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ないことないこと日記

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日常は面白い(はずがない)。 ※この日記はだいたいフィクションです。
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2022年2月の記事一覧

2/28(月)

ちびた消しゴム『私』はこんな噂を聞いた。

小学校の頃、使いかけの消しゴムがあとちょっとのところでどこかへなくなるのが不思議だった。
しかし、それは落としたりしたのではなく、こっそり持ち去られているのだという。
学校の奥の使われなくなった教室で、一番大きな練り消しを作りたかった怨念が、その使いかけの消しゴムを集めては、せっせと練り消しを作っているのだという。
宿直の先生や校務補さんが見たとかいうこ

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2/27(日)

星取り迷路よく晴れた夜だった。
『私』は星々を見つめていた。
星座はよくわからないが、星がたくさん見えて綺麗だった。

昔の人は何を根拠に星座をまとめたのだろうか、とか考えていた。
もちろん神話がベースなのはわかっている。
そういうことではなく、線形と実体がリンクしないということだ。

しかし、反抗して勝手な星座を作ってみようとしたが、意外と難しく、挫折してしまった。
大きなものを思い浮かべるのは

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2/26(土)

微塵切り『私』はハンバーグを食べたくなり、自宅で作り始めた。

玉ねぎを微塵切りにする。
無心で微塵切りする。

気付けば玉ねぎは微塵になり、霧消していた。

気を取り直して、豚肉の塊をミンチのために微塵切りにする。
無心で微塵切りにする。

気付けば豚肉は微塵になり、霧消していた。

微塵切りをし過ぎて、腕はだるく、ただ腹が減ったのだった。

2/25(金)

ワンコイン午後、何の気なしにフリマサイトを覗いてみると、『第二ボタン』が出品されていた。
100円だった。
とはいえ、どのボタンももらわれたことのない『私』には、正直なんだかうらやましかったりもした。
そんな風につつがなく一日は過ぎていったのだった。

2/24(木)

なぞかけ婆『私』は昼間からパチンコ屋の前の公園のベンチでのんべんだらりとしていた。
遠くのベンチでは、おじいさんがパン屑を鳩の群にばら撒いている。
静かで穏やかな日だった。

「お兄さん、かけてみないかい?」
突然、ベンチに座ってきたお婆さんは『私』にそう言った。
「賭け事はあんまり好きじゃないんですが……」
「違うよ、なぞかけだよ」
なぞかけは特に好きでも嫌いでもなかった。
「じゃあ、あたしから

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2/23(水)

三匹二千円朝起きると首が痛かった。
寝違えたらしい。
身体を起こすのにも難儀した『私』は、これ以上痛いのが嫌だったので、薬を調べてみた。
すると、苦虫がよく効くということだった。

早速、『私』は漢方薬の店に向かった。
「いらっしゃい」
イメージ通りの沢山の引き出しの前で、店主のおじいちゃんが出迎えてくれた。
「寝違えたので、苦虫をください」
「今どき珍しいねえ、苦虫なんて」
店主は老眼鏡をかけ直

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2/22(火)

二度寝朝の液のホームのベンチで、気持ちよさそうに寝ているおじさんがいたので、どれほどのものかと思い、『私』も横で寝てみることにした。

寒い。
2月の朝だから当たり前だった。

寒さで30分ほどで目を覚ましてしまったが、おじさんは横で眠ったままだった。
『私』はおじさんが寒くないように、読み終わった新聞紙をそっとおじさんにかけてあげて立ち去った。

2/21(月)

あざらし食感コンビニで『私』は、『あざらし食感』と書かれた紙パックのドリンクを手に取った。
興味本位だった。

ストローを突き刺して、思いっきり吸い込む。
が、全然出でこない。
力一杯吸い上げると、ようやく中身が出てきた。
プルプルでわずかにコリコリとした食感だった。
しかし味はりんご味だった。
なるほど、あざらしい食感の、よくある味の飲み物だった。

正直、あんまり美味しくはなかった。

2/20(日)

無縁バター家のチャイムがなったので出ていくと、警察が来ていた。
『私』に用があるという。

「先日、通報された人喰い虎の件でお伺いしました」
「ああ、この前の」
「非常に残念なお話ですが、追跡の過程で、あの虎がバターになってしまいまして……」

話はこうだ。
警官隊と猟友会を動員して行われた山狩りの末に見つかった虎は、ある警官から逃げる際に、大きな木の周りをぐるぐると追いかけっこする形になったらし

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2/19(土)

むけどもむけども『私』の家のそばの一軒家の前で、泣いている女の子がいた。
どうしようか迷い、ためらいつつも声をかけた。
「どうしたの?」
「玉ねぎむきすぎちゃったの。気づいたら全部なくなっちゃったの」
「そうか……。それでお母さんに怒られちゃった?」
「違うの」
女の子は首を振った。
「目が痛いの」
そう言って女の子は目元を拭うと、手についていた玉ねぎの汁で更に涙が止まらなくなった。
「大丈夫。辛

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2/18(金)

角砂糖が消えるまでふと入った喫茶店で、『私』は紅茶を頼んだ。
何の変哲もないブレンドティーをストレートで頼むと、ほどよく透き通った紅茶が出てきた。
卓上の白い角砂糖を小さなトングでひとつつまみ紅茶の中に落とすと、少しずつほろほろと解けて溶けていった。
小さな気泡をいくつも放ちながら、ゆっくりと角砂糖は小さくなっていき、やがて溶けて見えなくなった。
それをただ何となく眺めていた。
午後のことだった。

2/17(木)

しらたきを啜れお昼時、『私』が公園でぼけーっとしていると、向かいのベンチで若い女性が二人並んでお昼を食べていた。
髪の長い細目の女性は曲げわっぱのそぼろ弁当を、茶髪のショートヘアの女性はカップスープから麺のようなものを啜っていた。

「そのスープ春雨おいしい?」
髪の長い女性は茶髪の女性に訊いた。
「これ、違うの。スープ白滝」
「はあ? 白滝? なんで?」
茶髪ショートの女性はこともなげに答える。

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2/16(水)

当たりのはず『私』は急いでいた。
ギリギリの乗り換えをこなすために速足を続けた結果、喉が渇いてしまった。

僅かな待ち時間に、自販機で水を買った。
すると、少しの時間の後、自販機から聴きなれない音がした。
『当たり』が出たのだ。
もうすぐ次の電車が来る。
『私』は慌てて適当な飲み物のボタンを押したが出てこない。
自販機の制限時間は三十秒だ。
慌てて出鱈目にボタンを押すも出てこない。

『私』は気が

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2/15(火)

やきそば戦争帰り道、『私』の家の近所の安アパートの前を通りがかった時、若い男が大声で電話をしていた。
「だから、やきそば弁当は送ってこなくていいって!
 別にこっちでも買えないわけじゃないし、だいいち、やきそばはUFO派なんだって言ってんじゃん!」
若い男の傍らには、やきそば弁当の段ボール箱が見えた。
若い男が電話を切った直後に、大声が障ったのか、横の家からおばあちゃんが出てきた。
おばあちゃんは

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