角野信彦

人間とチンパンジーのハーフ"ヒューマンジー"は、差別を打ち破るヒーローとなるか『ダーウィン事変』

人間とチンパンジーのハーフ"ヒューマンジー"は、差別を打ち破るヒーローとなるか『ダーウィン事変』

【レビュアー/角野信彦】 今年のアカデミー賞で「Judas and Black Messiah」が作品賞にノミネートされ、この映画で黒人の権利のためには暴力的な手段も辞さないというブラックパンサー党のリーダー、フレッド・ハンプトンを演じた、ダニエル・カルーヤが助演男優賞を獲得しました。 その他にも「マ・レイニーのブラックボトム」で「ブラックパンサー」でブレイクしたチャドウィック・ボーズマンが主演男優賞でノミネートされていたりして、近年のBlack Lives Matter

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希望がない国:日本 探してみたけど「そこそこの人生」なんてどこにも無かった件『僕たちがやりました』

希望がない国:日本 探してみたけど「そこそこの人生」なんてどこにも無かった件『僕たちがやりました』

※本記事は、「マンガ新聞」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。(編集部) 【レビュアー/角野信彦】 あなたは「そこそこの人生が生きられればいい」と思ったことがあるだろうか。現代の若者たちにアンケートを取ると、必ずといっていいほど、日本の若者たちが自分たちの将来に「悲観的」に生きているということがわかる。 例えば、内閣府が行った、「平成25年度 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」では、調査に参加した各国に比べて日本の若者たちの将来に対する「希望」が著しく

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和山やまが「ヤクザと中学生の物語」を描く時、ステレオタイプは崩壊する『カラオケ行こ!』

和山やまが「ヤクザと中学生の物語」を描く時、ステレオタイプは崩壊する『カラオケ行こ!』

【レビュアー/角野 信彦】 合唱部の中学生が、ヤクザの幹部にカラオケを教える。これだけ聞くと「ああ、きっとヤクザがいじめられる中学生を暴力で助けるのかな」というような「水戸黄門」型の物語を想像するかもしれない。ところが全くそういう描写がなく、人間と人間の交流、感情の動きがていねいに描かれていく。これがこの『カラオケ行こ!』の最大の魅力だ。 『カラオケ行こ!』(和山やま/KADOKAWA)より引用 主人公で合唱部の男子学生・岡聡美(おか・さとみ)は「変声期」という難題にぶ

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双極性障害が正しく診断されるまでには8年もかかる!?『Shrink~精神科医ヨワイ~』

双極性障害が正しく診断されるまでには8年もかかる!?『Shrink~精神科医ヨワイ~』

精神科医にかかるというのがすごくマイナスのイメージにとられるということは減ってきているとは思う。でも、風邪をひいたり、湿疹がでたりといった病気で気軽にクリニックを訪れる感じにはまだなってはいないのではないか。 この作品は精神科医とその患者の日常を丁寧に描いている。とりわけ医師の活動をストーリーのメインに据えるのではなく、患者の人生を深く描こうとしているところがおもしろい。 『Shrink~精神科医ヨワイ~』(七海仁/月子/集英社)より引用 自分の取り扱い説明書を知って、

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25年後のカンチとリカの姿『東京ラブストーリーAfter25years』

25年後のカンチとリカの姿『東京ラブストーリーAfter25years』

恋愛をするってこと自体が、コロナと共存する世界では希少な経験になるのかもしれない。最近よく見ている「恋愛ドラマ」に不思議な懐かしさを感じる。いままで、恋愛ドラマを観る習慣がなかったけど、携帯電話のない時代の、恋人たちのアンソーシャルディスタンスを楽しんでいる。 2020年5月から再放送された『愛してると言ってくれ』を見て、勢いでアマプラにある1991年放送のドラマ『東京ラブストーリー』まで楽しんだ。『東京ラブストーリー』が放送された1991年は携帯が普及していない時代だから

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夢を叶える夢を見た『舞妓さんちのまかないさん』 変わる人間と「変わらない味」の日常料理の強さ

夢を叶える夢を見た『舞妓さんちのまかないさん』 変わる人間と「変わらない味」の日常料理の強さ

人間は変わる、変わらない日常の料理の力とは 去年の夏に母親が亡くなったのですが、その日になにを食べていたのか、その翌日なにを食べていたのか全く憶えていません。葬儀とか遺産の相続とか、保険の手続きとか、いろいろな非日常のなかで、我を忘れていました。なにかに没頭することで母親がいなくなったことの喪失感を忘れようとしていました。 そうやって母親がなくなってから記憶がほとんど欠落しているなかで、初七日が終わって父親が夜遅く、来客の後片付けをしていた僕に作ってくれた素うどんだけ、正

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「大本営発表に騙された」という言葉の耐えられない軽さ『風太郎不戦日記』

「大本営発表に騙された」という言葉の耐えられない軽さ『風太郎不戦日記』

第二次世界大戦中、インテリ医大生は何を考えていたのか 山田風太郎の『戦中派不戦日記』が『風太郎不戦日記』という漫画になった。 山田風太郎は深作欣二が監督した『魔界転生』などを書いた大衆小説のヒットメーカーで、1964年に出た『山田風太郎忍法全集』の発行部数は300万部と言われている。よって、1974年のシリーズ終了までの発行部数は相当なものになるはずだ。 このヒットメーカーである小説家は、戦時中は東京医科大学の学生で、徴兵を免除されている。両親が早逝したあと実家を飛び出

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40歳を過ぎた「老人」を消し去るシステムが生みだす経済成長とそれぞれの正義『テンプリズム』

40歳を過ぎた「老人」を消し去るシステムが生みだす経済成長とそれぞれの正義『テンプリズム』

老人と若者、豊かさと環境「文明の衝突」が始まる 人間が「神話」を求めるのは社会に不満があるとき。為政者が「英雄」を求めるのは、説明の難しいルールを人びとに根付かせようとしているとき。「文明」が衝突すれば、そこにはふたつの正義があらわれ、それぞれの正義が歴史を生みだす。 『テンプリズム』が面白い。何が面白いって、曽田正人が「文明の衝突」を描いている。正義と正義の衝突を描いている。曽田正人は「ライタイト」が代表する文明(骨の国)に、若者を重視し、社会は進歩し続け、自然をコント

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