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フリーランス2年目。働き方とお金と自信の話。③

※①(働き方について思うこと)と②(お金について思うこと)はこちら↓

〈小さな自信を力に変えて。〉

自分の腕に自信を持つことはなかなか難しく、納品前はいつも不安に駆られている。自分の解釈は間違っていないか、勘違いしている箇所があるんじゃないか、表記のミスを見落としていないか、もっといい表現があるんじゃないか…考え出したらキリがなく、永遠に見直しをしていたくなる。

客観的に自分の力を判断できないうちはまだまだなのかもしれないが、適切な自信が持てないとお金の交渉をしようという気にもならない。それで駆け出しの頃は、自分のレベルで「人並みの金額」を出してもらおうなんてずうずうしいよね、などと思って格安に甘んじてしまう。

でも本当に「人並みの金額」ももらえないほど自分の仕事がひどいのかと考えると、そこまでじゃないはずだと、徐々に思えてくる。 積み重ねた経験から少しずつ小さな自信の芽が出てくるのだ。その小さな芽は、必要以上に自分を卑下して抑圧していた固い泥のようなものを突き破って出てくる。固い泥にヒビが入り、はがれ落ちていくことで、初めて純粋な向上心を持って仕事に臨める気がする。

前回の②で述べたように最初の1年間で自分の安売りはやめようと決めつつも、いよいよ2年目を迎えるという頃になると、やはり不安な気持ちもむくむくと膨らんだ。そんな時、最終的に背中を押してくれたのは、第三者からの評価だった。納品物をストレートにほめてくれる担当者さんがいて、その言葉で視界が少し開けた気がした。ここまで来た自分の立ち位置は、どうやら悪くはないようだ。適切な自信を持って、真っ当な単価で仕事を受けていいんだと改めて思えた。複数の仕事を抱えていて多忙なはずなのに、丁寧にお褒めの言葉をかけてくれる担当者さんは、とても貴重でありがたい存在だ。小さな自信の芽に確かな栄養を注いでもらったような、視界を遮っていた周りの雑草を刈り取ってもらえたような、心強くて晴れやかな気分になる。

きっと、何年この仕事をしても自分に絶対的な自信を持てる日は来ないような気がする。だから、とにかく小さな自信の芽を枯らすことなく、大切に水をやり続けて、ある日気づいたら「ちょっと成長したかな」と思えるようになればいいなと思う。そのためには目の前の1つ1つの仕事に全力で丁寧に取り組んでいくしかない。まだまだこれからだ。

〈おわりに〉

3回にわたってフリーランス2年目に思う働き方とお金と自信の話をしてきたが、あえてまとめるなら、やっぱり自分の人生は全部、自分次第だということ。そして、自分の考えは日々変わっていくということだろうか。

折に触れて頭に浮かぶ言葉がある。

「人間は考える葦である」

17世紀フランスの思想家パスカルの有名な言葉だが、改めてその意味を引用してみる。

広大無辺な宇宙に比べれば、人間は無に等しく、「一茎の葦」のごとく弱く悲惨な存在にすぎないが、それは「考える葦」であり、思考によって「宇宙を包む」ことができる。ここに人間の尊厳があり、偉大さがあるという。このような偉大と悲惨、無限と無という相矛盾しあう二律背反のなかで、揺れ動く人間の存在を、パスカルは「考える葦」ということばで象徴させているのである。

コトバンク 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)『パンセ』の項目より

考えることをやめてはいけない。そう思うのは、何でも「慣れ」が出てくるとすぐに何も考えなくなってしまうからだ。そういう自分を戒めたり、自分の可能性を信じたい時に、この言葉が浮かぶのだ。

私は新卒で翻訳とはまったく関係ない会社の正社員になり、働き始めてわりとすぐに「自分は会社に属して働くのはイヤなんだな」と悟った。その会社が好きになれなかったのだけど、きっと転職したとしてもそれが「会社に属する」という形である限り、似たようなストレスからは逃れられないと思ったからだ。

私は就活に奔走していた大学生の頃、気づかぬままによく分からない大きな波にのまれていて、完全に自分を見失い、「生き方」を選ぶのではなく「会社選び」に走ってしまっていたのだと気づいた。だから、少し出遅れてしまったが、就職してから改めて「どう生きていきたいか」を考え始めた。自分が本当にやりたいことは何だろうと日々考え、時間はかかったが「これだ!」という出会いがあり、働きながら翻訳学校に通い始めた。その後、将来を見据えて少しだけ回り道もして、晴れてフリーランスになった。失敗した就活と、会社勤めをして抱いたさまざまな思いと、これまでの数々の選択のすべてがあって今があるのだと思うと、何とも不思議な気持ちになる。

フリーランス2年目も、もう後半に突入する。翻訳の取引先を増やそうか、字幕だけでなく吹き替えにも挑戦しようか、いろいろと考えつつ日々を積み重ねている。これから私はどんな行動を取っていくだろう?それは自分でもまだ分からないが、来年も「去年よりいい感じ」と言えるようになっていたら嬉しい。そのために、日々感じながら、考えながら、できることをしていこうと思う。


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