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短編|アクションコメディ| ノーチェ班の場合 -2-

 ノーチェは両手でハンドガンを構え、立て続けに引き金を三回引いた。
 その弾道を目で追って首を傾げる。弾は、魔物の体を貫くことなくはじかれてばらばらの方向に跳んだ。

 隣でアズールが同じように思ったのか、わずかに眉をひそめた。

「おかしい」

 そのノーチェの呟きを聞いたかどうか定かではないが、アズールが抜刀し、素早い動作で間合いを詰め、切り払いながら跳びすさった。

 きんと甲高い音を立てて刃が弾かれる。

「ほとんど効いてない」
「……だな」

 軽やかにノーチェの隣に着地したアズールは、弾かれた自身の刃をちらりと見て、しびれた右手を柄から放して振る。

 次の瞬間、まがまがしい爪の生えた魔物の醜悪な前足がふたりを襲う。

 アズールは右に、ノーチェは左に素早く跳んだ。アズールの青髪とノーチェの茶色の髪が舞う。

 地で一転してノーチェは体勢を立て直す。その間に、アズールがふたたび間合いを詰めて魔物を袈裟(けさ)に切り下げようとした。仲間たちのなかでは軽快な身のこなしに定評があるノーチェでも舌を巻くほどの素早さだった。
 
 しかし、やはり刃は弾かれる。
 アズールは舌打ちしながらまた跳びすさり、柄を握ったままノーチェに駆け寄った。

「どういうことだ?」
「解析システムではパターンΣ(シグマ)だったはずだったのに──こんなにアズールの攻撃が通らないなら間違いなくシグマではないね」

 ノーチェは量るように灰色の目を細めた。

 そして、またハンドガンの引き金を二回引く。緑色の光をまとった弾丸は、大型の獣のような形状をした魔物の周囲でピンポン玉のようにあっけなくはじかれて、やはり別々の方向に跳んだ。

「うん。パターンΨ(プシー)だね」

 断言したノーチェに対し、アズールは表情を変えないまま微妙な空気を作った。
 ノーチェは口元だけでちょっと笑う。無口な青髪の青年は、思ったことを率直に口に出すということをあまりしない。

 ノーチェは自分がその結論にいたった経緯を補足する。

「もし、パターンΧ(キー)なら、太刀のアズールとハンドガンの私で反応に差が出るはずだし、パターンϷ(ショー)であれば、アズールの攻撃は通らなくても、私の攻撃はもう少し効くはずだよ」

 ああ、とアズールは小さく呟いた。
 じっくり考えればアズールも同じ結論を導くことができるだろうが、ノーチェのようにこれほど短い時間で到達するのは無理だ。しかも、魔物と相対しているこの状態で。

「Ψ(プシー)なら、ロッソとチトセさんじゃないとだめだ。もう音声通信はだめだし、端末でコンタクトを取るしかない」

 ノーチェは申し訳なさそうに青髪の青年を見る。アズールは口のあいだから黄ばんだ牙を見せ、よだれを垂らす魔物を青い目で見据えていた。
 
「アズール、少しのあいだ頼める?」

 攻撃が通らないから、きついけど、とノーチェは苦笑いしたがアズールは淡々と答えた。

「了解」

 ノーチェは感謝と信頼を示すようにアズールの肩をひとつ叩く。
 そして、ハンドガンをホルスターに戻し、端末を取り出した。



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