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冬のスコットランドの海辺でみつけた植物で元気のでるごはんをつくる - 採集編 【Walking into nature #02】

植物とうちの猫の生き方を見習って生きていれば、普段大抵のことは大丈夫なものです。でも長引くコロナのロックダウン、職場とプライベートのゴタゴタが立て続けに起き、おまけにスコットランドの長い冬と、強風と雨の日々の影響で、鬱々としがちなここ最近。
ようやく太陽が顔を出したこの日、近所の海岸沿いを、冬の植物&菌類探索に行きました。

Winter botanising 

今日も海風がとても強いです。
潮と砂の混ざった強風が吹きつける海岸は、植物にとってとても厳しい生息環境です。

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半ば枯れたかけた様な草原が遠くまで一面に広がっています。
これは、イネ科マラムと呼ばれる草  (Ammophila arenaria)です。
マラムがこの過酷な環境で繁茂できるのは、優れた機能的な仕組みにあります。葉は筒のように丸まっていて、潮風や砂、乾燥から身を守り、細かくもつれたもじゃもじゃとした根は、風の強い海辺の砂地でもしっかりと根を張ることができます。
海辺に群生するマラムはこうして浜や砂丘の風食を防ぐという重要な役割をはたしています。さらには、マラムが固定した地面を頼りに、他の植物が根を張ることができるのです。
マラムは人の生活にも深い関わりがあり、イギリスではコイリング編みや、屋根ふき材として古くから重宝された植物です。

視線の低いところ、足元を見てみます。
きゅっとしまったロゼットを低く拡げているのは、シービーツ (Beta vulgaris subsp maritima)、ほうれん草の仲間でシュガービーツやスイスチャードの野生原種です。水分を蓄えた肉厚でつややかな葉は、やはり潮や乾燥から身を守るための、海岸植物特有の特徴のひとつです。

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春や夏に花を咲かせる越年草など根葉をもつ植物は、冬の間は風を避けて日光をできるだけ浴びられるよう、この様に平べったく地面に沿って葉を広げて越冬します。

こちらはアブラナ科のスカビーグラス (Cochleria officinalis) です。ラテン語のofficinalis(オフィキナリス)は薬用植物を意味します。スカビー(scurvy)とは、ビタミンCの欠乏から引き起こされる壊血病のことで、ビタミンCがとても豊富なこの植物は、古くは壊血病に効く薬草として使われていました。
スガビーグラスの葉も肉厚で艶やかです。

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こちらのは、シーラディッシュ(Raphanus raphanistrum subsp. maritima)。アブラナ科の二年草です。細かい葉毛に覆われてゴワゴワとしていますが、若い葉は大根の葉のようにお料理に使えます。

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目線を上げると、ひっきりなしに吹く強い海風にも負けずに、鮮やかな黄色の花を咲かせている低木が見えます。ほぼ一年中花を咲かせるマメ科のハリエニシダです。

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ハリエニシダの花の蜜や花粉は、花の少ないこの季節、虫たちの大切な食料源です。
スコットランドのランドスケープを象徴する植物として、ハリエニシダは私のnoteの最初の記事に登場しています。

ハリエニシダの枯れた幹の上でひと際目立ってオレンジ色に輝いているものが目につきました。これはシロキクラゲ科のコガネニカワタケ (Teremella messenterica) の子実体です。
落葉樹の枯れ枝などに発生するこの鮮やかなキノコは、このあたりでは秋から冬の間の雨の後に、ハリエニシダの枯れ枝に生えているのをよく見かけます。乾燥すると小さく縮んでしまします。
Yellow brain fungus(黄色い脳ミソ菌)だとかWitch's butter(魔女のバター)だとか魅惑的な名前で呼ばれています。
「Witch’s butter が門に生えていたら、その家の人は魔女の魔法にかかっているしるし」といった言い伝えなど、このキノコにまつわる魔女伝説もあるそうです。

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負けず劣らず、鮮やかな黄色に光り輝いているのは、地衣類のロウソクゴケ。小さい葉状の地衣類です。
地衣類は菌類が藻類と共生している菌類の一種です。共生藻は光合成によって生成した糖分を菌類に与え、菌類は藻類を紫外線から守り、また大気中の水分を藻に補給し、お互い共生しながら生きています。
ロウソクゴケは染料としても使われます。

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まだまだ春までもう少しありそうですが、エルダーの新芽が出てきています。春に咲くエルダーの花はコーディアルに、秋になる実はジャムや果実酒に重宝します。

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海岸沿いの森に入ってみましょう。シカモアを主とする落葉樹のこの森はまだ、さっぱりとした冬の様相です。でも地面からはブルーベルの緑の頭が覗いています。

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これは森の同じ場所で、春にとった写真です。春になると、一気に噴き出す植物たちで地面はこんな風に覆われます。

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森のさらに先を行くと、鬱蒼とした緑が広がっているのが見えます。
ヒガンバナ科のミツカドネギ (Allium triquetrum)、地中海沿岸が原産の外来種です。名前の通り、花茎の断面は三角形です。一年中青々として、繫殖力もとても旺盛です。

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大気で混じり合う生命

フレッシュな空気をたくさん体に送り込んで、頭がすっきりとした時ににふと思い出したのが、先日ポッドキャストできいた、エマヌエーレ・コッチャの言葉

私たち人間を含めほとんどの生き物は、植物が太陽光を捉え光合成する過程で生み出される酸素が大気に存在することによって呼吸ができ、生きることができます。

息を吸って植物が作り出した酸素をとりこみ、自分の体の中から大気に息を吐き出す。大気とはそんな生き物たちそれぞれの生命活動が混ざり合い関わり合うところです。私たち生き物は大気に浸って生きているます。目の前に植物がなくても、私たちは大気の中で常に植物、そして他の生き物と結びついて生きているのです。

植物は太陽の光から養分を合成し、食物連鎖の基盤となって、植物自身のみではなく、他の生き物の生命活動をささえています。
植物を食べるということは、植物が捉えた地球外の太陽光を食すという行為です。
私たちは、植物によって、息をして、食べて、動き、思考することができるのです。

植物学を学んだ後に哲学者となったエマヌエーレ・コッチャは、その両方のバックグラウンドで育まれた精神を調和することを試み、植物の生を原点として、世界についてそして生全体を考察します。その視点と見解はインスピレーションと示唆に富み、とても共感を覚えます。コッチャの本は「植物の生と哲学:混合の形而上学」というタイトルで邦訳が出版されています。

さて、この日はハリエニシダの花、シービーツ、スガビーグラス、シーラディッシュとミツカドネギを、この日に使う分だけ採集しました。

続きは「作って食べる編」で。










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