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「となりの稲荷」面白かった 読了直後の感想をつれづれなるままに(後半からネタバレ)

 庭猫もるさんが好きなのです.

 元々もげやま日本神話で知って,日本神話そのものを読む楽しさは勿論,物語を面白く見せる演出の上手さやキャラクター1人1人の可愛らしさに惹かれてこれはすごいと思っていたのですが,
この度途中で止まっていたとなりの稲荷を一気読みしました.

 それが本当に面白くて,日本神話の時から知ってたけどもるさんって本当にすごい人だったんだ…!と感動しているので,まだしっかり考察とかもしてないんですが,読了直後のフレッシュでどろどろした感想をつれづれなるままに書き綴っていこうと思います.

 ここからネタバレありますのでご注意を.




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 いやぁすごい面白かったです.皆の台詞から少しずつ広がる謎がゆっくり収束していくのとか,あの1コマも伏線だったんじゃ…と考えさせる感じとか,土着信仰や田舎らしい風習をマンガに組み込んで,それでいて不穏だけど深刻にはさせない感じとか.
 日本神話の時からもる先生が類まれなるセンスの持ち主なのは知っていたけれど,自分で原作をされた今作では伏線とか設定の作りこみとかそういう一面を知ることが出来て本当にますます尊敬します.

 日本神話時代からある「!」のつかないシュールなギャグもふんだんにあって嬉しいです.ほんとこういうギャグで上手く抜く所をつくれるのは,天性のセンスというか,芝居で言う間の上手さというか,とにかくすごい….


 何となく産土神って村で一番偉いイメージがあったので,打瀬(足継村の産土神)が稲荷を怖がっているというのは意外だった.今作では神様ってあまり絶対的な存在ではない感じがする.人間より長生きなくらいでしょうか.
 でも長生きと言っても,咲さんが生きてるのも220年程度だったり,五つ目さんは42歳と普通の中年と同じ年だったり,足継と身探の対立も20年前というついこないだからのものだったりと,そんなに長い時間を生きている感じもしないんですよね.
 開くんのバールやスコップによる物理攻撃も効くし.

 何かで「幽霊ごときが肉体を持った人間にかなうわけねえだろ」という話を聞いたことがあるけれど,一見人知を超えた恐ろしい存在のように思える神様を身近な存在に感じました.

 あと咲さん名古屋に行ったりしてたけど,土地に根差す神様も意外と移動できるんだね.


 五つ目さんは何で能無しなんだろう.
 足継村で打瀬より弱い唯一の稲荷って五つ目さんだったんだって開くんが納得するシーンあったけど,あれは開くんが勝手にそう思っているだけで実際そうかは分からない気もする.その辺気になる….


  公衆電話から開くんにいたずら電話がくるのTHEホラーで怖かったんだけど,実は腕塚の公衆電話にサキちゃんが開くんの電話番号を貼ってたから妖怪が面白がってかけてただけっていうのすごい好き.
 いかにもオカルトで怖い展開かと思いきや,妖怪もそういう人間のやりそうないたずらするんだ~って面白かった.そういうほのぼのしてるけど不穏で,でも不穏なだけで深刻じゃない抜け感が流石です.


 咲さんによると開くんを祟り殺そうとしたけど出来なかったって言ってたけどこれはどうしてなんだろう.初代岩戸開の死ねない呪いのせいとか?
 戸隠さんに埋められても生きてたやつ,あれも地中で戦ってる初代が助けてくれたのかな~と思ってる.
 ちょくちょく開くんって人間じゃないのかなって思わせる場面があったけど,単純に祟りも禁忌も信じないちょっとぶっとんでる人なんだと思ってる.

 開くんが埋められた回とかグロテスクとかホラーな展開に持っていけそうなのに,普通に何ともなくて日常に戻っていくのが「ほのぼの不穏」を体現していて好き.ホラーではなくてあくまでほのぼのなんですよね.不穏だけど.


 カコハラちゃんはきっと人食いに食べ残された残骸で出来てるのかな.29話で化け物に食われた夢をみたことがあるといっていたあたり.


 27話あたりで咲さんが開くんの腕を噛んだ後気持ち悪くなるシーンあって,あれは単なるギャグだと思ってたんだけど,よく考えたら人食いの咲さんが人間に噛みついて気持ち悪くなるっておかしいよね.
 だから,初代岩戸開の腕に刻まれた人食いへの怨念みたいなものが今の開くんにも受け継がれていて,その腕を噛んだ咲さんには拒否反応が…みたいなの,ないですかね….
 それとも,人食いへの怨念が刻まれてる腕という部位には基本的に拒否反応を示すのかな.


 人食いの三つ目の化け物はさくらちゃんでいいのかな.
 今までの人食いは「さき」だったけど,サキちゃんは咲さんのことを「サクちゃん」,咲さんはサキちゃんのことを「サチ」と呼んでいるし,サク→さくら となるのも予想できるよね.

 31話で町おこしをしたいというちまきちゃんに賛成していたのも,人間を増やすための無意識の行動だったのかな.

 あと途中から目が真っ黒になったのはどうしてなんだろう.さくらちゃん,サキちゃんもそうだから,同じく人食いの咲さんはどうなんだろうと思ったけどよく分からん.




 敵味方とか善悪とか,何でも簡単に二項対立に出来るわけではないんだけど,
人間の立場からすると,人食いの化け物やその一部である咲さん,その咲さんを生かすために時に人間を拉致する唐鮫さんや五つ目さん,人間を化け物に変えてしまうサキちゃんは,やっぱり恐ろしい,忌むべきものであるような気がする.

 でも,開くん達は正体が分かった後も普通に稲荷達と交流してる.
 咲さんは人間が沢山いる学校に登校してる.
 唐鮫さんのお店でお茶をしたり,五つ目さんとも普通に話したりしてる.

 恭平くんが出会う女の子の妖怪も,人間に友好的ではあるけれど,そもそも住み着いているのは腕塚のサキちゃんがきっかけ.
 人間に友好的な彼女たちは,人間を化け物にするサキちゃんを慕っている.

 人食い退治のために死ねないでいる初代岩戸開が,化け物の一部である咲ちゃんと牛肉あんまり食べたことない~なんて雑談してたりする.

 圭助くん,恭平くんもたまたま人食いの伝説について知ってしまったけど,
もしそうでなければ,唐鮫さんや五つ目さんに拉致されるのは彼らだったかもしれない.
 気まぐれに口を開いた化け物に食べられてしまうのは,100年後かもしれないし,明日かもしれない.

 もっと言えば,咲さんがどうしようもなくなった時に身近な人間として開くん達が真っ先に殺される可能性もある.人食いのこと知ってしまったわけだし.

 そんな彼らが一緒にBBQをしたりする.
 その妙な関係性への違和感が,どうにも不穏で,でもほのぼのとしていて,愛おしい気がしなくもない.



 人間目線から見ると,足継周辺は闇深い土地のように思える.
 一方で,人食いの化け物は飢えに耐え切れず人を食い,初代岩戸開は死ねない呪いに生かされて化け物と戦い続けている.そこに強い意志があるというより,大きな運命の流れに身を任せているような.

 元々この国は,1日に1000人が死に1500人が産まれる国とされている.

 人食いの化け物と初代の戦いも,その繰り返される生と死の大きな運命の一部に過ぎないように感じてしまう.


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 とりあえずここまで.

 いやぁ本当に面白かった….また読み返して色々考えてみたい.
 お礼の気持ちも込めてコミックス版を買おうと思います.

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