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再石灰化の日と親知らず

 再石灰化の日ということで、ちょうど歯にまつわる話をするのに、今日ほど最適な日はない。

 今日初めて、親知らずを抜歯した。
 事の発端は2週間前で、生えかけていた左下の親知らずが急に痛み出した。過去にも何度か歯が生えようとして炎症を起こしたり、腫れたり傷んだりということがあったけれど、今回の痛みはそれとは違っている。親知らずの隣の奥歯がぎゅいぎゅい押されて痛むのだ。あまりの激痛に、私は鎮痛薬を飲み続け三日三晩苦しんだ。二日目の朝4時、疼く痛みで目が覚めた私はそのまま口腔外科を予約する。初診でも抜歯してくれるというそこは人気で、予約は二週間待ちだった。
 幸い、痛みは四日目には和らいだので、あとは幼い頃に乳歯を歯医者で抜歯したときのトラウマに苦しめられることになる。

 さて、レントゲンを撮りながら私は緊張していた。
 私の親知らずのうち、上は左右どちらもすっかり生えきっていて生活に支障はなく、度々炎症を起こす右下(もしかしたら虫歯かもしれない…)と左下(今回の原因)をまじまじと観察する。左下は案の定歯茎の中で見事横たわっていた。隣の奥歯にがっちりとかみ合っている。一方右下も大方生えかかっているものの、やや奥歯を押し上げている状況だった。
 こうなったらどちらも抜いてしまうか、と思ったのだけれど、医師の話を聞いて一本に留めた私をほめたい。こんなのを1日に2回もやったらショックで頭がどうにかなりそうだ。
 医師のアドバイスを聞いて、抜歯するのは今後のリスクが高いという右の親知らずになった。

 まず麻酔。これが一番のトラウマの原因で、ただでさえ痛い注射にギリギリとした激しい痛み、あまりにも麻酔が痛すぎてどうやって歯が抜けたのかすら思い出せないが、歯を抜くとき特有のぎゅっとした激痛は今日歯を抜きながら思い出した。みしっと軋むあの痛みだ。
 今回は表面麻酔、麻酔、抜歯という流れで、麻酔をする前に表面を麻酔してくれるというのは少しほっとした。実際麻酔は少しちくりとして、そのちくちくとした痛みが少し続くという感じ。私はそれで施術が終わったものと勘違いして絶望した。まだ歯は1ミリも動かしていない。その時点で全身がぶるぶる震えて止まらなかった。本気で泣き出しそうなくらい怖かった。

 再度レントゲンを撮り、いよいよ抜歯する。
 これは、奥歯に何かカチカチと硬いものが当たる感触が怖く、そして例のキュイィィィィンである。埋もれている歯の部分を削っているのは分かる、何度か歯を押される感覚。歯を無理やり動かすときのあの痛み、しかし今回は私が痛がる都度麻酔を追加してくれた。「我慢しないで」と言ってくれたのと、私が顔をしかめるとすぐに気が付いてくれたのが本当に救いだった。2度麻酔を追加して、私は自分の手が酷く冷たくなっていることに気が付いた。
 歯を抜くときはというと、全く痛くなかった。「歯が動いてきましたよ~」と言われても「そうなのか?」と思っている一瞬のうちに「抜けました」と言われた。抜けたのか?本当に?と混乱している間に縫合もしてもらい、無事に手術は終わった。

 まわりの炎症になりがちな歯茎ごと切り取ってもらい、その大きな歯は抜かれた。まだ震えは収まらず、放心した様になっていたのだけれど「歯は持ち帰れますか」と聞くのは忘れなかった。虫歯ではないと言われたけれど、その歯はあまりきれいでもなく、ただその意外にもずっしりとした重さを指先で感じる。
 持ち帰って歯は洗い、もう一度小さなケースに入れた。次は抜糸に行かなければいけない。その日に左側も抜こうと思っていたけれど、それはまた今度にしようと思った。


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