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ピエトロの冒険 「夜の中の朝 たぶんその1」

背の高いススキが生い茂っている。ピエトロの背をゆうに超えている。向こうがどうなっているのか全然見えない。空はもうずいぶんと赤くなっていた。怖くてどうしたらいいのかわからない。だけどピエトロは甘い香りを頼りにススキを避けながら進んでいった。。。

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町の名前は、ポンテ ポルトゥス。「橋渡しの港」という意味があるらしい。ここは色んな船がとまる少し大きな町。ピエトロはこの町で暮らす少年だ。

ピエトロの家は、港で小さいホテルを経営している。滞在する船乗りや旅人が集う人気のホテルだ。1階には食堂があり、夜にはお酒も出している。イワシのマリネとトマトのサンドイッチの「サンドイッチ イルマーレ」が評判で、ピエトロも大好きだった。

ピエトロには特に仲良しの2人の友達がいた。

一人はカミーユ。体も大きくて少し乱暴だけど、いつも一緒に小さな冒険をしていた。町のみんなからは、いたずらが好きで問題を良く起こすからよく怒られているけど、カミーユは頼りになるし本当はすごくいいヤツってことをピエトロは知っていた。そして彼はどんなことがあってもウソはつかなかった。カミーユは、力に自信もあったので将来は船乗りになりたいと思っていた。最近は停泊している船に乗せて貰って手伝いをしたり、ロープの使い方を教えて貰ったりしていた。

もう一人はシャルル。町長さんの娘で、水色のワンピースが似合うブロンドヘアーの女の子だ。町長さんの家はとても大きなお屋敷で、彼女は体が弱かったからいつも自分の部屋で過ごしていた。実は町長さんもサンドイッチ イルマーレが大好きで、時々注文していた。ピエトロと暇をつぶしていたカミーユは、お使いを頼まれて町長さんの家にサンドイッチを届けたりしていた。その時に彼女とは友達になった。

シャルルは外で遊びたかったけど、町長さんにダメだと言われていた。それを知っていたピエトロとカミーユは、ある日彼女を部屋から誰にも見つからない様に外に連れ出して3人が行方不明で大問題になったのはまた別のお話し。それ以来、シャルルは元気になり外にも出られるようになったから、一応町長さんは許してくれている。

3人は良くピエトロのお店で遊んでいた。船乗りたちは、海の向こうの話や噂話を子供に聞かせるのが好きだったので、もちろん3人もその話に夢中になって聞いていた。

だけど、そんな船乗りたちもあまり口にしないがみんな知っているウワサがこの町にはある。

町のはずれ。古くてボロボロで、木でできた真っ黒な洋館だ。そこは「ノヴァエ テラエ」と呼ばれている。その辺りは、今にも壊れそうな建物や、整備がされていなくてボコボコになった道がある。まわりは背の高いススキが生い茂り、大人でも近寄らない。

そのウワサはこうだ。ノヴァエ テラエに近寄ると、中から甘いお菓子の香りが漂ってくるらしい。それにつられて中に入ると、中には「夜の獣」と呼ばれる悪魔が住んでいて、入ってきた子供から朝を奪い、永遠に夜から出られなくなる呪いをかけられる。だから絶対に近寄っちゃいけない。

ピエトロはある日、いつもの様にお店の手伝いをしていた。カミーユも港の手伝いを終えてお店に遊びに来ていた。

「シャルルはいないのか?」

カミーユはお店の中を見回してぶっきらぼうにそう言った。

「今日もいないよ。もう1週間だよ?なんかおうちであったのかな」

シャルルは、突然お店に来なくなってしまった。カミーユが船乗りに魚の取り方を教えて貰ったので、みんなで魚を取りに行こうと約束をしていたのだ。

「町長さんのサンドイッチの注文もないのか?火曜と木曜はいつも注文あるだろ?」

「お母さんに聞いたけど、注文は来てないって言うんだよ。お母さんは町長さん忙しいからだって言うけど、魚取りの約束もあったし。こういう時は執事のサンおじさんが伝言にくるじゃん。何もないってきっと何かあったんだよ。」

「大人はほんとつかえねーよな!そっちがこねぇなら、こっちがいくしかねぇだろ!すぐに行くぜ!」

「ちょっとまってよ!お母さんに言わなきゃ!」

カミーユは、そんな事は気にも留めないで町長さんの家に向かって走っていってしまった。ピエトロは後で怒られるなぁと思いながらも自分のリュックを手に取り追いかけて走った。

ピエトロは手先が器用で、道具を作ったりするのが得意だった。鞄の中には、よく使う7つの道具が入ってる。おじいちゃんから貰った小ぶりのトンカチと折り畳みのナイフ。お手製のパチンコと小石。黒い皮の表紙の手帳と鉛筆。それとマッチがたくさん入った木箱と針金だ。パチンコは、港にとまる船にネズミが大量発生した時に作ったものだ。カミーユと一緒にネズミ退治をした。針金は、船乗りに手先の器用さを見込まれて簡単なカギの開け方を教えて貰っていた。船乗りの中には、じつは海賊もいて、彼らがピエトロに面白半分で教えていたのだ。もし鍵開けができたら、酒を樽一杯おごるという賭けで。彼らは一応いいヤツらで、ピエトロとカミーユをかわいがっていた。それが良いのか悪いのかはわからない。

ピエトロは一生懸命に走ったけどカミーユには全然追いつかなかった。やっとの思いで町長さんのお屋敷に付くとカミーユは既に門を乗り越えてお屋敷の中をのぞいていた。

「ピエトロ!おかしいぜ、たぶん誰もいない。お前、裏の勝手口の鍵を開けろ!」

ピエトロもだんだん悪ガキの仲間入りをしているようで複雑な気持ちだが、シャルルの安否を確認するためだと自分に言い聞かせて、お屋敷の裏に向かった。

その時、視線を感じでお屋敷の上の階を見上げた。特に誰もいなかったけど、一瞬執事のサンおじさんが見えたように思えた。

ピエトロは勝手口のドアを手慣れた手つきで鍵を開けた。昔、シャルルを外に連れ出すときも実はここの鍵を開けていたからやり方はもうわかっていた。

カミーユはどこからか木の棒を拾ってきており、それを握りしめたまましずかに屋敷の中に入った。

「本当に静かだな。なんか変だぜ」

お屋敷の中は奇麗に掃除されているが、お手伝いさんも誰もいなかった。

ピエトロ達は、音を立てないように注意しながらシャルルの部屋に向かった。

「ピエトロ。シャルルの部屋あいてるぞ。まわりしっかり見とけよ」

ピエトロは、腰をかがめてまわりに注意を払った。

シャルルの部屋に入ると、衣服などが散らばっていた。

カミーユが机の上の紙切れに気づき、手に取って読んだ。

「ピエトロ、たぶんシャルルからのメッセージだ」

ピエトロはカミーユから渡された紙を見た

慌てて書いたのか、字が書きなぐられていた

『ノヴァエ テラエ』

「ノヴァエ テラエ?あの洋館の事?」

ピエトロがカミーユにそう聞こうとした瞬間、カミーユはピエトロの口を手でふさいだ。

「廊下に誰かいる」

カミーユはジェスチャーでそう伝えた。

ピエトロ達は急いでベットの下に隠れた。二人は息を殺してドアの隙間から廊下を見ていた。

執事のサンおじさんだった。だけどいつもと雰囲気が違う。いや、でかい。2mは越えている。ビックリして声を出しそうになったけどピエトロは必死に口をおさえた。

足を引きづる様にそのまま部屋の前を通り過ぎて行った。

ピエトロは、何を見たのか理解できずにいた。

「見たか?あのサンおじさんみたいなやつ。黒いしっぽあったぜ」

カミーユは声を殺しながら話をつづけた。

「なんだかわからねぇけど、一旦外に出るぞ。」

日も暮れてきていた。シャルルの部屋は赤く照らされ始めていた。

2人はドアに近づき廊下を覗いた。向こうの方にサンおじさんの背中が見える。おしりの辺りから黒いウネウネしたものが見えるが、ピエトロはパニックになりそうだったので目を背けた。

「今のうちに裏口までいくぞ」

音を立てない様に急ぎ足で1階の勝手口へ向かった。

勝手口につくと、扉は木の板で打ち付けられていた。

ピエトロは鳥肌が立った。頭の中がグチャグチャでどうにかなりそうだった。足が浮いたような感覚になっていた。

扉を打ち付けていたら音で気づく。そんな音は聞こえなかった。お屋敷はずっとなんの音もなかった。

「冗談じゃねぇぜ。何がおきてるんだよ。ん?そこの窓からでられるんじゃねか?」

打ち付けられたドアの横には窓があった。鍵も開いていたので出ることができた。カミーユは本当に信頼できる。ピエトロは彼がいるから恐怖の中でもなんとかしのいでた。

「とにかく家まで走るぞ。なんだかマジでおかしいぞ」

お屋敷の庭は、真っ赤に染まっていた。2人は走って門までたどりついて、石垣に足をかけて門を越えた。

「ピエトロ、見たか?サンおじさんすげぇでかくなってるし、しっぽはえてたぜ?夢でも見てんのかよ」

そういってカミーユはピエトロを小突いた。痛いと言うと、カミーユは夢じゃねぇとブツブツ言いながら何かを考えていた。

ピエトロはシャルルの手紙をポケットに入れていた事を思い出しそれを取り出した。

『朝に気を付けて』

2人は立ち止まった。

「ピエトロ、なんだそれ?どこで拾った?」

「これ、シャルルの部屋で見つけた手紙だよ。ポケットに入れてたんだ」

「ノヴァエ テラエって書いてあったじゃねぇか」

「・・・。」

「とにかく一回お前の家に行こうぜ。」

2人は急いでお店に戻った。ピエトロは急に居なくなったからお母さんたちが心配してるだろうなと思った。

「なんかおかしくねぇか?誰にも会わねぇぞ」

町長さんの家までは町の中心の商店街を通る。いつもお店もあいているし、買い物するお客さんも沢山いる。なのに誰もいない。

すごく怖くなってきた。2人の足はさらに速くなった。

2人はピエトロのお店についたが、そこにも誰もいなかった。

2人は入口でどうしていいかわからず立ち尽くしていた。

「そんなところにいないで入ってきなさい」

突然話しかけられて、2人はビックリして飛び跳ねた。

お店の奥のテーブルに、ひまわりの絵が沢山描かれたマントのようなものを羽織ったもじゃもじゃヒゲのおじいさんが座っていた。

「誰だあんた」

カミーユは手に持っていた木の棒を握りしめた。

「わしの名前はサーンス。ちょっと気になる事があっての。この町に寄ったんじゃ。安心せい。わしは怪しくないぞ。フォッフォッフォ。」

もじゃもじゃのヒゲをワシワシと掴みながら笑っている。

「ピエトロ、どうする?一発パチンコ打ってみろよ。」

ピエトロはリュックからパチンコを取り出した。

「待て待て、そうじゃぁない。選択を間違えるな。変なものを見なかったか?黒いしっぽの生えたやつじゃ。いや、見たじゃろ。見てないわけがない。」

ピエトロはその言葉に動揺した。無意識に忘れようとしていた、さっきの光景が目の前に浮かんできた。

「見たか見てないかなんてアンタにはかんけぇねぇ。何か知ってるならしゃべれ」

「フォッフォッフォ。教えるから落ち着きなさい。まずは外が危ないからその扉をしめなさい。外が赤くなってるじゃろ」

カミーユは何かを考えていたが、チッと舌打ちをして扉を閉めた。

するとサーンスは立ち上がり何かを取り出した。

「クラウデーレ オウスティム」

白く淡い光が少しづつ大きくなり、部屋を包みだした。

「何やってるんだジジイ!」

カミーユは手にした木の棒をサーンスに向かって投げた。

しかし、木の棒は途中で止まり、しずかに床に落ちた。

「な、なんだよ・・・マジかよ・・・」

「安心せい。わしは良い魔法使いじゃよ」

するとピエトロとカミーユは急に眠くなり、ゆっくりと夢に落ちていった。。。

「フォッフォッフォ。とにかく休みなさい。」

つづく・・・か?

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