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11. 名前がこんなに大切だったとは…

英語圏に行かれた時や、英語を母国語とする人たちと話をする時に、まず、名前を聞かれたという方は多いのではないかと思います。
しかも、日本語の名前としての正しい発音を何度も聞かれたりしたことはありませんか?

実は、英語文化の中で、人の名前はとても大切なのです。

英語圏で生活を始めた当初、私はそのことに気づきませんでした。
ただ、みんな、私の名前が珍しいから、発音の仕方をしつこく聞くのだろうと思っていました。

ある日のこと、知り合いの家を訪ね、いつものように「Hello!」と声を掛けたら、半分無視をされ、その後、「えっ、私にHelloって言ったの?」と言われました。勿論、冗談で無視をしている振りをされた訳ですが、その時、日本人は、誰に挨拶しているのか分からない言い方しかしないと指摘されました。
笑いながら親切に英語でのマナーを教えてもらったのですが、それまで、そんなことは一度も考えたことのなかった私は、驚いてしまいました。

よく考えてみると、他の人は、確かに「Hello, Eiko!」など、名前を付けて呼びかけているのです。
例えば、相手が複数だった時には、「Hello, everyone!」とか、「Hello, guys!」などとする時はあるものの、誰に対して言っているのかが必ず分かるように、挨拶に「呼びかけ」の言葉が付け加えてあります。

これは、挨拶だけではなく、「Thank you」や「I'm sorry」などにも言えます。気をつけて聞いていると、確かに、みんな、誰に対して言った言葉なのかが分かるように、名前を付けているのです。
例えば、食卓で何かを取ってもらおうと頼む場合など、その人に向かって、その人以外に話し掛けているとは誰も誤解しない場合であっても、必ず、話し掛けている相手が分かるように、呼びかけの言葉が加わります。
話し掛けている相手がはっきりしている場合には、主語でさえ省略してしまう日本語とは、ちょっと違いますね。

この呼びかけには、相手の名前を使うとは限りません。
ホテルやレストランなどで、女性に「Ma'am(Madam)」と呼びかけたり、男性に「Sir」と呼びかけたりするのを、耳にしたことがある方は多いと思います。
それ以外に、子供や恋人、パートナーなどを、Sweetie、Sweetiepie, Sweetheart, Love, Baby, Honey, Darlingなどと呼んだりもします。が、とにかく、呼びかけを加えるのです。

子供達を急がせる時には、「Come on, boys(girls)!」とか「Come on, kids!」などと言ったりもします。

シドニーへ遊びに行った時、こんなこともありました。
確か、シティから空港へ向かうバスの中だったと思いますが、バス停に向かって走ってくる乗客を、ドライバーが待ってあげたのです。
そうしたら、乗ってきた二人の乗客は、「Thank you, Mr Driver!」と言っていました。
名前が分からない時にはそういう言い方も出来るのかと感心したものです。「Thank you」だけよりは、ドライバーに対して言っていることがはっきりする為、感謝の意が強まりますよね。ただ、普段は「Thank you, Driver!」と、MrやMsを付けない人の方が多いような気がします。

相手の名前が分からなかったり、思い出せなかった時に使える「技」として、即興で名前を作るということも出来ます。

若い又は、若いと言われると素直に喜んでくれる年齢の人を対象には、「Young Lady」という呼びかけも使いますが、これは一般的です。
そうではなくて、例えば、ラグビーがとても好きな人のことを、Mr Rugby Crazyと呼んでみたり、おしゃべり好きな女性を、Miss Chatterboxと呼んでみたりも出来ます。これらは愛称のようなものですが、使用する場合には、冗談の通じる相手であることや、相手との関係、場所や状況によって、失礼の無いように気を配る必要があります。

英語の世界では、会話の中に「呼びかけ」の言葉を取り入れることが重要であることは、なんとなく分かっていただけたでしょうか?
呼びかけには、いろんな形を用いることが出来ますが、やはり基本は「名前」です。

しかも、呼びかけに使う為だけではなくて、英語文化の中では、「名前」自体が大きな意味を持つようです。

ある時、学生の頃にブラジルに留学していたという友達から、「ブラジルの人たちは私の名前を正確に発音出来なくて、嫌な思いをした」という話を聞きました。
ニュージーランドの友人たちは、私の名前を正確に発音しようと必死になってくれます。
私の名前について、お互いに「あなたの発音は間違ってるわよ」とか、「**は英子の名前を正しく発音出来なくて、嫌よねぇ」などと話題にしてくれますが、日本語的な発音がきちんと出来る友達は1人もいません。
「嫌でしょ」と聞かれても、私にとって名前を呼ばれる際に重要なことは、「私を呼んでいるということが分かる」ということであって、本来の日本語的発音からはかけ離れた英語的発音で呼ばれても、気にならないし、不快にも感じません。
それより、そのブラジルに留学していた友達の名前を、私も正確に発音出来ていないんだろうなぁと思うと、彼女の名前を呼ぶ度に、申し訳なく感じてしまいます。

ニュージーランドで暮らす移民の人たちの中には、母国で使っている名前ではなくて、英語の名前を新しく持って、通称として英語名を使っている人もいます。ニュージーランド人の友達はみんな、このことに反対します。自分の名前を大切にするべきだと。
ある友人に、こんなエピソードを聞いたことがあります。ヨーロッパから移民してきた知り合いに、英語名なんか使わずに、自分の本当の名前を使えばいいじゃないかと、本名を教えてもらったそうですが、残念ながら、英語を母国語とする人には発音不可能な名前だったそうです。それで、諦めて、英語名で呼ぶことにしたとか。
そんなこともあるんですね。

「名前」は、その人を表す名称として、深い意味を持つと考えられていて、自分の名前にこだわりを持つだけではなくて、相手の名前も大切にしようとする人は多いようです。

友人宅のパーティへ招かれて行くと、必ず、両者を知っているという人が間に立って、紹介をしてくれます。ホームパーティの主催者(ホスト)が、ゲストそれぞれの名前を紹介してくれる場合が多いのですが、カジュアルな集まりだと、BBQの準備などに忙しい主催者から、「自己紹介は勝手にやってね」と言われ、それぞれが自己紹介を行う場合もあります。この際も、それ以降の会話で必要になるので、参加者の名前を覚えることは重要です。

ビジネスの場面でも同じことが言えます。クライアントの名前を覚えて、会話の中で頻繁に使うことは、良い関係を築く上で欠かせません
名前のスペルを教えてもらったり、名刺をもらったりすると、名前を覚えることは容易になるのですが、必ずしも正しい発音が出来るようになるとは限らないので、発音もしっかり教えてもらった方が良いかと思います。あまりにも難しい時は、他に気に入っている呼び名が無いかを聞いてみるという手もあります。

ここのところ、仕事関係のネットワークミーティングに続けて招待されていますが、次々と紹介してもらう他の参加者の名前が覚えられず、苦労しています。ふと気がつくと、覚え易い名前の人とばかり話をしていたりすることがあります。

私は、どんなふうに私の名前を発音されても、私の名前であることさえ理解出来れば気にならないのですが、英語圏の人たちにとっては、正しい発音で名前を呼ぶことが重要であると知ってからは、英語の名前に対して、余計にプレッシャーを感じるようになりました。
しかも、会話の中でその苦手な名前を使わなければならない。

でも、苦手なものは苦手なんだから、仕方がないですよね。
最近では、英語の名前を覚えるのは苦手だから…と言い訳をしながら、何度も名前を教えてもらうことも出来るようになってしまいました。
また、ミーティングなどでは、覚え易い名前の人とまず話をして仲良くなり、「向こうにいる人の名前はなんだったかしら」などと、他の人の名前を教えてもらうという技も身に付けました。

英語を母国語とする人たちの中にも、名前を覚えるのが苦手だという人もいます。
そういう人たちが、さりげなく相手の名前を確かめたりするのを聞きながら、名前が思い出せなかった時に使える「技」として参考にしてみてもいいと思います。

自分の名前と似ている発音の英単語や英語圏の名前を例に挙げたり、名前の漢字の意味が説明出来るようにしたり、ニックネームを考えておいたりと、英会話の中で相手に自分の名前を覚えてもらい易くする工夫をしておくことも、実践英会話の中ではとても役立ちます。

とりあえずは、今後耳にする英会話の中で、「名前」の存在に注目することから始めてみて下さい。

今回の技は:

「相手の名前はしっかり覚えて、会話の中で使いましょう!」




※この記事は、2003年に発行していた「下手英メールマガジン」で紹介していた「下手な英語を使うための技」に加筆修正を加えて、現在無料再掲載中のものです。令和版は、近日有料公開予定!

下手英メールマガジン発行から20年後、「2023年の後書き」:
いまだに、英語の名前を覚えるのは苦手な英子です。これは、ずっと変わらないと思います。

英語圏の人たちの名前へのこだわりについては、ここ数年で、別の視点も持つようになったので、いずれ、新たな記事を書こうと思っています。
名前によって、就活の時に不利になったりといった調査データを何度も目にしたので、実体験も踏まえて、そういった、アジアの人たちが英語圏で生活する上で避けられない不平等問題について書こうと思っています。


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