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短編小説:今年もよろしく

大学生の女の子の話。約1400字。

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 五円玉をなんとかお賽銭箱に投げ入れ、人でごった返した神社の境内を抜けた私とマユは露店で買った熱い甘酒を道の端でちびちびやっていた。そして思い返してもさして記憶にも残らないであろうどうでもいい話をしていた最中、「アサちゃんってあたしのことなんだと思ってるの?」とかなんとかマユに訊かれたので私は答えた。

「宇宙人?」

 マユと私は趣味も好きなものもまったく違う。別の宇宙の住人っぽい、というつもりだった。

 そんな私の答えを聞くや否や「何それヒドーイ」と返され、しまった言葉を間違えたって思ったけど、マユは心底おかしそうに笑ってるだけなので内心ホッとする。

 私はいつも、勢いだけでしゃべるからついつい言葉を間違える。けど、そんな私には気づいていないかのように流して笑ってくれるのが、このかわいく大らかな友だちだ。

 私は典型的な文化系の人間である。

 中高生の頃はさして熱心でもない美術部で落書きに毛が生えたような漫画を書き散らして過ごし、大学生になっても活動の緩い英会話サークルに月に数回顔を出す程度、汗水垂らして青春を送るようなことはしてきていない。別にそんな自分が嫌いとかそういうわけじゃないし、友だちは多くはないけど少なくもない、身の丈には合っていて悪くはない。

 けど、そんな私みたいな文化系の人間の多くが長年の学校生活で避けられないのが、体育会系の人間に対するコンプレックスだ。運動部所属で快活で明るくてキラキラした、クラスのカースト上位にいる人たちに対する密やかな引け目。彼らにその気はなくても、私たちは身体能力の差を無視できない。小学生の頃、体育の授業で逆上がりができなかったりして、惨めな思いと羞恥心を肥大化させられ育まれたそれはとっても大きく根深いものだ。

 というコンプレックスも相まって、日の当たらない地面を這うように我が道を進んできた団子虫の私が、キラキラかわいく優雅に空を舞う蝶みたいなマユと友だちだっていう事実を今でも時々不思議に思う。

 マユは高校三年生の時のクラスメイトで、当時女子バスケ部に所属していた。私は文化部だし、クラスでのグループは当然違う。けど出席番号が近く、選択授業が同じで何かと言葉を交わす機会が多く、卒業後は別の大学に進学したものの駅前のカフェのアルバイトで偶然再会、今では個人的に会ったり出かけたりする仲なのだった。

 偶然ってすごい。

 偶然の積み重ねというきっかけで接点が増えた結果、互いを知る機会が多くなったのだろう。おかげで同じ学校という最低限の共通項がなくなったあとでもこうやって関係が続いてる。

 そして今日は一月三日、バイト帰りに初詣に行こうと誘ってくれたのはマユだった。そういう気持ちがあっても私はスマートに人を誘うのが得意ではなく、だからいつも気さくに声をかけてくれるマユがとても嬉しいしありがたい。

 マユは私の宇宙人発言をひとしきり明るく笑ったあとにこう言った。

「あたしはアサちゃんのこと、友だちだと思ってるんだけどなー」

 こういうことをさらっと言ってくれるマユはとっても素敵な女の子だと素直に思う。そして私は、少し足下が軽くなるくらいには嬉しい。調子がいい私は自分の宇宙人発言なんてすっかり忘れ、こんな友だちの存在に胸すらはりたくなる。

 こんな偶然を今年も続けていけたらいいなと、お参りしたばかりの神様に心のすみっこで祈る。それから宇宙人発言を挽回すべく、「今年もよろしく」と改めて伝えて甘酒をすすった。

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せっかく年が明けたし三が日なので正月っぽい雰囲気のものを書いてみました。初詣にはまだ行けてません。おみくじ引きたいです。

こんな感じで今年もぼちぼちやっていきますので、2019年もどうぞよろしくお願いします。

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