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でもねぇ、バリの妖精が「聖徳太子」を盗むかね?盗まないと思うよ。ぜったいに!

結局、最後までMはお金を盗ったことを認めなかった。妖精トゥユールを犯人に仕立て上げ、「知らぬ、存ぜぬ」を押し通したのである。
でも、こういう結末が最初から予想できないわけではなかった。
そうだよな~ 飲んだら罪を自白する水なんて、あるわけないよなあ~ 
いや、もしかして、8人で分けたから量が少なかったのかな。4人くらいで分けていたら、効いていたかも。それとも、別の賢者のところ(Mはバリ人なので、バリ人の賢者のところ)に聖水をもらいに行っていたら、もっとすっきりした結末になっていたかもしれない。。。いろいろな思いが浮かんでは消えた。

村長さんは聖水を飲む場には居合わせなったので、あとで報告だけした。
これこれこうだったですよ。Mもやってないと、最後まで言い張ったんで、、、と説明すると「そう、まあ、そういうこともあるよね」と言って、村長さんはニッと笑っただけだった。「村長さんが勧めたから、試してみたんですよ。最初から無理そうだなあって予感はあったんですけど、、、」と、愚痴が出そうになったけれどもがまんした。村長さんだって、私たちのためを思って力を貸してくれたのだから、村長さんを責めても仕方がない。

あとになってからだが(数年後)、賢者の聖水作戦で成功した例があるというのを聞いた。ある町のある店で売上金が失くなったことがあって、従業員全員に聖水を飲ませたところ、犯人がよろよろと名乗り出たというのである。この例から私が思うのは、聖水の効果はともかくとして、犯人の置かれた状況というのが、犯人を自白に導くのではないか、ということだ。何人かで同時に聖水を飲むという儀式めいたシチュエーション、そして自分は周りから疑われているのではないかという焦り、動揺、、、そうした状況にだんだん耐えられなくなって、、、自白。心理的に追い詰められれば、ありうることだ。賢者の助言どおり、何人かで聖水を飲むという行為自体が、自白に一役かっていることは確かだと思う。
で、うちの場合はどうだったかというと、かなりいい線までいっていたのに、自白にまでは至らなかった。でも、あれだけMがひとりでペラペラしゃべりまくって、「やってない」を連発したのだから、彼女の中で何らかの力が作用したのではないかと思う。だけどMはしぶとく耐え抜いた。で、そこで彼女を救ったのが、苦しまぎれで持ち出した妖精「トゥユール」だった。

トゥユールは、バリ人なら誰もが知っている、お金(小銭)を盗むのが好きな、いたずら好きな妖精だそうだ。霊感とか霊的なインスピレーションなどとはまったく縁のない日本人の私にしたら、本当かいな??? という話ではあるが、不思議の島バリにおいては「ある=実在する」のである。見える人には見えるらしい。
では、トゥユールにお金を盗られたくなかったら、バリの人はどうするかというと、、、あらかじめトゥユールにあげてもいい小銭を用意して、お供え物といっしょに盗りやすいところに置いておく。そうすれば、トゥユールはそこからだけお金を盗っていくので、それ以上の悪さはしないというわけである。
でもねえ、トゥユールが「聖徳太子」とか盗むかね。盗まないと思うけどね。そうだよ、ぜったいに盗まないよ。と、声を大にして言いたい。

トゥユールが犯人に仕立て上げられた時点で、もはや外人(日本人)である私には、何の打つ手もなくなった。腹の虫は治まらなかったが、これ以上理屈でせめても、「ぬか」に「くぎ」を打つようなもので、労力の無駄であろう、、、仏教徒の末裔(?)である私はあきらめの境地に入った。
一方、「目には目を、歯には歯を」のイスラム人であるダンナは、こんなことで納得できるわけがない、と鼻息を荒くして、怒りのやり場に困っている様子。帰り支度をするMに向かって、最後にこんなふうに言った。
「お金を盗ったのは、あんただ。トゥユールとかなんとかいうバリのオバケ(?)じゃない。あんたにはぜったい恐ろしい罰が待っている。その罰から死ぬまで逃れられないんだぞ。いいか、覚えていろよ!」
それを聞いたMは、恐怖に顔をひきつらせ、足をもつれさせるように帰っていった。
「賢者」「聖水」「罰」という組み合わせは、バリ人にしたら、毎夜、悪夢にうなされるくらいの怖さではないかと思う。

次号(part10)に続く。うちから消えたお金の行き先は、村の金庫?






 


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