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【読書】エルマーのぼうけん(辰年)

 年が明けたところで、大きな地震が発生しました。翌日は飛行機の事故が起こり、いったいどんな一年になるのだろうかと不安な気持ちになりつつお正月休みを過ごしました。少しでも明るい一年になりますように。

 さて、今年は辰年です。元々「辰」という字は方角を表す言葉であり、そこに十二支の動物を当てはめるために「たつ」という音をあてたのだそうです。てっきり、辰=水神の竜(東洋のイメージ)、竜=火を吹く(西洋のイメージ)、という違いがあるのかと思っていました。
 辰年生まれの私の本棚には、たくさんの竜が住んでいます。『ゲド戦記』(ル・グウィン)に出てくる太古の言葉を話す竜、『はてしない物語』(ミヒャエル・エンデ)に出てくる幸いの竜、『朝びらき丸 東の海へ』(C.S.ルイス)に登場する宝を集めている竜…他にもたくさんの作品にドラゴンが登場します。
 どの竜も好きだし、敬意をもっていますが、1番かわいくて1番人間になついていて1番一生懸命なのは、『エルマーのぼうけん』(R.S.ガネット)に登場する竜の子・ボリスだと思っています。

 『エルマーのぼうけん』シリーズは昨年60周年を迎え、「エルマーのぼうけん展」も開催されました。私も9月に足を運んだのですが、とても素敵な空間で心も身体も満たされました。

●展覧会で購入したポケット版●

 『エルマーのぼうけん』シリーズの魅力はたくさんありますが(詳細はこちらをご参照ください)、私が個人的に好きなところが2つあります。

 1つ目は、竜のデザインが素敵なところです。カクレクマノミやしまうまのようなきれいなしましまで、エルマーの服とおそろいです。

"りゅうのからだは きいろとそらいろのしましまもよう。
 それから、まっかな つのと目があって、りっぱな ながいしっぽがついていました。そして、ほんのりとあかるい 月のひかりに てらされてかがやいている 金いろのはねは、とくべつ きれいにみえました。"

『エルマーとりゅう』(R.S.ガネット)福音館書店

 小さい頃、図書館に行くとこの竜のぬいぐるみが飾ってあって、私はそれが好きでした。だってかわいいのですから。何度「竜の背中に乗ってみたい!」と思ったことでしょう。

 2つ目は、冒険が子どもらしいところです。どうぶつ島の動物たちが私利私欲のために竜を拘束するところは大人から見ても酷いものです。ただし、その動物たちに対抗するべくエルマーが持って行く道具が素敵なのです。

"エルマーのもっていったものは、チューインガム、ももいろのぼうつきキャンデー2ダース、わごむ1はこ、くろいゴムながぐつ、じしゃくが1つ、はブラシとチューブいりはみがき、むしめがね6つ、さきのとがったよくきれるジャックナイフ1つ、くしとヘアブラシ、ちがったいろのリボン7本、『クランベリいき』とかいた大きなからのふくろ、きがえをなんまいか、それから、ふねにのっているあいだのしょくりょうでした。"

『エルマーのぼうけん』(R.S.ガネット)福音館書店

 これを全て冒険の中で使い切るのですが、子どもたちにとって身近な道具ばかりでとてもワクワクしたのを覚えています。「ももいろのぼうつきキャンデー」という響きがとても好きでした。「ピンク色」という表現だったらまた少し抱くイメージが変わっていた気がします。「ももいろ」だから良いのです。
 動物たちと会話をし、頭を使って困難を打ち破っていくエルマーはとてもかっこ良いです。子どもが1人で冒険をするという非現実的な内容でありながらも、船で食べる分しか持って来ていないエルマーが、現地「みかん島」でみかんをたくさんリュックに詰め、飢えることのないようにしっかり食べる描写がありました。そこが妙に現実的なような気がして、なんだかこの作品やこの冒険に親しみをもったのです。全てを「虚構」「ファンタジー」と言い切ってしまうわけにはいかない気がして--。

 この作品の原題は『My father's dragon』です。語り手の父・エルマーの物語、という形をとっているので、「ファンタジー」でありつつも「昔話」なのです。昔話の中に「エルマーのぼうけん」があっても違和感ありませんよね。

 大人になった今でも、この作品が大好きです。不安な始まり方をした2024年ですが、竜の加護がありますようにと願っています。 

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