【和声】和音の機能の本質についての考察
はじめに
和音の機能について、かつて別の媒体に書いた内容をここに簡単に書き残しておきたい。
和音の機能は普通はルート音によって決まるかのような説明がされるが、これは半分しか正しくない。実際には和音の機能は、ルート音によって決まる要素と、構成音によって決まる要素を合わせたものなのである。
しかし、調の基本的な和音はルート音の上に何の音が乗っているのかが大体決まっているので、ルート音だけ言えばその構成音も含めて指定したことになる。だからルート音が機能の本質であるかのような誤解が生まれる。
例えば属和音(ドミナント)、つまりソシレの和音は、調の5度音の上にできる和音なので、Ⅴというローマ数字で表現されるわけだが、その和音の機能には、明らかに導音(シの音、調の長7度音)に由来する部分がある。
さっさと中心となる考えを述べてしまおう。和音に和声機能を与えている要因は、調の和音間のルート音の関係と構成音の半音関係であり、この記事では構成音の半音関係によって機能理論を整理して説明する。
ドミナント機能はシ-ドの半音関係に基づく
普通はドミナント機能の根源は調の5度音であると考えられている。確かに、ベースの動きとしてはそうだろう。だが、ベースを別の要素として考えて構成音に由来するドミナントの性質を考えると、様々な現象を説明しやすい。
例えば調の7度の和音がドミナントである理由を、根音省略などと考える必要がなくなる。
半音関係によって機能を説明する利点はさらにある。それは、ある和音の機能を複数の半音関係の合成によって説明することができる点である。
サブドミナント機能はミ-ファの半音関係に基づく
サブドミナント機能をミとファの間の半音関係に基づくと考えると、4度の和音や2度の和音がサブドミナントである理由を簡単に理解できる。
それに加えて、属七の和音、つまりドミナント7thの7thの音の意味が理解できる。属七の和音は、シ-ドの半音関係とミ-ファの半音関係を併せ持つ和音である。
だから調性音楽におけるトニック機能というのは、ド-ミの長3度を、シとファとの半音関係によって導くことによって最も強く表現されるのである。
そして、和声進行がサブドミナント→ドミナント→トニックと動くというのは、要するにトニックを表現するド-ミの長3度に対して、まずファを出し、その後でシを加えてからド-ミへと動くのが最も好まれる、ということである。
一方、ベースはこれとは独立した現象として、ファあるいはレ→ソ→ドと動く。
トニック機能はド-ミの長3度に基づく
以上のように考えることのさらなる利点は、共通の構成音を持つ短調にも同じ半音関係による機能を考えることができることである。
つまり、ハ長調とイ短調は、共通の半音関係を持つ。トニックを表現するのはどちらもド-ミの長3度である。
ここでもベースと切り離したことが良い結果をもたらしている。ベースのミ→ラの動きは半音の機能関係と矛盾しない。
短調の導音は追加的な機能関係を表現する
調性音楽では短調は普通、自然短音階には存在しない導音を加える必要がある。なぜ必要なのかはここでは問わない。そのような響きが好まれてきた、とだけ考えておこう。
この導音は、自然音階には存在しない機能を付け加えたものと理解できる。それは同主長調のドミナントと同じ半音関係である。
つまり短調には、2つのドミナント機能を表現する半音関係があることになる。短調のV#の和音はこの2つが平行的に協働している。
イ短調の属七の和音はファの音を含まない。だから短調の属七にはサブドミナント機能は含まれない。
イ短調のドミナントにさらにサブドミナントを加えると、短九の和音や、減七の和音になる。これらは3つの機能を併せ持つと言うことができる。
長調のサブドミナントマイナー
短調のVの和音が2つの機能の合成であったのと全く同じことが、長調のivの和音で起こっている。加わったのはハ長調ならばソ-ラ♭の半音関係だ。この半音関係はサブドミナントと平行関係にある機能であり、ミ-ファと協働して強力なサブドミナント機能となる。
これにシ-ドのドミナントの半音関係を合成すれば、同様に短九の和音や減七の和音となる。
ドッペルドミナント機能と増6の和音
ファ#-ソの関係はドッペルドミナント機能を表現している。
ドッペルドミナント機能と、サブドミナントマイナーのソ-ラ♭の半音関係を合成すると増6の和音の機能を説明することができる。
増6の和音、つまり調の短6度と増4度を含む一群の和音は、ドッペルドミナント和音の変化として説明することもできるし、サブドミナントマイナーの変化として説明することもできるのはこのためである。どちらの説明が正しいかを議論することは無意味だ。
増6の和音は調の5度音を上下から半音で挟み込んだ特殊な和音である。
ナポリの和音
ナポリの和音とは、短調の4度・短6度・短2度からなる和音である。普通はその後にドミナントが続き、トニックへと向かう。
ドミナントと一緒に考えると、調の主音を上下から半音関係で挟み込む関係にあることが分かる。
トリスタン和音
トリスタン和音は4つの機能の合成である。イ短調で言えばトニックのラドミに対して、ファ-ミの半音関係(サブドミナント)、シ–ドの半音関係(ドミナント)、ソ#-ラの半音関係(ドミナントの平行機能)、そしてレ#-ミの半音関係(ドッペルドミナントの平行機能)を持つ。
まとめ
以上見てきたように、半音関係を和声機能の1つの原理と考えると様々な現象を統一的に説明することができる。半音関係がこのような能力を持つ理由として私が考えているのは、半音関係は5度の関係を連ねると例えばドソレラミシのように6音の幅を持っていることである。つまり半音関係だけで6音の存在を暗示することができるということだ。これに比べて全音関係はドソレのように3音しか示すことができない。要するに半音は全音に比べて構成音を確定する力が強いのである。
シ-ドの半音は[ソラシ][ドレミ]の6音を暗示する力があるとすれば、この6音とあまり矛盾しないような半音関係は共存することができるということだろう。最も矛盾しないのは、ファ#-ソか、ミ-ファの半音である。ファ#を選べばト長調になるし、ファを選べばハ長調だ。他に共存可能な半音関係は短3度の並行関係をなすようなもので、この例ではソ#-ラか、レ-ミ♭となる。この2つは短調の導音や長調のサブドミナントマイナーに対応する。さらに、シあるいはドの1音を上下から挟み込むような半音関係が共存可能であり、ラ#-シか、ド-レ♭となる。このようなタイプに含まれる関係は増6の和音やナポリの和音に見られる。
カテゴリー:音楽理論