【第6回】ほんとうにたいせつなら…
執筆:副島 賢和(昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当)
――――――――――――――――――――――――
中学生の男の子とナースセンターの壁に寄りかかって、ある光景を見ていました。
病棟のプレイルームに小学生の男の子とお見舞いに来てくださった担任の先生がいました。クラスのみんなの寄せ書きでしょうか。うれしそうに受け取っていました。「わからなかったら、あけといてもいいからね。院内学級の先生と一緒にやってもいいからね」と宿題のプリントを渡されていました。とってもとってもあたたかい雰囲気でした。
その様子を、中学生の男の子と眺めていたのです。彼は、普段から、「お見舞いなんて来なくていいんだよ」と口にしている子です。でもその時は、とってもさびしそうな表情をしていました。
私は、高学年から中学生くらいの子にかかわる時は、できるだけ見えたままを返すようにしています。「何があったの?」「どうしたの?」「理由は?」とは尋ねません。
この時は、「なんかさびしそうだね」と彼にそっと言いました。すると彼が、
「べつにさびしいってわけじゃないけど、俺のことを本当に大切に思うなら、今俺がどんな状態か見に来いよ!」
とおさえた声で言いました。
病院のスタッフの方は気がついていらっしゃると思います。学校の先生が、お見舞いに来ることはほとんどないですよね。
子どもたちにきいてみると、1割来てくれているでしょうか? 来てくれるのは毎回同じ先生だったり…
学校の先生も多忙で、面会の時間に間に合うことは難しい状況でしょう。目の前の子供やクラスの出来事で精一杯かもしれません。せっかく足を運んでも、保護者の許可を得られていなくて、子どもに会えないこともあります。週末に来てみたら、退院していたということもあります。コロナ禍のこの状況では、面会はほぼ叶わなくなりました。保護者でさえ制限があるのですから…
学校の先生にお願いをしていることがあります。それは、
「あなたは私のクラスの大切な一人なのです」
ということを入院加療中の子どもたちに伝えて続けてくださいということ。
もちろん会って直接伝えられたら良いかもしれません。それが叶わなかったとしても、家族やきょうだいを通しての、お手紙でもメッセージでも、メールやICTを使ってでも、病院のスタッフや院内学級の教員を通してでも良いので、何らかの形で、子どもたちに伝えてほしいとお願いをしています。
そのメッセージが、子どもたちの治療に向かう大きなエネルギーになるからです。
今、子どもたちはどうやって治療のエネルギーをためているのでしょうか? 病院のスタッフもご苦労をされているのではないでしょうか。
ご家族に会うことや、学校からのメッセージが届くこと、病院のスタッフに話を聴いてもらうこと、院内学級に通うことなどを通して、治療のエネルギーをためていた子どもたちです。
このコロナ禍の状況で、エネルギーをためる機会も奪われている子どもたちが、治療に向かうことのできるかかわりを作っていく必要があるでしょう。
一つは、その子が今味わっている感情や感覚を一緒に味わうこと。「あなたが感じている感情や感覚は間違っていない、大切に持っていていい」と伝えること。もう一つは、今見えている年齢でかかわること。私は、この2つを大切にかかわらせてもらっています。
――――――――――――――――――――――――――――――
※本記事は、へるす出版・月刊誌『小児看護』の連載記事を一部加筆・修正し、再掲したものです
★2022年9月号 特集:18トリソミーの子どもと家族の「生きる」をチームで支える
★2022年8月号 特集:COVID-19の経験とともに―変化する人材養成のかたち
★2022年7月号 特集:臨床場面における倫理的なモヤモヤを考える
2021年7月臨時増刊号 特集:重症心身障がい児(者)のリハビリテーションと看護
#院内学級 #心理士 #こどもホスピス #小児看護 #育療 #病弱教育 #ことば #小児 #連載 #出版社