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長谷部浩の俳優論。

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歌舞伎は、その成り立ちからして俳優論に傾きますが、これからは現代演劇でも、演出論や戯曲論にくわえて、俳優についても語ってみようと思っています。
劇作家よりも演出家よりも、俳優に興味のある方へ。
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#蜷川幸雄

高橋一生、その光と影

高橋一生、その光と影

 現在、東京芸術劇場で上演されている『兎、波を走る』(野田秀樹作・演出)で、高橋一生は、脱兎の役を演じている。『フェイクスピア』以来、二度目の野田作品での主役。髙橋は妄想の闇のなかで、孤独に生きる人間を見事に演じていた。

 高橋一生は、まぎれもなく二枚目だけれども、明るいだけの好青年ではない。そこには、陰翳を礼賛する精神がある。蛍光灯の明かりではなく、行燈の灯りに揺れる人影の美しさ。その傾きを大

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秀作『あでな//いある』を観て、俳優内田健司が、蜷川幸雄演出の『リチャード二世』で人間の本質に突き刺さる演技を見せていたことを思い出した。

秀作『あでな//いある』を観て、俳優内田健司が、蜷川幸雄演出の『リチャード二世』で人間の本質に突き刺さる演技を見せていたことを思い出した。

 ほろびての新作『あでな//いある』(細川洋平作・演出)が、評判になっています。私も今年を代表する舞台が、新年早々生まれ、その誕生に立ち会えたことをうれしく思います。

 この作品に、客/いべ役で出演している内田健司さんは、かつてさいたまネクスト・シアターのメンバーとして、蜷川幸雄さん演出の舞台に立っていました。
 蜷川さん最晩年の傑作『リチャード二世』のタイトルロールを演じたのが、内田さんです。

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確かな技術があると、どこかで古典性を持ってしまう。六代目染五郎の思い出。

確かな技術があると、どこかで古典性を持ってしまう。六代目染五郎の思い出。

 演出家蜷川幸雄が、はじめて舞台で出会った歌舞伎俳優は、六代目市川染五郎(現・二代目松本白鸚)だった。

 現代人劇場、櫻社と小劇場演劇で頭角を現してきた蜷川に、東宝の中根プロデューサーから声がかかった。
 演目は、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』。一九七四年、日生劇場での公演を、私は古文の先生と観に行った。私は高校生だった。
 三重のバルコニーをロミオとジュリエットが疾走する舞台に圧倒さ

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才能が七割。

才能が七割。

 俳優の資質とは何か。才能と運の比重は、どちらが重いのか。ぶしつけにも、演出家蜷川幸雄に尋ねてみた。

 「正直いって才能が七割でしょう。(中略)「おい、それはしゃべり言葉になっていないだろう」なんてダメ出しをするレベルのやつが、後に伸びたなんていうケースは、一度もないです。ちゃんと自意識を飼い慣らして、舞台の上でそんな会話でも普通にできるのは、最低条件でしょうね。会話ができなくても、全く可能性が

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【劇評238】街路灯が照らし出す人類の終焉。長塚圭史演出の『近松心中物語』。

【劇評238】街路灯が照らし出す人類の終焉。長塚圭史演出の『近松心中物語』。

 現代演劇として、秋元松代の『近松心中物語』を演出する。

 長塚圭史演出の舞台は、この姿勢に貫かれているところをおもしろく見た。

 一千回以上もキャストを変えつつ上演された蜷川幸雄演出の舞台との比較は、どうしても避けられない。また、秋元自身が、文楽の『冥途の飛脚』を原作としたと明言しているが、現在でも頻繁に上演される『恋飛脚大和往来』(「封印切」「新口村」)もまた、観客によっては強く意識される

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