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パリ軟禁日記 39日目 呼吸と春

2020/4/24(金)
すってーはいてー
呼吸。それは、僕たちが特段意識をする必要もなく、無自覚に行われる営み。燃料がなければエンジンは動かないように、僕たちも酸素や栄養を入れなければ身体を動かすことができない。外出禁止中の街の空気は、以前と比べてきれいで、澄みわたっている。鼻腔で感じる空気の匂いと、気管を流れる「管触り」がいい。

すーっ、はーっ
インとアウト。それは内と外の均衡をとることであり、境界を定めること。遡れば、古代中国の陰陽五行であり、ゾロアスター教の光と闇。先人は世界のあり方をプラスとマイナスの均衡で説いた。そう言えば、今日からイスラム教のラマダーン(断食月)だ。昨年旅したモロッコでも、この内と外、光と闇の世界観を肌で感じることができた。熱気あふれる市場や街中の喧騒から、伝統宿泊施設であるリヤドに入った瞬間のひんやりとした静寂。夜と朝の間で聞こえるアザーンは今もきっと街中に鳴り響いている。

こぉーっ、しゅー
僕たちの世界にあふれるこうした二項対立の概念。そこに何か偉大なるものの存在を感じずにはいられない。何か一定のプログラムに則って、あらゆるコードが書かれているように感じるからだ。でもそれは、僕たちがそうやってしか世界を認識できする術を持たないからかもしれない。目に見えない、感知できない世界の領域があることも、僕たちはまた知っている。

ひぃーっ、ふぅー
僕たちの身体の中にある宇宙。インプットがなければアウトプットは生まれない、とはよく言ったものだけれど、本当だろうか?改めて「呼吸」という言葉を見る。まず「呼」で息を外に出すことから始まっている。そうか、僕たちは何かを持って生まれてきている。

すってーはいてー
陽光の下、外に出た。身体に取り込む花の香り。
近所の花屋が店を再開していた。もう一度、深呼吸。
かぐわしい春。
心に平和を。

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