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パリ軟禁日記 20日目 消えた小麦粉

2020/4/5(日)
本日のパリの天気は快晴、最高気温は22度。すっかり春である。
部屋に掃除機をかけた後で買い物に出たら、何人かのパリジェンヌがサングラスにマスク姿で散歩を楽しんでいた。スーパーでは基本的には必要なものは手に入るけれど、最近になって小麦粉が姿を消した。この機会にフランス人たちは自宅でパンなりケーキなりを焼いているのかもしれない。僕は在庫が豊富にあるアジア食品の棚にからバスマティライスの袋をとった。今週どこかでビリヤニを作ろう。インド料理屋が閉まっているなら、自分で作ればいいじゃない。

陽のあたる、窓辺の椅子に座って読書をしながら、気の向くままにうたた寝する。猫という生き物はいつもこんな心持ちなのだろうか。幸福な時間だった。引き続きkindleでカミュの『ペスト』を呼んでいる。今週は読むペースがあまり芳しくなく、いまだに第2章を読んでいる。人に敬意を示すときのフランス語の表現として « chapeau bas ! »(低い帽子)というものがあることを知った。帽子を脱いで、位置を低くするということなのだろう。日本語の「脱帽」と一緒だな、と思ったのも束の間、日本にはそもそも帽子をする文化がないので「脱帽」という言葉自体が西洋のこういう表現の翻訳として後で生まれたのだ、と独りごつ。

風呂を沸かして、また湯船の中で本を読みはじめた。手に取ったのは学生の頃、友人にもらって読んでいなかった『ゲバラ日記』。ボリビアでチェ・ゲバラが死ぬまでの最後の1年で書かれた日記。まだカストロによる前文を読んでいるところだけれど、きっと僕の何もない日々の記録とは比べものにならない激動の内容を綴っていることだろう。この本をもらった当時、友人と一緒に『チェ/28歳の革命』『チェ/39歳別れの手紙』(ステイーブン・ソダーバーグ監督)の二本立てを見たことを思い出した。どうしてこの本をこれまで読まずにいたんだっけ。

夕食にラム肉のオーブン焼きを食べてから、Netflixで『コクリコ坂から』を見た。冒頭が手嶌葵の「朝ごはんの歌」だった。夕食のすぐ後なのに、食欲が湧くシーンだった。ちゃんとした和食の朝食を最後に食べたのはいつだっけ。見ていると、この映画は1968年のパリ5月革命へのオマージュだったことに気づいた。昔気づかなかったことに気づく、もしくは忘れていたことを思い出す。僕はこの時に走る脳内の電気信号の感覚が好きだ。明日もこういうことがあるといい。

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