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お金を盗ったのは、バリの妖精? いたずら好きで、お金を盗むのが好き、、、 

う~ん。これは予想外の反応だった。Mはやってないと言い張っている。名乗り出るはずの人間が、自分はやってないと言っている。これをどう解釈すればいいのだろう。しかし、Mひとりが過剰に反応していることは確かだ。この反応の仕方はただ事ではないような気がする。もう一押しかもしれない。今度は私が口を開いた。
「ねぇ、M。ひとつ聞きたいんだけど、私たちが旅行に行って留守にしているとき、あなた、寝室にあった私のスーツケース開けたでしょ。で、閉められなくなって、Yに手伝ってもらった。どうして、頼まれてもないのにスーツケース、開けたりしたの?」
(さあ、どうだ。Yの証言があることを思い知らせて、私はあんたが犯人だと疑っていることをほのめかす作戦だが、、、)
私がMの顔をじっと見ると、小さな顔をこわばらせたMが、私をきっと見つめ返した。
「奥さん(私)、スーツケースは私が開けたわけじゃありません。勝手に開いちゃったんです。お掃除している時に、ほうきが当たって、、、」
(ちょっと待って。ほうきが当たって何それ???)私は目を見開いたまま、しばらく言葉を失った。それから息を吸い込んで、吐き出した。
「ほ、ほうきが当たって、スーツケースが勝手に開いた~ そんなことはぜったいにありえな~い。あのね、M。スーツケースはすごく頑丈にできているの。ほうきが当たったくらいでは開いたりしないの。ぜったいに!」
(何を言い出すかと思えば、スーツケースが勝手に開いたって、ありえん、ありえ~ん、、、あ~ 頭がくらくらしてきた。でも、ちょっと落ち着かなければと思い、目を閉じて、気持ちを落ちつかせた。)
「ねぇ、M。もう一度聞くけど、スーツケース、あなたが開けたんでしょう?」
私は目を細めるようにしてMの顔を見て、なるべく穏やかに言った。他のスタッフの手前、感情(怒り)をむき出しにするのが、ためらわれたからだ。しかし、Mが口を「への字」にしてつぐんだままなので、私の中で嵐が吹き荒れた。
「いい、よく聞いてM。私たちが留守にしている間に、あなたは家の中のいろいろなところを開けてみた。どこかに、お金とか、金目のものが隠してないか、あちこち探してみた。で、スーツケースの中にはお金は見つからなかったけど、、、タンスの引き出しの奥や段ボールの中に,お金があるのを見つけた。それで、盗った。そうじゃない?」
(あんたがやったことは、すべてお見通しなんだから。さあ、どうだ。これで、素直に罪を認めろ~~ )私は心の中で絶叫した。
しかし、Mは小さな顔をひくひくさせながらも、態度をくずさなかった。
「奥さん、私はぜったいお金なんて盗っていません。もし、ほんとにお金が失くなったとしたら、、、」Mはここでいったん言葉をきった。そして、目をきらっとさせて、こう続けた。
「それはトゥユールのせいです。トゥユールが盗ったんです。」
(えっ、今なんて言った。トゥ、、、トゥユール???)
「何なの、それは?」
Mが背筋をぐっと伸ばして、言った。
「トゥユールというのは、お金を盗むのが好きな妖精です。バリにはそういう妖精がいるんです。バリ人なら誰でも知ってますよ。奥さん」
「えええ~ 妖精???」(なんだ~ そりゃあ~ もう、わけがわから~ん、、、)
ここで私はすっかり脱力して、Mへの尋問を終えた。こういう流れになると、あとは虚しさの堂々巡りがあるだけだ。
「もういいわ、、、」

次号(part9)に続く。バリの妖精は聖徳太子を盗むのか。


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