見出し画像

古代ギリシャ語の勉強その1

その1では名詞の格や冠詞について、少しの前置詞動詞の時制の初歩など。読みは不正確だがカタカナで書いてある。正しい発音は各自で調べること。

教材が豊富なので新約聖書を使う。聖書ならば便利なサイトがいっぱいあって古代ギリシャ語を学びやすい。よって教材のギリシャ語は、西暦1世紀ごろのコイネー・ギリシャ語になる。

コイネー・ギリシャ語とは、アリストテレスなどの哲学者でおなじみのアテネを含むアッティカ地方や、現在のトルコ西部に当たるイオニア地方のギリシャ語から作られた共通語としてのギリシャ語である。東ローマ帝国の言語として存続し、現代のギリシャ語へとつながる。

資料の都合上、ヨハネの福音書を使う。以下のサイトを参考にする。

文法事項を分析しているサイト
https://biblehub.com/text/john/1-1.htm

本文のギリシャ語テキスト
https://sacred-texts.com/bib/gnt/joh.htm


John 1 ヨハネによる福音書 第1章

1 Ἐν ἀρχῇ ἦν ὁ Λόγος, καὶ ὁ Λόγος ἦν πρὸς τὸν Θεόν, καὶ Θεὸς ἦν ὁ Λόγος.

エン・アルケー・エーン・ホ・ロゴス、
カイ・ホ・ロゴス・エーン・プロス・トン・テオン、
カイ・テオス・エーン・ホ・ロゴス。(音読)

初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった。

エン・アルケー Ἐν ἀρχῇ「初めに」、アルケー(与女単)→ 主単はヘー・アルケー ἡ ᾰ̓ρχή
エーン ἦν「あった」→エイミという動詞(英語のbe動詞に当たる)の直説法未完了過去
ホ・ロゴス ὁ Λόγος「言葉」(主男単)

カイ καὶ「そして」
ホ・ロゴス・エーン ὁ Λόγος ἦν「言葉があった」
プロス・トン・テオン πρὸς τὸν Θεόν「神と共に」→プロス「〜と」、トン(冠詞対男単)、テオン「神」(対男単)

カイ καὶ「そして」
テオス・エーン・ホ・ロゴス Θεὸς ἦν ὁ Λόγος「言葉は神であった」→テオスθεός「神」(主男単)

・まるで古代ギリシャ語の教科書のような文章。英語で言うと、最初に名詞とbe動詞を習う感じ。
・アルケーは女性名詞(第1変化)。女性名詞には、エーで終わるものとアーで終わるものがあるとだけまず覚えて置く。
・ロゴスやテオスは男性名詞(第2変化)。男性名詞はオスで終わると覚えて置く。
・Θはthであり、英語読みだとサ行に近くなるが本来はタ行に近い。
・名詞は活用する。テオスは主格、テオンは対格。
・エーンはエイミの活用したもの。エイミは英語のbe動詞。単独で使えば主語が存在することを意味する。
エーン「有った、〜であった」
カイ「そして」

古代ギリシャ語の種類

Epic ホメロスの時代のギリシャ語のこと
Doric ドーリア方語。西・北の方言。スパルタを建てたのはドーリア人。
Attic アッティカ方言。アテネなど。プラトンとか。
Koine アレクサンダー大王の遠征の後に生まれ、地域の共通語として1000年近く流通したギリシャ語。

名詞には3つの性がある

名詞には3つの性があり、それぞれには単数・双数・複数の数があり、そのそれぞれに5つの格がある。少しずつ覚えて行けばよい。

アルケー ᾰ̓ρχή「初め」(女性名詞)、ロゴス Λόγος「言葉」(男性名詞)、ポース φῶς「光」(中性名詞)


εἰμί(エイミ)動詞(正しくはミ動詞という)

ἦν(エーン)は、εἰμί(エイミ)という動詞未完了過去時制(英imperfect)。未完了過去とは、フランス語では半過去と呼ばれるもので、「〜していた」の意。主語が3人称単数なのでこの形であるが、主語の人称が変われば若干の変化がある。

εἰμί(エイミ)は動詞の中では特別なタイプの変化をするが、変化自体は少ないので比較的覚えやすい。

同じタイプの変化をする動詞にφημί(ペーミ)「言う」がある。この未完了過去はἔφην(エペーン)などと変化する。この最初に付いたεは過去の時制によく付くもので「加音」と呼ばれる。もともとは副詞に由来するもので「そのとき」とか「昔々」などの意味を持っていた(参考)。


2 Οὗτος ἦν ἐν ἀρχῇ πρὸς τὸν Θεόν.

フートス・エーン・エン・アルケー・プロス・トン・テオン。(音読)

この言は初めに神と共にあった。

フートス Οὗτος「これ、後者」(主男単)(指示代名詞)
エーン・エン・アルケー ἦν ἐν ἀρχῇ
プロス・トン・テオン
 πρὸς τὸν Θεόν

・フートスは代名詞。これは主格・男性・単数で、前の文の終わりのロゴスを指している。もちろんめちゃくちゃ活用する。
・第1節の復習
エン・アルケー (与格)
プロス・トン・テオン (対格)

名詞の格について

名詞の「格」は次の5つである:主格(N)属格(G)与格(D)対格(A)呼格(V)。名詞自体が格変化することで、日本語での「〜は(主格)」「〜の(属格)」「〜を(対格)」「〜に(与格)」のような意味を与える。呼格は呼びかけに用いられる。

前置詞は名詞とセットで用いられるが、特定の格としか結びつかなかったり、格によって意味が変わったりする。例えばπρὸς(プロス)は、属格・与格・対格の名詞と結びつく。例えば空間的な意味の場合、属格なら「〜から」与格なら「〜の近くに」対格なら「〜の方へ」などの意味となる。

フートス Οὗτος「これ、後者」の変化は、冠詞の変化とほぼ同じなので恐れる必要はない。ちなみに対義語はエケイノス ἐκεῖνος「あれ、前者」。

男性の冠詞まとめ

名詞には男性・女性・中性の3性があり、冠詞もそれに応じて異なった変化をする。

単語とセットで覚えちゃった方が早い。
ホ・ロゴス ὁ Λόγος「言葉は」(男性単数主格)
トン・テオン τὸν Θεόν「神を」(男性単数対格)。

後で出る単語で別の格も見ておく。
トゥー・パトロス τοῦ πατρός「父の」(男性単数属格)(John 1:18)「ただ父のふところにいるひとり子なる神だけが」
トー・イヨーセープ τῷ Ἰωσήφ「ヨセフに」(男性単数与格)(John 4:5) 「ヤコブがその子ヨセフに与えた土地」

複数は、ホイ・パリサイオイ οἱ φαρισαῖοι「パリサイ人は」(男性複数主格)、 トーン・アントローポーン τῶν ἀνθρώπων「人々の」(男性複数属格)、トイス・マテータイス τοῖς μαθηταῖς「弟子達に」(男性複数与格)、トゥース・アデルプース τούς ἀδελφούς「兄弟たちを」(男性複数対格)。

ギリシャ語には単数と複数の他に双数という、2つセットのものを表す変化形があるが、ここでは省略する。


3 πάντα δι’ αὐτοῦ ἐγένετο, καὶ χωρὶς αὐτοῦ ἐγένετο οὐδὲ ἕν ὃ γέγονεν.

パンタ・ディ・アウトゥー・エネゲト、
カイ・コーリス・アウトゥー・エゲネト・ウーデ・ヘン・ホ・ゲゴネン。(音読)

すべてのものは、これによってできた。できたもののうち、一つとしてこれによらないものはなかった。

パンタ πάντα「全ては」(主中複)→パースπᾶς「全ての」、なんらかの中性名詞例えばプラーグマπρᾶγμα「もの」の複数形が省略されていると考えられる。
ディ・アウトゥー δι’ αὐτοῦ「これ(男)によって」(人称代名詞)(属男単)→アウトスαὐτός、ディは前置詞ディアδιά「(属格か対格を取る)〜によって、通って、〜の間、〜のお陰で」の語尾省略形。
エゲネト ἐγένετο「生じた」(アオリスト直説法中動態3単)

カイ καὶ「そして」
コーリス・アウトゥー χωρὶς αὐτοῦ「これ(男)なしに」→コーリスχωρὶςは属格支配の前置詞
エゲネト ἐγένετο「生じた」(アオリスト直説法中動態3単)
ウーデ・ヘン οὐδὲ ἕν「1つもない」→ウーデ「副 ない」、エン「1つも」
ホ・ゲゴネン ὃ γέγονεν「生じたもの」→ホ(関係代名詞・主中単)、ゲゴネン(完了直説法能動態3単)→ギグノマイγίγνομαι「生まれる」

・「これによって」と訳されているが「これ」が「言葉」を指しているのか「神」を指しているのか分からない。
・ギリシャ語の動詞の変化はかなり複雑。
・アオリストとは『動詞のアスペクトの一つ。 完了・継続・反復といった様相と無関係に,単に一つの出来事として動作・現象を示す』。
・ギグノマイは、ゲネシス「起源、創造」なとと関係がある動詞です。
ディ・アウトゥー (属格)
コーリス・アウトゥー (属格)
コーリス・トゥー・パトロス
「父なしに」、ディ・トーン・アントローポーン 「人々を通じて」

一般動詞(正しくはオー動詞という)

エイミ動詞以外の一般動詞には、基本形がギグノマイγίγνομαι「生まれる」のように「マイ」で終わるものと、カタランバノーκαταλαμβάνω「掴む、勝つ」のように「オー」で終わるものとがある。

基本形が「マイ」で終わるものは、最初から受動態の形で使われる動詞である。「オー」で終わる動詞は能動態の形で使われるもので、それを受動の意味で使う場合は「マイ」の形になる。

古代ギリシャ語には、7つの時制があり、3つの態(能動態・中動態・受動態)があり、4つの法(直説法・接続法・命令法・希求法)があり、また不定詞と分詞がある。とはいえ、全ての組み合わせのパターンが存在する訳ではない。大抵の変化は、元々は語頭や語尾に決まった単語がくっついたものであったので、例外はあるが規則的な部分も多い。

動詞の時制

古代ギリシャ語の時制は大きく分けると過去・現在・未来の3つ。そしてその3つに対応した完了形がある。過去時制は、継続している状態と完結している状態を別の形を使って区別するので、未完了過去(非完結)とアオリスト(完結)が区別される。ただし動詞によってはこれらのうちのいずれかが欠けていることがある。

未来、未来完了
現在、現在完了
アオリスト、未完了過去、過去完了

動詞の完了時制には畳音(じょうおん)と呼ばれる子音を繰り返すような変化が行われるので分かりやすい。また直説法においては過去時制は先頭にεが付加されるので(加音)、これも分かりやすい。

畳音と加音の例を挙げておこう。リューオー λύω「私は緩める」という動詞がある。これの現在完了は例えばレリュカ λελυκα「私は緩めてしまった」 となる。このように子音が繰り返されるのが畳音である。加音の例としては、エリューオン ἔλυον「私は緩めた」、さらに加音と畳音が同時に起こる過去完了形のエレリュケイン ἐλελύκειν 「私は緩めてしまっていた」を挙げる。


4 ἐν αὐτῷ ζωὴ ἦν, καὶ ἡ ζωὴ ἦν τὸ φῶς τῶν ἀνθρώπων.

エン・アウトー・ゾーエー・エーン、
カイ・ヘー・ゾーエー・エーン・ト・ポース・トーン・アントローポーン

この言に命があった。そしてこの命は人の光であった。

エン・アウトー ἐν αὐτῷ「その中に」(与男単)
ゾーエー・エーン
ζωὴ ἦν「命があった」(主女単)

カイ καὶ
ヘー・ゾーエー・エーン
ἡ ζωὴ ἦν「その命とは〜であった」
ト・ポース
τὸ φῶς「光」(中性単数主格)
トーン・アントローポーン
τῶν ἀνθρώπων「人々の」(男性複数属格)

・古代ギリシャ語には不定冠詞がないので、最初に出たゾーエーは無冠詞で書かれている。2回目はヘー・ゾーエーで「その命」となる。ト・ポースは最初から冠詞が付いているがこれは「誰もがよく知っている」という意味が含まれているのだろう。
ヘー・ゾーエー (主女単)
エン・アウトー (与格)
トーン・アントローポーン (属格)

女性の冠詞まとめ

(複数属格は3つの性で同じ τῶν を使う。女性の冠詞で他の性と被っているのは、3性全てで共通である双数の冠詞以外にはない。)
(女性名詞って少ないのか?なかなか見つけられない)

ヘー・ゾーエー ἡ ζωὴ 「命は」(女性単数主格)(John 1:4) 「この命は人の光であった」
テース・ポレオース τῆς πόλεως「町の」(女性単数属格)(John 1:44)「ピリポは、アンデレとペテロとの町ベツサイダの人であった。」
テー・スコティア τῇ σκοτίᾳ「闇に」(女性単数与格)(John 1:5)「光は闇の中に輝いている」
テーン・ドクサン τὴν δόξαν「栄光を」(女性単数対格)(John 1:14)「わたしたちはその栄光を見た」

ハイ・アデルパイ αἱ ἀδελφαὶ「姉妹たちは」(女性複数主格)(John 11:3)「姉妹たちは人をイエスのもとにつかわして」
トーン・エライオーン τῶν ἐλαιῶν「オリーブ(複数)の」(女性複数属格)(John 8:1)「イエスはオリーブの山へ行かれた」
タイス・ハマルティアイス ταῖς ἁμαρτίαις「罪に」(女性複数与格)(John 8:24)「あなたがたは自分の罪のうちに死ぬであろう」
タース・ヒュドリアス τὰς ὑδρίας「水瓶(複数)を」(女性複数対格)(John 2:7)「水瓶を水で満たしなさいと言われたので」

双数は省略


5 καὶ τὸ φῶς ἐν τῇ σκοτίᾳ φαίνει, καὶ ἡ σκοτία αὐτὸ οὐ κατέλαβεν.

カイ・ト・ポース・エン・テー・スコティア・パイネイ、
カイ・ヘー・スコティア・アウト・ウー・カテラベン。

光はやみの中に輝いている。そして、やみはこれに勝たなかった。

カイ καὶ「そして」
ト・ポース
τὸ φῶς「光は」(主中単)
エン・テー・スコティア
 ἐν τῇ σκοτίᾳ「闇の中で」(与女単)
パイネイ
φαίνει「輝いている」(現直能3単)→パイノーφαίνω

カイ καὶ
ヘー・スコティア
ἡ σκοτία「闇は」(主女単)
アウトー
αὐτὸ (対中単)
ウー
οὐ「〜ではない」
カテラベン
κατέλαβεν (アオリスト直能3単)→カタランバノーκαταλαμβάνω「掴む」

・現在形は継続している意味を表すことが多い。
エン・テー・スコティア (与格)

中性の冠詞まとめ

中性名詞は主格と対格が同じという特徴がある。しかも属格と与格は単複ともに男性名詞と共通である。なお双数は3つの性で共通の冠詞を用いる。

ト・ポース τὸ φῶς「光は」(単数中性主格・対格)(John 1:4)「そしてこの命は人の光であった。」
トゥー・プレーローマトス τοῦ πληρώματος「満ち満ちているものの」(単数中性属格)(John 1:16) 「その満ち満ちているものの中から受けて」
トー・ヒエロー τῷ ἱερῷ「宮殿に」(単数中性与格)(John 2:14)「両替する者などが宮殿にすわり込んでいるのを」

タ・エルガ τὰ ἔργα「行い(複数)は」(John 3:19)(中性複数主格・対格)「人々はそのおこないが悪いために」
トーン・セーメイオーン
τῶν σημείων「奇蹟(複数)の」(中性複数属格)(John 2:11)「イエスはこの最初の奇蹟をガラリアのカナで行い」
トイス・ムネーメイオイス τοῖς μνημείοις「墓(複数)に」(John 5:28)「墓の中にいる者たちが」




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?