大高誠二

音楽のフレージングとか、拍子などの問題について考えたことを書いていきます。できればク…

大高誠二

音楽のフレージングとか、拍子などの問題について考えたことを書いていきます。できればクラシックもポピュラーも垣根なく役に立つ内容をお届けしたいと思っています。

マガジン

  • 音楽の拍節とフレーズ —時間構造の認知理論—

    音楽の拍子やフレーズを人間の認知の観点から出発して理解しようと試みた理論です。

  • ピアノソナタ『悲愴』のフレーズ構造分析

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ショパン、スケルツォ3番 注意すべき中間部のリズム

(2024年3月11日:比較のための音源を追加) ショパンのスケルツォ3番の中間部にはリズムを誤解しやすい部分がります。少し見ておきましょう。 ショパンのスケルツォはほとんどの部分が4小節ずつの高次小節を作っています。ですから、単にそれぞれの表記上の3拍子を感じるだけでなく、3拍子の小節が4つ集まって大きな4拍子をなしていることを感じていなくてはなりません。 しかしそういう小節のまとまりが、どの小節を1拍目とした高次小節になっているのか、間違いやすい場面もしばしば存在し

    • 【覚え書き】グレゴリオ聖歌の楽譜の読み方

      ネウマ譜グレゴリオ聖歌を記すために用いられる楽譜をネウマ譜という。ネウマ(羅neuma)とは、元は「合図」「記号」という意味のギリシャ語 νεῦμα だった。ギリシャ語のアクセント(音の高低)を示すための記号がネウマ譜の元になったとされている。古代のギリシャ語は元々は大文字だけでなんの補助の記号も付けずに記されていたが、ヘレニズム時代にアレクサンドリアの図書館長も務めたビザンティンのアリストファネス(前257ころ―前180)がアクセント記号を発明したとされている。ギリシャ語の

      • 【覚え書き】モーツァルト『フィガロの結婚』のアリエッタ『恋とはどんなものかしら』で母音が3連続する箇所での歌い方の多様性

        『神戸モーツァルト研究会 第 254 回例会 2017 年 6 月 4 日『もう飛ぶまいぞこの蝶々』を例に日本語歌詞を考える』という資料がインターネットにあって、その後半でモーツァルトの『フィガロの結婚』よりケルビーノのアリエッタ『Voi che sapete che cosa è amor (恋とはどんなものかしら)』の歌詞の乗せ方に問題がある、という話題が出てくる。 具体的には母音が-sa è a- と3つ連続している箇所のことである。 普通イタリア語では、単語間で

        • 古典派のロンドにしばしば見られるリズム(ガヴォット・リズム)について

          ロンドは舞曲ではない 最初に言っておくがクラシック音楽のロンドは舞曲ではない。ロンドはバロック時代のフランスで発達した形式であり、同じメロディーが同じ調で何度も戻ってくるような楽曲のことである。J.-B. リュリ(1632–87)や、F. クープラン(1668–1733)が好んで用いたためヨーロッパ中に広まり、極めてフランス的な意味を帯びた形式となった。フランス語ではrondeauと書くが、他の国ではrondo と書かれることが多い。 だからロンドを日本語で輪舞曲という場

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        ショパン、スケルツォ3番 注意すべき中間部のリズム

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        • 音楽の拍節とフレーズ —時間構造の認知理論—
          5本
        • ピアノソナタ『悲愴』のフレーズ構造分析
          4本

        記事

          フレージングの基礎理論 その4 「メロディーの基本構造」

          今回の記事では、実践で最もよく目にするタイプのメロディーの構造について説明します。 2小節メロディー2小節メロディーの最も単純な構造 前回の記事の結果から、普通のメロディーが次の図のような骨組みを持つことはほとんど明らかでしょう。 中心が1つ目の小節にあるということは、この2小節は全体で大きな2拍子の強-弱の関係を作っているということになります。 最も単純なタイプのメロディーは、このような大きな2拍子を作っている2つの小節の強拍同士を結び付けるように形成されたものです

          フレージングの基礎理論 その4 「メロディーの基本構造」

          フレージングの基礎理論 その3 「フレーズと拍節の関係」

          さて今回は、最小限の音を使ったフレーズの構造を考えることで、フレーズと拍節構造との関係を考察してみたいと思います。 この記事ではフレーズとグループは同じ意味で使っています。 2音のグルーピングの構造最初に考えるのは2音によるグルーピングです。 しかし2つしか音がないならば、それは必ず1つのグループです。というのも、「2つしか音がない」と考えた時点でもう、この2つの音をグルーピングしてしまっているからです。 ですから2音のグルーピングを考えてもあまり意味がないでしょう。

          フレージングの基礎理論 その3 「フレーズと拍節の関係」

          フレージングの基礎理論 その2 「リズムの文法」

          リズムの文法を考えることは可能なのか文法 普通は「文法」と言うと、文章あるいは文字列を生み出すような仕組みを言います。 いくつかの素材と、生成のルールがあって、それらのみを使って生み出されうるような文章や文字列の全体を、その文法に対応する「言語」と言います。 このような言語観はまず数学の分野で「形式言語 formal language」という名の下で発展し、コンピューター・プログラミング言語などに繋がって行きます。それを自然言語の文法研究に応用したのがチョムスキーです。

          フレージングの基礎理論 その2 「リズムの文法」

          【和声】和音の機能の本質についての考察

          はじめに和音の機能について、かつて別の媒体に書いた内容をここに簡単に書き残しておきたい。 和音の機能は普通はルート音によって決まるかのような説明がされるが、これは半分しか正しくない。実際には和音の機能は、ルート音によって決まる要素と、構成音によって決まる要素を合わせたものなのである。 しかし、調の基本的な和音はルート音の上に何の音が乗っているのかが大体決まっているので、ルート音だけ言えばその構成音も含めて指定したことになる。だからルート音が機能の本質であるかのような誤解が

          【和声】和音の機能の本質についての考察

          ショパンのバラード1番に見られるスカート構造を全部挙げる

          スカート構造については次の記事を御覧ください。 m.36からスカート構造の連鎖が始まる(音源)。 mm.36–43は4+4小節のスカート構造。このように細かくフレーズが分かれているものは終結力の乏しいスカートであり、まだ終わりが近い感じはしない。 mm.44–47(音源)は2+2小節のスカート構造。m.44とm.46の中に小さいスカート構造が入れ子になっている。 mm.48–51(音源)は2+2小節のスカート構造だが、それぞれの2小節は小さいスカート構造とみなせる。

          ショパンのバラード1番に見られるスカート構造を全部挙げる

          フレージングとアーティキュレーションという用語について

          フレージング フレージングという用語の本来の意味は「フレーズに分けること(あるいはフレーズにまとめること)」です。これはフレーズ(phrase)という英語の動詞に〜ingを付けて名詞にしたもの(動名詞)です。 フレーズは元々は名詞ですが、それを動詞化して「〜に分ける」という意味にすることが英語に限らずヨーロッパの言語ではよく見られるようです。ただし英語では語尾を変えずにそのまま動詞にしてしまいます。 フレージングはドイツではフラジールングPhrasierungと言います

          フレージングとアーティキュレーションという用語について

          フレージングの基礎理論 その1 スラーとフレージング

          始めにフレーズとは音楽のグループと同じ意味だと考えておきましょう。英語の「フレーズ」という単語を動詞として使うと「フレーズに分ける」という意味になります。ですからフレージングという言葉の意味は「フレーズに分けること」あるいはそれによって分けられたフレーズのこととなります。グループも似たようなものですが、こちらは「グループにまとめる」という意味ですから、元の考え方としては逆です。しかしどちらにせよ同じ対象を扱うものなので、ほとんど同義語であると思ってください。 ここでお話する

          フレージングの基礎理論 その1 スラーとフレージング

          ショパン バラード3番のリズム その1(mm.1–36)

          mm.1–4 mm.1–4は標準形(*)のリズムです。赤い矢印が2小節ずつのフレーズの骨格を示しています。青い矢印は小さい標準形リズムで、2小節フレーズの女性終止を作っています。 (*)標準形とは小節の「強拍→弱拍」や、2小節構造の「強小節の強拍→弱小節の強拍」といった位置に骨格を持つリズムです。 赤い骨格によって作られる構造の内部に、青い骨格によって作られる構造が入れ子になっています。 mm.5–8 mm.5–8も同様です。ただしm.7の最初の音は鳴らしていないタ

          ショパン バラード3番のリズム その1(mm.1–36)

          リズムの概念レベルについて

          リズムの概念レベル リズムには拍子(拍節)・フレーズ(グルーピング)・グルーヴ(ノリ)という3つの概念レベルを考えるべきだ。 大雑把に言うと、拍子(拍節)レベルは強拍・弱拍の構造や、音の整数的な配分に関わる。楽典の知識は、このレベルの初歩に過ぎない。 フレーズ(グルーピング)レベルは音の結びつきのレベルである。フレーズ・レベルは拍子レベルを基礎として成立する。拍子を抜きにしてグルーピングを考えることは不可能ではないが、それは全く別の存在である。 そしてグルーヴ(ノリ)

          リズムの概念レベルについて

          バックビートとアフタービートという用語について

          これらの用語はほとんど同義語として用いられることもあるが基本的な意味が異なるので注意が必要だ。バックビートを特別な意味で使う場合については最後に説明する。その意味を正確に理解するためにはまずは大雑把なレベルから始め、何段階も概念を重ねていく必要がある。 アフタービート アフタービートが示す最も広く基本的な意味は弱拍や拍の弱い部分である。4拍子であれば2拍目や4拍目のことであり、さらにそれぞれの拍の後半部分を指すこともある。4拍子を大きな2拍子と考えれば、4拍子の2拍目と4

          バックビートとアフタービートという用語について

          ショパン ノクターン第7番嬰ハ短調Op.27-1のリズム

          第1〜28小節第1〜10小節のリズム この曲は、冒頭から非常に奇妙なリズムを持っています。このことに最初は気づきにくいのですが、第7小節に至ってその兆候に気づくことになります。 メロディーが、冒頭2小節の序奏の後、第3小節の強拍のE音から始まるとすると、普通のフレーズであれば4小節で終わって、第7小節は強拍のE音から新しいフレーズが開始するはずです。 ところが実際には、新しいフレーズは明らかに第7小節の後半から始まります。伴奏の動き、特にバスの動きは、まるで小節の後半

          ショパン ノクターン第7番嬰ハ短調Op.27-1のリズム

          ショパン ノクターン第6番ト短調Op.15-3のリズム

          フレーズ構造が不規則でかつ曖昧であり、テンポの遅さも手伝って非常にリズムを捉えにくい。おそらく、ショパンのノクターンの中で最も人気のない曲なのではないでしょうか。 第1〜50小節冒頭からとてもやっかいなフレーズが始まります。このようなときに指針となるのは、できるだけ規則的な聴き方ができるような解釈を目指す、ということです。不規則なものは、それ相応の代償を要求します。というのも、不規則なのですから、構造的に重要な場面で音楽が何らかのシグナルを聴き手に伝えて構造パターンが変化す

          ショパン ノクターン第6番ト短調Op.15-3のリズム