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若年層に共感を得られた「剃るに自由を」広告

”貝印”の顧客理解のためのインサイト発掘方法とは


貝印株式会社は、カミソリに代表される刃物を中心とし、調理用品や化粧道具、衛生用品を販売するメーカーである。

ビューティーケア用品も扱い、幅広い年代層へ影響を与えるコミュニケーション施策も実施している企業だ。

そんな貝印がどのようにして若年層の共感を生み出し、反響を得る広告へと至ったのか、またそのポイントは何であったのだろうか。

貝印が市場調査を実施する際、運営しているコミュニティがあるのだが、
そのコミュニティでは平均年齢が50歳と比較的年齢が高いという特徴をもっている。「貝印」という企業としての認知度は2割~3割、という結果から
企業認知度への向上が「課題」となっていた。

その「課題」を解決してくれるかのような広告が2020年の広告、「剃るに自由を」であった。

「剃るに自由を」という大胆な広告メッセージはOOHや交通広告、SNSなどへの掲載で多くの人の目に触れられ、認知度に直接つながる広告となったが、この広告コンセプトを着想したきっかけとは何だったのだろうか。

それは、貝印社員による「脇毛=一般的に汚いもの、というイメージがある」というコメントがきっかけであった。

なぜ「女の子」だけ「脇毛」を剃らねばならないのか、
なぜ「恥ずかしい」という想いを女の子だけが受けなければならないのか。
この”ジェンダーレス格差”をきっかけとしたインサイトからコンセプトが着想されたのだという。

「女性」であっても脇毛を剃らなくてもよい、という寄り添うメッセージをつくり、発信したことで「共感」を得られるコミュニケーションになったのではないか。

結果的に、「剃るに自由を」という貝印による広告メッセージは国内外160の媒体で取り上げられ、1226万回のSNSリーチ数を獲得することとなった。

また、貝印が「課題」としていた「若年層に対するブランド認知」も広告掲載後、10%以上向上した。
正しいエンパワーメントであるメッセージを発信したことで、「勇気をもった」とのコメントも多く受け取ることとなった。

この結果が得られた背景には、貝印が実施した「分析方法」が関係している。

そもそも、「貝印」としては今回企業利益に直接的につながらない広告を発信しているのだが、(※貝印株式会社は、カミソリに代表される刃物を中心とし、調理用品や化粧道具、衛生用品を販売するメーカーである)

この”矛盾”の原因は貝印の独自のマーケティング手法である「セグメント分析」の考え方にある。

一般的に「顧客を理解する」となった場合、マーケティング調査で実施されることとしてはセグメント軸である「年齢」や「性別」などのデモグラフィック分析がなされる。細かなターゲティングをする際に特に有効だ。

今回の「剃るに自由を」広告では「性別」や「年代」でのセグメントではなく「思想」や「考え方」などのサイコグラフィック分析による施策への落とし込み、コミュニケーション手法が若年層の「共感」の獲得へと繋がっていったのではないかと考えられる。

ユーザー自身が抱えていた「毛は剃るもの」という固定観念を覆す広告であったとともに、新たな「思想」を生み出す広告でもあったのではないかと思う。ユーザー自身の「当たり前」と考えつつも「しなきゃいけない」という縛られた考え方を見直すきっかけになったのではないだろうか。

また、ユーザーへ「寄り添う」広告とは何か、寄り添うことで世の中にどんな価値(ここでいう”価値”とは、ユーザーが自発的に気づいて新しい思想を認知してもらえること)を与えることができるのかを考えるきっかけとなった。

今回の「剃るに自由を」という広告事例に限らず、広告のコンセプトが人々に与えることのできる影響度にも気づくことができたのではないだろうか。広告コミュニケーションの面白さはここにあると思う。



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