市井へい

ずっと何か書いている人。

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  • イケメン特殊部隊「112th CSF」活動記

    短編/ライト/アクションコメディ/完結済作品連載/毎日22時-0時更新 【あらすじ】 未知の魔物が跋扈(ばっこ)するようになって、一世紀以上。魔物の目的も出現原因も分からず、百年以上の時を経て明らかになったのは、致命傷を与えられる手段が限られているということだけ。専用にカスタマイズされた武器を操り、魔物と対する特殊部隊、通称「CSF」の面々の任務とほのぼの日常と人間模様。

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短編|アクションコメディ|ジネストゥラがモンスターになった訳-15-

 千歳が頭を抱えているその頃。  一方、基地では──── 「いや、何度見ても本当にすごいことしたね」  解析チームとのミーティングを終えたノーチェとロッソは揃ってモニターの前に座り、ある映像を見ていた。 「素晴らしい」  その場には、ミーティングに参加していなかったミルティッロの姿もある。ノーチェがすごいものが見られると、わざわざ部屋に呼びに行ったのだ。  ノーチェを挟むようにして右にミルティッロ、左にロッソという並びで一列に座り、三人が見ているのは、先の331区で

    • 短編|アクションコメディ|市街地調査 ソフトクリーム食べてもいい?-14-

       その後も千歳は、好奇心旺盛な警部の質問に機密に触れない範囲で答えながらテンポよく世間話をする。こういうことはもともと持っている柔和な雰囲気と年の功もあってか、メンバーのなかでは千歳が抜群にうまかった。  赤信号で停車したとき、千歳とアズールに挟まれて退屈そうに座っていたジネストゥラの大きな目が、あるものを捉えた。  千歳の膝のうえに手をついて身を乗り出し、ウィンドウの外を見て声を上げる。 「あれ食べたい!」  ハンドルを握っていた若い警部はぎょっとして、アズールはうる

      • 短編|アクションコメディ|市街地調査 ソフトクリーム食べてもいい?-13-

         白一色のCSF専用車を千歳は慣れた手つきで駐車した。  軍用車両でありながらCSFの移動車両がOD色や迷彩色でないのは、ケーラー来襲時に彼らの到着を目立つように知らせ、居合わせた人間達の不安と恐怖を和らげるためらしい。もっとも、近頃はもともと人気(ひとけ)がないか、すでに避難が終了した無人の現場に出動することが主で、この車両の特性が生かされることは幸福にもない。  周囲の建築物に比べてもとりわけ近代的で巨大な建物に入り、受付で用件を告げると、三人はすぐに部屋に案内された。

        • 短編|アクションコメディ|市街地調査 ソフトクリーム食べてもいい?-12-

           一直線にのびた舗装された道を、真っ白に塗装された一台の軍用車両が走る。  高い青空は、緯度が高いせいかやや淡い。髪と瞳だけでなくその武器さえも、すべて青で統一された青年のコードネームほどの色味ではなかった。 「市街地に出るのは久しぶりですね」  ハンドルを握る千歳はバックミラーごしに、その青年に話しかけた。彼のコードネームは「紺碧(こんぺき)」を意味する。  青年はCSF専用四輪駆動車のドアトリムにもたれたまま一瞥(いちべつ)して、低い声でそっけなく同意をしめしただけだ

        短編|アクションコメディ|ジネストゥラがモンスターになった訳-15-

        • 短編|アクションコメディ|市街地調査 ソフトクリーム食べてもいい?-14-

        • 短編|アクションコメディ|市街地調査 ソフトクリーム食べてもいい?-13-

        • 短編|アクションコメディ|市街地調査 ソフトクリーム食べてもいい?-12-

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        • イケメン特殊部隊「112th CSF」活動記
          15本

        記事

          短編|アクションコメディ|一刻も早く勝ちたい! 原色組の場合-11-

           鎖を巻きとる手をとめて、険をひそめた金色の愛らしい瞳がきょとんとロッソを見上げる。  ジネストゥラが口を開こうとしたとき、アズールが駆けてきてふたりを呼んだ。  アズール曰く、もう一方の頭も弱点を攻撃されることを恐れてか、全く頭を下げないのだという。 「こいつ、お前らよりも賢いな」  皮肉ではなく事実を言っただけのつもりなのかもしれない。アズールの顔に特別感情らしいものはなく、言い方は普段と少しも変わらなかった。 「どういう意味だよ」 「ロッソと一緒にしないで!」

          短編|アクションコメディ|一刻も早く勝ちたい! 原色組の場合-11-

          短編|アクションコメディ|一刻も早く勝ちたい! 原色組の場合-10-

           ノーチェの対敵報告にアズールは低い声でいつもどおり短く答えた。 「向こうの方が先だったな」  ロッソが赤髪に手をやって、らしくもなくため息をつく。原色組の三人は目標であるパターンΧ(キー)のアンフィスバエナタイプのケーラーを捕捉できていない。端末にケーラーの位置が表示されるようになるのは、対敵してからだ。 「なんで班長組が先じゃだめなの?」 「こっちを早く片付けて、援護に行った方がいいだろ。向こうは火力が足りねえんだから」 「グリュプスだもん、大丈夫だよ」  あっちは

          短編|アクションコメディ|一刻も早く勝ちたい! 原色組の場合-10-

          短編|アクションコメディ|汚れる前に勝て! 班長組の場合-9-

           対敵したノーチェはアズール班にその旨を告げて音声通信を切り、ホルスターから銃を抜いた。  物陰に身をひそめたまま右目を細めて狙いを定め、立て続けにトリガーを三回引く。  一発目は鷲(わし)とライオンを合わせたような姿のケーラー──グリュプスタイプのの硬い羽毛に覆われた翼を貫き、二発目はライオンに似たたくましい脚にめり込み、そして三発目は琥珀色の目のわずか横に当たった。  ギャッと痛みによる苦しみと怒りをないまぜにしたような鳴き声があがる。 「あれ?」 「ん?」  弾道

          短編|アクションコメディ|汚れる前に勝て! 班長組の場合-9-

          自己紹介の文化があると聞いて

          自己紹介は苦手だ。 リアルだろうとネットだろうと、自身について語るべきことなど何も持ち合わせていない。 仕事上は大人なので仕方なくそれをするが、せめてこういうところでは勘弁してもらいたい。 輝かしい背景も、誇れるような実績も別に何もない。 特筆すべきような趣味はなく、共有したいような嗜好もない。 顔のある、何者かになりたい時期はとうに過ぎ、それでいいと思っている。 諦めたのではない。ある時、別に自分は何者かになりたいわけでないことに気づいたのだ。 そう気づいてからは

          自己紹介の文化があると聞いて

          3分で読める掌編|きみはわたしのささやかな英雄、あなたは僕の偉大なヒーロー

           わたしはずっとひとりでもいいと思っていたんだ。  きみと出会う前までは──。  鼻先をくすぐる草と土の匂い。それに、足のうらに感じるアスファルトの感触も、かしましい女子学生のおしゃべり声も、コンビニの駐車場のランチだって案外と気に入っていた。わたしは要領も器量もよかったから、その日暮らしに不便も孤独も感じたことなんてなかったんだ。  でも、あの嵐の日、きみは私の前に現れた。  雨に濡れたからだを湯で温めて、きみは寝床にと毛布を用意してくれた。  それはキャラクターものの

          3分で読める掌編|きみはわたしのささやかな英雄、あなたは僕の偉大なヒーロー

          短編|アクションコメディ|原色組と班長組-8-

           ブリーフィングルームに入るなりノーチェはモニターを見ながら詳細を、と短く問う。 「ヒット率九十九パーセントのパターンΧ(キー)が一体、ヒット率六十三パーセントのパターンΣ(シグマ)が一体です」  ロッソが赤髪に包まれた頭をばりばりとかき、ジネストゥラは金色の目をぱちくりとさせた。  アズールは青い目でモニターに映し出された解析結果を凝視し、ミルティッロはアンダーリムの眼鏡を指で押し上げて、顎に手をかける。 「パターンΧ(キー)か……厄介ですね。しかも、もう一体もヒット

          短編|アクションコメディ|原色組と班長組-8-

          短編|アクションコメディ|日本茶と炭酸でティータイムを -7-

           三人が食堂の椅子に座っていると、姿を現したのは千歳とミルティッロの年長組のふたりだった。 「おや、原色組。おそろいですね」  原色組──もともとは「CSF」のメンバー以外が言い出した呼び方だが、今は本人たちも面白がって使うようになった。武器にはまったストーンの色が、赤のロッソ、青のアズール、黄色のジネストゥラの三人のことだ。偶然にも髪の色と目の色も一致している。  ミルティッロが目を細めた。 「こうして君たちが並んでいるのを見るのは、いいものです」  ロッソはΨ(

          短編|アクションコメディ|日本茶と炭酸でティータイムを -7-

          短編|アクションコメディ|日本茶と炭酸でティータイムを -6-

          「ロッソ~!」  愛らしい声とともに、突如自身の体に降ってきた重みに驚いてロッソは目を開けた。  体をまたぐようにして金髪の少年が乗っかり、くりくりした金色の大きな目で見下ろしていた。 「んあ? ジネ?」 「いつまで寝てるの? もうお昼だよ」 「バカ。俺は昨日の夜、働いてたんだよ」 「えー? だって昨日の夜番は緑組でしょ?」 「来襲があって、解析結果がパターンΨ(プシー)だったから、急遽駆り出されたんだ」 「またΨ(プシー)?」  最近多いね、とジネストゥラは呟いた。

          短編|アクションコメディ|日本茶と炭酸でティータイムを -6-

          短編|アクションコメディ|イケメンなのでかっこよく任務完了……の、はず -5-

           千歳にコンタクトを取るために端末を開いたとき、ちょうど彼からのメッセージを受信したノーチェはその暗号文のような文字の羅列を見た瞬間、何が起きているか把握した。 「アズール!」  切っては跳びすさり、少し移動してはまた繰り返す──。そうやって、攻撃の全く通らない魔物を相手に器用に足止めしている青髪の青年に向かってノーチェは声を上げた。 「チトセ班と合流しよう」 「これはどうする?」  アズールは顎をしゃくって魔物を示す。 「連れて行く」  青い目がノーチェの横顔を

          短編|アクションコメディ|イケメンなのでかっこよく任務完了……の、はず -5-

          短編|アクションコメディ|ミルティッロ班の場合 -4-

          「ああん、もう! すばしっこくて腹立つなぁ!」  ジネストゥラは両手で柄を握ってぶんと鎖大鎌を振った。  死神を彷彿とさせる三日月型の大きな刃が、今まさに跳躍してふたりに襲いかかろうとしていた魔物を牽制する。  金色の髪に同色の大きな瞳。  愛らしい容姿とは裏腹に、その手に握られている不気味に黒光りする柄は小柄なジネストゥラの背丈よりも長く、その先についた刃は顔よりもずっと大きい。さらに、柄尻に取り付けられた鎖の先には彼の足よりも大きい分銅がついている。 「いくらパター

          短編|アクションコメディ|ミルティッロ班の場合 -4-

          短編|アクションコメディ|チトセ班の場合 -3-

           千歳は滑るように前進すると、魔物の後ろ脚を狙ってクローグローブを繰り出した。脚を狙うのは機動力を削ぎ、ロッソの大斧で捉えやすくするためだ。  左手のクローが堅い獣毛に覆われた魔物の肉に食い込み、切り裂く。  蹴り上げようとする魔物の脚を舞踏のような優美なステップで避け、体を反転させて今度は右手を繰り出す。  歯がむずがゆくなるような不快な音がして、予期せぬ感触が右手に走った。 「ロッソ! 待ってください!」  とっさに赤髪の青年の名を呼ぶ。    一同で一番背の高い

          短編|アクションコメディ|チトセ班の場合 -3-

          短編|アクションコメディ| ノーチェ班の場合 -2-

           ノーチェは両手でハンドガンを構え、立て続けに引き金を三回引いた。  その弾道を目で追って首を傾げる。弾は、魔物の体を貫くことなくはじかれてばらばらの方向に跳んだ。  隣でアズールが同じように思ったのか、わずかに眉をひそめた。 「おかしい」  そのノーチェの呟きを聞いたかどうか定かではないが、アズールが抜刀し、素早い動作で間合いを詰め、切り払いながら跳びすさった。  きんと甲高い音を立てて刃が弾かれる。 「ほとんど効いてない」 「……だな」  軽やかにノーチェの隣

          短編|アクションコメディ| ノーチェ班の場合 -2-