して羽田空港近辺のホテルに宿泊して、大急ぎで荷造りをし直して東海道線に飛び乗ったら遅延、京浜東北線に乗り換えてなんとかことなきを得た。楽しみにしていた駅弁を買えなかったので心がひもじい感じがする。家族へのお土産も買えなかったので、年末はとびきり美味しい料理を作ろう。車内のあちこちから「カシュ」と缶を開ける時の小気味良い音がしている。ふんわりと美味しそうな匂いも。今回は窓際の席ではなく通路側を選んだ。このところ、新幹線でも特急でも飛行機でも通路側を選びがち。すぐに立ち上がって出ていけるので、もしかしたらせっかちになったのかもしれない。少しずつ自分が変わっていくのを感じるのは、生まれ変わりのようで心地良かった。


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