見出し画像

娘が同性愛者だったら、のはなし


母のことが大好きだ。

父のことが嫌いとかそういうことではないけれど、いまこの世で一番愛しているのは母だと迷うことなく言える位に大切だ。

反抗期真っ只中で嫌いになった時期もあったけれど、一人っ子の私と母の仲は、側から見ても「とても仲が良い母娘」だと思う。

母も、娘の私にありったけの愛情を注いでくれる。普段は離れて暮らしているので、親離れ子離れ出来ない、という距離感はギリ脱出していると思っている。

そんなこの世で一番大切で、大好きな母は、娘のセクシャリティや恋愛事情を知ったら、何と言うだろうか。



仲良しで、いつも話が尽きない私達母娘だけれど、恋愛について、特に私の恋バナが話題になったことはほとんどない。

というより、私が話題にしない。

聞きたそうなそぶりを見せても、すっと話題を変えたり、はぐらかしたりしているうちに、段々話を振ってこなくなった。


実家にいた中高時代は女子校に通い、ほとんど色恋沙汰とは縁のない生活を謳歌していたので、特に話題になることも無かった。

小学生の恋愛事情なんて多分親達には筒抜けだったと思うが、「〇〇君のこういうとこが好きでね」とか「こんな告白されたの」とかを一々報告していた記憶はあまりない。

大学に入って離れて暮らすようになると、娘がデートに行こうが外泊しようが親は知らないので、たまに「彼氏出来た?」とか聞かれるようになった。親戚で集まると、同じようなことを小2の従妹にも聞かれるようになった。


けれど、その当時の私の恋愛といえば、男女各方面に片思いを拗らせ、自分のセクシャリティに悩み始め、セクマイのコミュニティに出入りし始め、、といった時期だった。懇切丁寧にご説明申し上げるには、内容の心理的ハードルが一々高すぎた。

「え〜内緒だよ」という他なかった。自分の恋愛心理も把握しきれてないのに、人に話せる訳がなかった。

ここ数年間で酸いも甘いも色々あったけれど、何一つとして母を含めた家族には言ったことがない。何一つとして。



母は一向に浮いた話をして来ない娘を、どう思っているのだろうか。

どこか頑なな私の態度に、言うつもりがないと思ったのか、良い人出来た?ともだんだん聞いて来なくなった。その代わり、探るように結婚願望について聞いてくるようになった。


慎重に慎重に、頭をフル回転させながら言葉を選んで答えを出す私に、母はいつもほっとしたように話題を変える。


ふとした会話の中で「女の子が好きな訳じゃないよね?!」と聞かれたことが、二度ほどあった。

激震に近い内心の動揺を隠すように、静かな声で「それとこれとは別でしょ?」と諭すように言うと、安心したように「良かったあ」と言われる。


何がどう、良かったのだろうか。




1ヶ月ほど前に、夢を見た。

同級生への片想いを拗らせていた頃の走り書きの数々を、どこからともなく母親に発掘された夢を。ひとり娘が同級生の女の子に恋した証拠を。


「気持ち悪い」と吐き捨てられて、夢の中のわたしは狂ったように泣き叫んでいた。


バイセクシャルが予期せぬ事でバレたのがショックだったのではなかった。

大好きなはずの母親に、自分を理解してもらえなかった、受け入れてもらえなかったショックで、胸が張り裂けそうだった。

夢の中の私は、今にも吐くんじゃないかというくらい、むせて大声を上げて泣いていた。そんな泣き方、人前でなんてほとんどした事ない。


当然寝覚は悪かった。起きて、夢だったことに本当に本当に、心の底からほっとした。


それでも、夢が現実にならない保証がどこにあるというんだろう。


母親のほっとした表情が、脳裏を掠める。


まだもうしばらくは、いや、できればずっと、

今のままの母娘でいたいと思うのはだめだろうか。

そのリスクは、まだわたしには背負いきれない。



















この記事が参加している募集

自己紹介

とびきりにおいしい紅茶を買います