Haruka Yazaki

茅ヶ崎出身。園芸家。植物、環境問題、日々のことを執筆しています。王立エジンバラ植物園、…

Haruka Yazaki

茅ヶ崎出身。園芸家。植物、環境問題、日々のことを執筆しています。王立エジンバラ植物園、スコットランド ナショナル トラスト, 王立園芸協会ローズムーアガーデンで園芸を学び、スコットランド南西にあるLogan Botanic Gardenで園芸家/プロパゲイターとして働いています。

マガジン

  • イタドリ考日記

    日本からヨーロッパ、そしてここイギリスに持ち込まれ、数奇な生涯を送りながらも逞しくあらゆる場所でその根を土の奥深くまでおろしているイタドリという植物を、四季にわたって観察しながら、イタドリと他の植物、人と植物の関係、面白いこと、不思議なこと、美しいと感じたことをランダムに書いていきます。 日々の生活と植物の世界が、どういったかたちでクロスオーバーしているのかを発見できればと思います。

  • Walking into nature

最近の記事

可能性を秘めた白アスパラみたいな軟化イタドリ 【イタドリ考日記・春 】

4月10日 晴れ 土曜日 6℃ いったいどんなふうになっているのか、この2週間たびたび気になっていたイタドリの軟化栽培実験。 その結果を見にいくために、サンドヘッド海岸へ向かいました。 もうすっかり見慣れたコロニーですが、見るたびに風景が変わっていきます。 冬の間しっかりと立っていた立ち枯れのイタドリも、今はもうすっかりもろくなり、立っているものはもうほとんどなく、みな風や波などに押されるがままに折れて倒れて重なりあって乱雑になっています。 その枯れ枝の間をかき分け押し入っ

    • 遠浅で引き潮の世界 【Walking into nature #03】

      土曜の朝最近ようやく暖かくなってきたので、天気の良い週末は、朝ごはんをどこか外の気持ちよい場所で食べたい気分だ。 土曜は天気が良いらしい。段取りよく金曜の夜に予定をたててみることにした。 コロナの移動制限期間中は決まったスーパーでだいたい決まった食材を買うようになっていたせいか、ここ最近ずっと何か違ったものを欲している。ちょっと遠いけれど、ずっと行けなかったファームショップで食材の買い物をし、それから朝ごはんをテイクアウトして、その近くの森で食べることによう。 週末のスタート

      • ローマンの置き土産、シーボルトの贈り物【イタドリ考日記・春 】

        3月27日 土曜日 5℃ 晴れのち曇り イタドリコロニーに分け入る 朝八時半。今週末も再びサンドヘッド海岸へ。地元のおいしいパン屋さんが毎週金曜日にサンドヘッドの小さな商店「マッケンジー」にパンと焼き菓子をデリバリーするので、アップルパイがまだあることを祈りながら立ち寄ってみる。 海岸に座って、フラスクに入れてきたコーヒーといっしょに、無事手に入れることができたアップルパイで朝食。まだ肌寒い。 持ってきたテラコッタとプラスチックの植木鉢両方を海水で洗い、イタドリの茂みに、枯

        • ルバーブトライアングル・イタドリトライアル【イタドリ考日記・春】

          3月21日 日曜日 4℃ 曇りのちやや晴れ 刻一刻と変化する天気の一番良い頃合いをみはからって、三時過ぎにサンドヘッド海岸へイタドリの群生の様子を見に行くことにしました。 前回訪れたのは一月の終わり。冬の真っただ中のこの群生地では、イタドリは茶色に立ち枯れ、枝分かれしてた茎を冬の曇天に向け、しっかりと立ったままぎっしりと密集していました。 今日訪れてみると、前回と少し様子が変わっているよう。 空に向かって立っていたはずのイタドリの立ち枯れは、広範囲に及んで折れたり倒れたり

        可能性を秘めた白アスパラみたいな軟化イタドリ 【イタドリ考日記・春 】

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        • イタドリ考日記
          4本
        • Walking into nature
          4本

        記事

          土の奥深くに 【イタドリ考日記・序】

          植物園でプロパゲイターとしてたくさんの種類の植物を扱っていて感じるジレンマというのがいくつかあります。 そのひとつは、それぞれの植物の背景には、その本来の環境、生態系において他の植物や生き物との関わりがあり、そしてその土地の人、ひいては文化にも深いつながりがあるのに、それらがプツンと切れた状態でコレクションされていること。それを扱っている私自身その背景にあることをたどり切れていないもどかしさです。 それは植物園のコレクションに限らず私たちの身の回りにある植物、たとえば空き

          土の奥深くに 【イタドリ考日記・序】

          冬のスコットランドの海辺でみつけた植物で元気のでるごはんをつくる - 作って食べる編 【Walking into nature #02】

          採集から戻ってきました。 太陽光と植物のエネルギーを食す植物からのおすそ分けをさっそくいただきます。 ハリエニシダの花のお茶はとても簡単。お湯を注いでしばらく待ちます。 湯気と一緒に、ほんのりとココナッツのような香りが漂ってきます。 薄黄色のお茶ができます。シンプルにこのままでも美味しいですし、ハチミツとレモン果汁を入れると一段と冬にぴったりの飲み物になります。 ハリエニシダの花のコーディアルの作り方はこちらに紹介しています。 次は緑が艶やかで眩しい葉もの。 左か

          冬のスコットランドの海辺でみつけた植物で元気のでるごはんをつくる - 作って食べる編 【Walking into nature #02】

          冬のスコットランドの海辺でみつけた植物で元気のでるごはんをつくる - 採集編 【Walking into nature #02】

          植物とうちの猫の生き方を見習って生きていれば、普段大抵のことは大丈夫なものです。でも長引くコロナのロックダウン、職場とプライベートのゴタゴタが立て続けに起き、おまけにスコットランドの長い冬と、強風と雨の日々の影響で、鬱々としがちなここ最近。 ようやく太陽が顔を出したこの日、近所の海岸沿いを、冬の植物&菌類探索に行きました。 Winter botanising 今日も海風がとても強いです。 潮と砂の混ざった強風が吹きつける海岸は、植物にとってとても厳しい生息環境です。 半ば

          冬のスコットランドの海辺でみつけた植物で元気のでるごはんをつくる - 採集編 【Walking into nature #02】

          フラットな感覚

          前回の記事のピートの湿地を歩き終わって、New Luce村の入口に戻った時のこと。 老齢のご夫婦らしき二人の乗った車が向こうからゆっくりと近づいてきました。車を運転する男性が手を振りながら私の横で車を止めました。 「地元の人?」 不意に聞かれたその瞬間頭に浮かんだのは、前回のロックダウンの時に、このあたりの村々では、レジャー目的などの外からの訪問者お断りのバナーが入り口に張られていたこと。 最近また新型コロナの感染者数が増え続けていて、規制もまたいろいろ厳しくなってきた

          フラットな感覚

          New Luce村のピートランドを歩く 【Walking into nature #01 】

          自然に浸るサイクル日本からスコットランドに来た当初(2008年)、スコットランド人の知人が、こんなことを言っていたのを覚えています。「ちゃんと定期的に自然の中へ出かけていく時間を作らないと、なんか調子がくるうんだよね。」 その時は「そういうものなのかー」程度に思っていたけれど、スコットランドで生活しながら、いつの間にか私もそれを実感するようになりました。 スコットランドでは、エジンバラやグラスゴーなどの都市に住んでいてもバスや車で数十分行けば、喧騒からのがれ、山歩きやカヌー

          New Luce村のピートランドを歩く 【Walking into nature #01 】

          エジンバラにある魅惑のポーランド

          ずっとやりたいと思っていて、そんなに難しいことじゃないけど、なぜか実現できてなかったこと。 ポーランド人の友人と一緒にポーランドグローサリーに行って、例えば「これはいったい何にどうやって使うの?」といった質問を思う存分させてもらうこと。 タイミングとか流れとかそういうことだったみたいで、先日ようやく実現できました。 5マイル圏内だった移動規制と他の家やB&Bなどでの宿泊規制がようやく解除され、ポーランド人の友人エリザが、「お祝いしよう!」とエジンバラから腰痛と猫アレルギーを

          エジンバラにある魅惑のポーランド

          イアンさんのお昼ごはんと日常

          3月23日に始まったロックダウンがスコットランドでもイングランドより数週間遅れで緩和され、私の仕事もフルタイムに戻りました。ロックダウンが長引けば長引くほど、いつオープンできるかわからない、人のいない植物園で週に数日一人で働きながら気分を上向きに保つのは無意識にしんどかったようで、正直なところ終盤はかなり気持ちがアップダウンしていました。 ようやく7月から植物園もオープンすることができ、ちょっとずつ日常の感覚を取り戻しつつあります。ガーデンチーム、ショップ、カフェのスタッフな

          イアンさんのお昼ごはんと日常

          たねのはなし2 ー 植物と動物のミューチュアリズム

          植物園のプロパゲイターは、植物コレクションを維持するために、一年のサイクルの中で、たねを採取し、クリーニングし、それを蒔くというお仕事をします。美しかったり、奇妙だったり、繊細だったり、精巧で様々な造形物である果実を採集し、種子というエネルギーの塊を取り出すときはいつも気分が高揚します。 果実や種子の形態的な多様性はその散布方法と深い関係があります。 普段その場を動かない植物が、そのライフサイクルの中で移動できるチャンスは、花粉そして種子の散布の時。どちらも次の世代に繋ぐ

          たねのはなし2 ー 植物と動物のミューチュアリズム

          たねのはなし 1 - 命を包む入れもの

          たねと私たち たねの中にはものすごいエネルギーが蓄えられてる。たとえばシカモアカエデ。私の家のまわりにも大きなのが3本あるけれど、自前のプロペラで飛んできて着地し、あれよという間に巨大な木になり、日向だった庭を日陰にし、そのうち森にかえてしまうのがとても得意だ。 私たちの食を考えただけでも、たねの存在はそこらじゅうにある。キッチンの棚、冷蔵庫、食卓をちょっと見回してみると、お米、パン、チョコレート、コーヒー、シリアル、納豆に味噌、こま油などなど。これらはみなたねを加工し

          たねのはなし 1 - 命を包む入れもの

          ‘Climate House’ − アートとサイエンスと園芸が一緒になってできること

          一昨日から、ようやくスコットランドでもロックダウンの規制が少し緩和された。ロックダウン下での生活で気分のアップダウンは普通のことと思ってはいたけれど、ダウン期が長引いてつらいなと思っていた頃だったので、これには本当に助かる。イギリス中央政府のパンデミックマネジメントは医療機関でのPPEの不足や福祉施設での感染拡大などなど問題が多く、うまくいってるとは言えない。なのでスコットランドの慎重路線は良いとは思うけれど、いい加減コロナとどう付き合っていくかという未知な未来への模索を実践

          ‘Climate House’ − アートとサイエンスと園芸が一緒になってできること

          Make your own herbarium: 自分の植物標本誌をつくる

          Royal Botanic Gardens Edinburghエジンバラ観光のハイライトのひとつであり、地域の憩の場である王立エジンバラ植物園は植物の研究教育機関です。園芸家の育成にも力を注いでおり、私がお世話になった学校です。 植物園の歴史は1670年まで遡ります。はじまりは二人の医者、Robert SibbaldとAndrew Balfourがエジンバラのホリルード寺院の近くにつくった、テニスコートほどの小さな薬草園でした。 その後、イギリス帝国の拡大とともにこの植物園の

          Make your own herbarium: 自分の植物標本誌をつくる

          園芸家のConcise dictionary: 生態系とInvasive Alien とペストソース

          Native かNonnative かといえば Speakerと続きそうですが、今回はSpeakerではなくSpecies (種/しゅ)、植物のNative, Non native species についてのお話しです。 (園芸で、英語の語彙の日本語訳、日本語の語彙の英語訳というのがたまにあやふやになる自分のための忘備作業も兼ねて。) 生物でNative species かNonnative species というのは在来種か外来種かということなのですが、簡潔に言えば

          園芸家のConcise dictionary: 生態系とInvasive Alien とペストソース