【本棚から冒険を】こんとあき(絵本)
大好きな作品です。子どもの頃から、というよりは、大人になってから”好き度”が増したという感じです。子どもの頃には気付かなかった「こん」の温かさ、自分にもお気に入りのぬいぐるみがあったこと、「だいじょうぶ」の安心感…。読み終えたとき、小さかったあの頃を思い出してほっこりとした気持ちになります。
ぬいぐるみの「こん」は、島根県に住むおばあちゃんから赤ちゃんのお守りを頼まれて、この家にやってきました。初めて赤ちゃんを見たこんは、「ああ、あかちゃんだ!あかちゃんて、こんなにちっちゃくて、こんなにかわいいなんて、しらなかったな。」とつぶやきます。
生き物は「成長/大きくなる」と表現し、物は「古くなる」と表現する違いにハッとさせられます。そしてついに、こんの腕はほころびてしまいます。
こんが初めて「だいじょうぶ」と言うのがこの場面です。あきを心配させまいと、2回繰り返して使います。
1人と1匹は、新幹線に乗ります。
短い会話の中で、こんは「だいじょうぶ」を4回も使っています。初めての旅行で不安な気持ちにならないように、と気を配るこんの優しさが伝わってきます。こんな兄姉がいたらいいな、なんて思うのは自分が長女だからでしょうか。もちろん、私自身は妹にこんな温かい言葉をかけた記憶などありませんが…。
こんの言葉を信じて待つあきですが、こんはなかなか帰ってきません。それどころか、新幹線の扉は閉まり、出発してしまいます。
心配になって涙を流すあきに、車掌さんが「きつねくんなら、むこうの ドアのところで みつけましたよ。」と教えてくれます。
こんは慌てて飛び乗ったときにしっぽを挟まれてしまい、動けないでいたのです。1人と1匹はここでお弁当を食べることにします。
この場面が作品の中で1番好きです。この「だいじょうぶ。」は自分のことでも、旅の不安を軽減するためのものでもなく、お弁当が冷めていないことを伝えるものです。どこまでもあきのことを考えているこんに、胸がきゅっとなります。
砂丘町に到着すると、あきが砂丘に行きたいと言い出します。
「うん、すなに、ちょっと あしあと つけるだけなら。」と返事をしたこんは、一緒に砂丘を見に行きます。すると、どこからかやってきた犬にこんは攫われてしまいます(「宝物」の認定を受けて砂に埋められます)。
ようやくこんを見つけたあきは、初めてこんの口癖を使います。
何を聞かれても「だいじょうぶ、だいじょうぶ。」としか答えないこん。これは「だいじょうぶ」ではありません。ここまで頼りになるこんに守られながら旅をしてきたあきが、今度はこんのために1人で頑張ります。
こんを背負うと、おばあちゃんの家がある方向へ歩きます。そして、おばあちゃんの家に辿り着きます。
おばあちゃんは「だいじょうぶ」を使わないのですね。こんとあきの間で使う魔法の言葉なのでしょうか。
おばあちゃんに綻びを縫ってもらい、ぺしゃんこになったしっぽを直すためにお風呂に入ります。そうしてこんは、元のきれいな状態に戻りました。
1歳のときに買ってもらったぬいぐるみ、そういえばどこにしまってあるっけ?と慌てて探しました。一人暮らしを始めるときに「これは絶対に持っていくんだ!」と持ってきたのは確かだけれど…。
やっと見つけたぬいぐるみは、こんと同じように綻びがたくさんあり、腕はとても細くなっていました。洗濯をしたのはもう1年以上前だったような気がします。本の隣に並べて写真を撮ったところ、心なしか俯いているようでした。ごめんね、今まで放っておいて。
大人になってから読むと、私も大きくなったのだなと改めて感じさせられる作品です。ぬいぐるみにたくさん遊んでもらい、たくさん励まされてきた子供時代。今度は私がきれいに洗って、直す番です。いつまでも一緒にいるために…。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?