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BtoB価格戦略とサブスクの関係性

なぜ同じような服で素材も同じなのに値段が全く違うのか、なぜお好み焼きは昔よりこれほどに値段が上がったのか。年齢を重ねるに連れて色々知ることで、あまりこのような違和感を抱かなくなっているかもしれませんが、学生時代や若い頃は皆さん思っていたのではないでしょうか。もちろん、原材料価格の高騰や流通の都合など、原価に起因した変化もありますが、顧客に提供する価値に応じて変える、という考え方を探ってみたいと思います。

1.価値と価格設定

"Value-Pricing Thermometer"という概念があります。日本語では「価格温度計」と言われているようですが、英語の表現や元来の目的を踏まえると「価値値付け計」がイメージに近いでしょうか。

20201002_価値値付け計

出典:Harvard Business School Publishing "The Value-Pricing Thermometer"

この概念を構成している変数は以下です。
A. True Economic Value (TEV)
  真の経済的価値、客観的に評価された結果としての価値
B. Perceived Value
  顧客によって認知された結果としての価値
  マーケティング効果が高いほど1.に近似
C. Product Price
  製品やサービスの値付け価格
D. COGS (Cost Of Goods Sold)
  売上原価

この概念の優れている/意欲的な点は、提供者・顧客それぞれの販売意欲・購買意欲を定量的な金銭的価値で表現していることでしょう。すなわち、BとCの差が顧客の購入意欲につながり、CとDの差が提供者の販売意欲につながっていると考えられるということです。
そして、Bの顧客の認知価値が高ければ高いほど、顧客の購入意欲が高まり、これは同時に製品価格を上げたとしても、顧客の購入意欲は一定程度、維持されることも意味しています。

大まかには、しっかり利益を出し販売数量も維持するには、製品価格は製品原価と顧客の認知価値の間で揺れ動く形で定められる、と言えるでしょう。

2.価格設定の方法論

製品原価を考慮した価格設定は"Cost -Based Pricing"、顧客の認知価値を考慮した価格設定は"Value-Based Pricing"と呼ばれます。(厳密に言うと"Cost-Based Pricing"は"Cost-Plus Pricing"と"Markup Pricing"に分かれ、他にも"Competition-Based Pricing"や"Demand-Based Pricing"などの考え方もありますが本稿では割愛します)

前者は原価を踏まえた利益確保を前提とした考え方であり、特定の機能に対してある程度一義的に価格が定められることが多いでしょう。これは製品やサービスの機能が飽和しているような昨今のような状況において価格を変えることは難しいと言え、裏返すと価格が簡単には下がらないとも考えられますが、競合や新興勢力によって価格が崩壊することがあることを歴史は示しています。
後者は顧客の体験価値を充足することを前提とした考え方であり、提供している価値、もしくはその認知のされ方によって価格が変動します。つまり、よいサービスなどで顧客が高い満足度を覚えれば、より高い価格で、より高額なオプションを、顧客に購入してもらいやすくなります。しかし、一方で顧客に飽きられると認知される価値が下がり、顧客によるサービス解約・不買につながり、価格の引き下げにもつながり得る考え方です。

20201002_価格設定

3.ビジネスモデルごとの売上構造の差異

価格設定は営業戦略上、極めて重要な要素です。以前の投稿で述べたサービスの継続的な改善が必須となるコト売りは顧客の体験価値に着目するべきであり、現状、多くのモノ売りの場合においては原価に利益を加味した価格設定を行っているでしょう。

では、モノ売りとコト売りといったビジネスモデルごとの価格設定の考え方の違いを踏まえると、売上への影響はどのように整理できるでしょうか。
シンプルに「売上=単価(価格)×数量」と定義し、売上を平面の面積で表現すると以下のように考えられるでしょうか。

20201002_売上構造の差異

モノ売りの場合、多くの製品で機能や顧客ニーズの飽和が起こっており、製品開発のイノベーションなどがない限り、最初から単価を高く設定することは困難でしょう。結果、営業力の強化によって販売数量を増やそうと努力するものの、単価にはそれに応じて下がる方向の圧力がかかるでしょう(ボリュームディスカウントなど)。したがって、売上や利益の継続的な拡大、事業の成長につながりづらくなっている可能性が高いでしょう。
一方、(目指すべき)コト売りの場合、顧客の体験価値を上げる改善努力をつづけることで、より高額なオプションへの切り替え(アップセル)や他オプションの同時購入(クロスセル)といった単価を上げることが可能になるでしょう。そして、価値が上がれば数量(顧客数など)もそれに応じて上がり、サブスクリプション型サービスなど日常的かつ継続的に利用されるものであれば、その数量が突然激減する可能性は低いと考えられます。したがって、"コト"自体の価値改善を正しい方向で続けられる限りにおいては、売上や利益の継続的な拡大、ならびに事業自体の成長も見出すことができると言えます。
この売上や利益(率)が時系列に沿ってどのように変化するのか、モノ売りとコト売りでどのような違いがあるのか、と言ったことについてはいずれ言及してみたいと思います。

4.最後に

価格設定において原価から利益を加味する形は、現代においてノウハウも定型化されており、細かい原価管理など難解な点もあるものの、多くの企業が行っていることも踏まえて、比較的対応しやすい方法論であるでしょう。
しかしながら、特に日本においては価値に基づいた価格設定は馴染みがないものであり、ノウハウも多くの業界・企業においてほとんど蓄積されていない状況です。
だからこそ、以前の投稿で述べたような顧客の体験価値の提供の仕方・内容(サービス)と合わせて、価格についても継続的な改善が必要となるでしょう。

次回は販売・営業領域における改革の取組みとしてのサブスクリプション型ビジネスモデルの位置づけについて整理し、研究してみたい思います。

本稿および関連する/しない内容についてご質問、ご相談があれば、コメントまでご投稿ください。
是非、皆様と共に新たな発見ができればと思います!

兵頭|顧客接点強化

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