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恋愛小説 震える声

恋愛小説 冬の恋人

恋愛小説 39 どうしてなにが不安なの だってもう手に入れたじゃない 一番の望みと興味は満たされたはず 光らない宝石より 石ころなのに光輪を纏っていたとしたら それを拾いたくなって当然よ 「やっぱり。私は身代わりね」 光らなくても宝石は宝石 生まれ持つ貴

恋愛小説 40 「そういうところがひねくれているんだよ。いや、冷めてるのかな」 喫茶店のビールはなぜかバドワイザーだ 昼間から牛肉を焼いた、ポテトとクレソン添えと、バドワイザーの赤いロゴのグラス 左斜めの男性がよく見える 男性からは私が見ているのはわからない

恋愛小説 41 昼間から贅沢な時間を過ごす男性は 熱い時代を生きて 今は2歩も3歩もクールダウンして生きているのだろうか 「今日は普通にアイス珈琲。君がそんなの飲んでいるから。なんだよ、それ」 「なんだよ、って牛乳よ。アイスミルク」 ホイップクリームとメロン乗せ

恋愛小説 37 「やあ」 「珍しい。急いでた?」 いつも取り乱したことがない人 こと、恋愛に関しても 「暑いから。待たせているのも悪いと思って」 「どうして?冷房きいてる」 「君、冷えると外のほうが暖かくていいってすぐ出るだろ。僕は暑くて死ぬ。今日のはなに?」

恋愛小説 38 「マンデリンとブラジルのブレンド」 もちろんHotだ マスターがカプチーノを運んでくる アイス さっきアイスって言わなかった いつもカプチーノのアイスを頼んでいる、と言うことね 私のいない日も、それはあなたの自由 ただシナモンは今日は要らないのね

恋愛小説 36 「カプチーノ。あ、シナモンは要らない」 ♪カランコロン♪ 扉の鈴が鳴った時も、私は澄ましてカップに口をつけたままだった 視線を上げなくても、あなたが来たと言う予感があった カプチーノ シナモンは要らない、ね そんなもの頼むんだ 目を上げた

恋愛小説 29 「毎朝、毎晩。君と珈琲を飲んで会話する。散歩をして別れる。毎日会えると思えば、それで幸せなんじゃないか」 鏡に映るわたし 背後で首筋に顔を寄せるあなた 「言い聞かせても、会いたくなる」 たぶん、非難されるのはわたし あなたは男でそれに恋愛小説家だもの

恋愛小説⑭ 「君こそ性格悪いだろう」 そんな見透かした言葉を吐く わたしは黙ってモカマタリの豊潤な香りを飲み込む そんな母の弁当屋に通いつめた頃は あなたも少年で一緒に母と笑っていたのだろう 姉のような無邪気な女とは何もない 弟とは結婚出来ないし わたしは妹と同じ

恋愛小説 30 波の音 それはまるで雨の鳴き声 夜の海 くっきりと浮き上がる木々 濁り湯に白く浮き立つ 触れれば確かにやわ肌が 諦めにも似た蜃気楼に投げ出されている けぶるような湯気の向こうの岩山から 獅子が分け入ってくる 私の恋愛小説家 岩山の陰

恋愛小説 32 首に腕を絡ませる 「どうして私の顔を見ないの」 あなたは答えない 二人して目を閉じる 途切れながら飛び越しながら 息遣いを互いに聞いている 潮騒だけが私たちの愛を知っている 「好きなのか愛しているのかわからない」 区切るように聞いてみる

恋愛小説 24 「美味しい」 珈琲は濃く、苦味の中に甘みを感じる 酸味は後から僅かに感じる程度 惜しまず豆を挽き ふんだんに粉を ムラなく湯を注いでいる だから重厚な濃度 あなたの視線にやり場のない気持ちで 卓の右上の木彫りのタペストリーを見上げる 見ないで

恋愛小説家 34 「パナマ・ゲイシャ」のアイス珈琲は、黒くなめらかな光沢を、露の汗をかきながら冷ややかにすましている アイスだからか香りを感じない ブラックに寂しさを覚え、ミルクを そして違和感 それはガムを入れても最後まで拭いきれなかった パナマ・ゲイシャ

恋愛小説 33 あなたはなにも答えない 首に回した腕に、ただ力をこめる 私の両足は違う生き物のように あなたの動きを追っている それはあなたもかも知れないし 溺れることも沈むことも知っていたから 私は私は スクリーンの中のあなたと私を 今こうして何度も巻き返す

恋愛小説25 「君がパナマ・ゲイシャを選ぶなら、僕はプリンセス・萌香にしよう」 わたしたちはその日、ある展望室の茶寮にいた ベージュ系のワンピースに一粒のパールのネックレス 母子家庭で育ったうえに、今は天涯孤独のみすぼらしさが漂ってはいないか、無意識以前に緊張を強いられる

恋愛小説21 「可愛いな、と思ったよ。いつか犯してやろう、と決めてたんだ」 どこまで冗談かしれない人だ 「そう言えば少し怒っているみたいだった。だからちょっと怖かったの覚えてる」 機嫌が悪かったのは母に似ていたからだ 「わたしは男の人に期待してないし、望んだりしないの」

恋愛小説 28 男の言う『可哀想』と 女の言う『可哀想』は 全く意味が違うと思った日 男の人の下心とは違う愛情ってなんだろう 同情憐れみ 女の人の言う『可哀想』って 心にもないこと言っているのになぁ って冷めて思っても 結局惨めに映るのは 親のないわたしなの

恋愛小説 35 あなたと初めて迎えた朝だからか 「パナマ・ゲイシャ」そのものが アイスに向かないのか 私の体内で何かが変化して 味覚を変えたのかわからないけど これだけははっきりしている 暑い季節が近づいている そしてまた梅雨が戻ってくる 通り雨が情熱を冷ます

恋愛小説31 「風が出てきたね」 吹き止まりの波紋に投げ出されて 戻れずに、四羽の海の鳥 「暑い」 「まるで夏だね。熱い体だ」 陽の光は目の前の海からやって来る ここで毎朝生まれるかのように きらきらと輝いている 潮騒がはっきりと聞こえる 岩を砕く波の音だ