2/24(木)

なぞかけ婆

『私』は昼間からパチンコ屋の前の公園のベンチでのんべんだらりとしていた。
遠くのベンチでは、おじいさんがパン屑を鳩の群にばら撒いている。
静かで穏やかな日だった。

「お兄さん、かけてみないかい?」
突然、ベンチに座ってきたお婆さんは『私』にそう言った。
「賭け事はあんまり好きじゃないんですが……」
「違うよ、なぞかけだよ」
なぞかけは特に好きでも嫌いでもなかった。
「じゃあ、あたしから。お題は何か好きなのを言って」
「わかりました。そしたら……、天ぷらとかどうでしょう」
お婆さんはしばし黙り込んで考え始めた。
「整いました! 天ぷらとかけまして、焼き鳥ととく」
お婆さんは、キッとこちらをにらんだ。
「……そのこころは?」
「どちらも、塩でもタレでも美味しい」
お婆さんはドヤ顔をしている。
『私』が返事に困っていると、お婆さんは不服そうに言った。
「おまえさんもやってみい!」
「……整いました。天ぷらとかけまして、南の島への旅行とときます」
「そのこころは」
「どちらも、衣は薄めが良いでしょう」
お婆さんはいかにも悔しそうな顔をした。
「あんた、やるな。なら次のお題だ」
受けて立とう。と声に出さすに心した。
「ほら、あそこにいる。鳩だ」
こういう時は、案外閃きは早いものだ。
「整いました。鳩とかけまして、噛み合わない会議ととく」
「そのこころは?」
「どちらも、ふんがいに注意しましょう」
「ぎゃふん!」お婆さんは顔を真っ赤でしわしわにして、梅干しみたいになってしまった。
「ふん! いいだろう。
 …………………………、
 …………………………、
 ………………整いました!」
「どうぞ」
「鳩とかけまして、礼儀正しい人ととく」
「……そのこころは?」
「どちらも、立つ鳥跡を濁さず」
『私』はしばし沈黙した。
「さらばじゃ!」
お婆さんは足早に公園を横切って出て行った。パン屑をついばんでいた鳩の群れが、お婆さんに驚いて騒がしく飛び立っていった。

かくして、公園はのどかであった。

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