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サンゴの日と修学旅行

 このご時世になって、学校行事もできないという学生さんが多いことに心が痛む。社会に出ればその殆どがもう関わることのない昔の人になってしまうのだけれど、それでも長い人生の中の一瞬を思い出すのに、学校行事の思い出という役割は大きい。

 私が人生で初めて飛行機に乗った歳であり、福島空港から那覇空港までの直行便が出ていた最後の年であり、私が初めて星の砂浜に素足をつけた中学二年生の初夏。
 ずっと楽しみにしていた沖縄への修学旅行は、直前に去った台風の影響で海の体験が中止になった。それでも砂浜におりて、少しでも南の海を感じる時間を作ってくれた先生方には感謝している。東北の、冷たく暗い海とは打って変わって明るく透明な海と、真っ白な砂浜には心が躍った。両手で砂をすくい、その砂粒を見て「星の砂だ」と感動したのを覚えている。そうして足元を見ながら歩いていると、サンゴの石になったのが時折見つけられた。その中でもひときわ大きなのを拾うと、私はそれを大事に持ち帰った。私の中では、シーサーや紫芋タルトに並ぶ貴重なお土産だったのだ。

 戦争について学ぶという名目だったのでいくつかの資料館や戦争の「痕」を見学して、あれは忘れもしない、最後に行った場所で私の具合の悪さがピークになった。おばあさんの話を泣きながら聞き、女学生の写真を見て、資料館を出てから飛行機に乗って自宅に帰るまでの間、私は酷い倦怠感に苛まれていて、母が開口一番に「何か連れてきたねあんた」と言ったのは恐ろしかった。次の日にはすっかり良くなっていたのだけれど、しばらくは写真に写る私の顔がはっきりしなかった。

 サンゴは、今でも生家のリビングに置かれている。


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