マガジンのカバー画像

音読女子【月並な話】

9
-お耳を1分、貸してください- guidance llcとのコラボ企画。 物語を【声】でもお楽しみください。 『聴きたい』はこちらで!
運営しているクリエイター

記事一覧

🌜【音読女子】メモ

読み手 キノリユノ

僕は明日の僕にメモを残した。
赤と黄色のレンガだらけの街で、迷わず君に辿り着けるように。
途中のパン屋でカンパーニュを買い、花屋では春色のチューリップを買おう。
フローテ・ローゼン通りを左。
君は退屈に窓のカーテンを眺めているだろうから。
メモに残した言葉を握りしめ、明日の僕は家を出る。

🌜【音読】ペトリコール

読み手 小福

差した傘が水滴を弾いて、激しい音を立てた。
こんな天気の時は、母さんはずっと家に居てくれたし、機嫌がいい時には黄色いレインコートを買ってくれた。
僕は毎日逆さまのてるてる坊主を作って吊るす。
優しい母さんが好きだった。どこからか土の匂いがする。服が冷たいけれど僕は外でずっと待っている。

🌜【音読】歯車のまち

読み手 石村 碧


その街は歯車でできていた。あちこちで蒸気が上がり、クレーンや鎖の動く音がする。ブリキの魚が空を泳いでいる。
僕と妹は廃棄された鉄の山で遊んだ。ネジやナットを拾い上げては合うか確かめてみる。
「お兄ちゃーん」
見上げると、大きなキャタピラが山に刺さっていた。
今日の寝床はここが良さそうだ。

🌜【音読】密室

読み手 エモジ エマ

鉄格子の間から月を見ていた。その僅かな隙間が私と外の世界を繋ぐ唯一のものだ。

ここから抜け出したい。冬の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込みたい。

私を閉じ込めたヤツの足音が聞こえてくる。憎む気持ちもいつの間にか薄れている。

身体をスライムみたいにしてあの格子をすり抜ける。そんな夢を見た。

🌜【音読】赤い糸

読み手 石村碧

小指に結ばれた赤い糸を辿ったら、毛むくじゃらのおじさんに出会った。

「おじさんが運命の人かよ」ってげんなりしたら、相手も不服そうな顔をしていたので
殴ってやりたくなった。
よかったら、とおじさんがチョコをくれた。

寒い夜には、おじさんの毛むくじゃらが暖かいかもなって私は思った。

🌜【音読】斎藤さんの話。

読み手 エモジ エマ

"斎藤さん"は私がまだ幼稚園児だった頃から逆さまだった。

近所の桜並木にぶら下がっていて、私が通る度、斎藤さんは必ず手を振ってきた。
お母さんに聞くと「見ちゃいけません」と言った。それでも斎藤さんは私へ手を振る。大学生になった今でも。逆さまで。笑顔で。次は話しかけてみようかな。

🌜【音読】わすれな草

読み手 キノリユノ

私がお婆ちゃんになって。
貴方を忘れてしまうようだったら。いっそのことレンジでチンしてください。
貴方がお爺ちゃんになって。私を忘れてしまっても。
毎日貴方が好きなハーブティーをあたしは淹れ続けるから、大丈夫。
花満開のあの庭で。林檎みたいな甘い香りの、あのハーブティーを。

🌜【音読】父の行方

読み手 小福(シャオフー)

ハゲたモグラを探しています!・・・じゃなかった、ハゲたモグラみたいな父を探しています。

突然いなくなってしまいました。父が好きなワンタン麺屋さんにも来ていないようです。
何方かご存知ないでしょうか。見た目?どう言えばいいでしょう。

親指?いや、やっぱりハゲたモグラなんです。

🌜【音読】前髪を切りすぎた日。

読み手 石村 碧

前髪を切りすぎた日。ただ煙草から伸びる煙を見てるのが好きだった。
ふぅ、と深く息を吐く。ヤニで黄ばんだ壁が私を見ていた。
昼と夜の間。外で遊ぶ子供達の声がうるさい。気持ちが整理できない。
きっと前髪を切りすぎたからだと思う。
前髪を切りすぎた日。貴方はこの部屋から出て行った。