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バリにはバリ。インドネシアにはインドネシアのやり方がある。日本人がひとり騒ぎ立てたところで解決はむずかしい。

いざ自分のお金が失くなったとわかると、ダンナも人が変わったように真剣になった。私がお金が失くなったと苦しげに告げたときには、まるで「ひとごと」という感じで、ひと言の同情の言葉もなかったのに、、、自分にも害が及んだとわかってはじめて、モードがオンになったのだ。この人の、この変わりようはいったい何なのかと、ダンナの性格に不信を抱かずにはいられなかった。果たして、こんな人と力を力を合わせて、この問題に立ち向かうことができるのだろうかと、私は心の中で自問した。

(だけど、まあ、よく考えてみれば、地元の人間を相手にした、こういう問題は、ダンナの協力がなければ解決はむずかしいだろう。バリにはバリ、インドネシアにはインドネシアのやり方がある。日本人の私が、ひとり騒ぎ立ところでうまくいくとは限らない。不信はひとまず脇に置いて、協力し合うのが得策だろう、というのが私の心の声だった。)
というわけで、日頃から何かと反目し合うことの多い2人(ダンナと私)だったが、このときは、珍しく利害が一致したため、団結して、この問題の解決に全力をそそぐことになったのである。

さぁて、問題は誰が盗ったかだ? 状況から考えて、盗ったのはM以外には考えられなかった。掃除をしたり、洗濯物を干したり入れたり、たたんでタンスにしまったり、、、うちの中を自由に動き回れるのは、Mだけだ。その頃、M以外にうちに出入りできたのは、Yをはじめとする絞り染めの職人が4人、下の子供を預かってもらってる近所の主婦が1人。しかし、彼らのうちの誰かが、寝室にまで入って、タンスの引き出しや段ボールの中を引っ搔き回すとは考えにくかった。

それにMがうちで働き始めて1ヶ月の間に、他にもおかしなことがあった。なんでこんなところにお金(ルピア)が落ちてるの? ということが、うちの中で3回ほどあった。落ちていたのは、5万ルピア札(円にすると500円くらいだが、当時のインドネシアでいちばん高額な紙幣)。Mが勤めにくる以前には、一度もないことだった。
これはどういうことかと推測すると、、、Mは私の財布が入ったバック(ふだん持ち歩く)が寝室のタンスの扉の奥に置かれていることを知っていた。で、、、掃除とかの合間に隙を見計らっては、そこからこっそりお金を抜き取り、自分の服の中に隠して、仕事を続けた。。。(バリの田舎の人は、服にポケットがないとき、ズボンやスカートのウエスト部分のゴムにお金をはさんで持ち歩く。私は近所の雑貨屋で、着ているもののウエストのあたりから、湿り気を帯びたお札を取り出す村人を、何度か見かけたことがある。)そうしたやり方で、Mもズボンのゴムに盗んだお金をはさんでいたに違いない。ところが、おそらくズボンのゴムがゆるかったために、行ったり来たりしているうちに、ズボンのすそから、するっとお金が落ちてしまった、、、ということではないかと思う。

うちは店をやっていたので、私のバックには店の売り上げが、そのまま無造作に入っていることが多かった。しかし、バックは私が出かける時には持っていってしまうので、Mは私が家にいてバックから離れる時(たとえば、私がマンディー=水浴びをしている時とか)を狙って、ささっと行動したと思われる。私に気づかれないよう数回にわたって、少しずつ抜き取るようにしていたに違いない。
そのため、気づくのが遅れて、ルピアの被害額がどのくらいなのか、はっきりとはわからなかった。財布ごと、または封筒ごとそっくり盗るのではなく、中身の一部を少しずつ頂戴するというのが、こっちの泥棒のやり方らしかった。。。

次号(part4)へと続く。地元の人間の犯罪をどう扱うべきか。

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