見出し画像

新規商談30倍!製造業のマーケティング術 [前編]

総合メーカーであるキーエンスのナンバーワンOBによる特別対談。3年で新規商談を30倍にアップさせた脅威のマーケティング術を展開する、株式会社FAプロダクツ顧問 /株式会社カクシンCRO 天野眞也氏を迎えて、製造業の中小企業が今すぐ実践すべきマーケティング術について話を伺った。


製造業の課題とは

――今回、キーエンスの先輩OBである天野さんにご登壇いただいたのは、私、松栄がサポートするM&Aの世界においても、事業承継問題の解消にマーケティング対策が欠かせないと感じているためです。本日はよろしくお願いいたします。

天野氏(以降、敬称略) こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。私自身はキーエンスが中小企業の規模だった時期の入社です。企業が急成長する姿を間近で見て、マーケティングやブランディングが企業の発展にいかに重要かを学びました。
起業した当初からマーケティングのコンサルティング依頼も多く、最近ではYouTubeや書籍を活用した発信に加え、さまざまな場に登壇させていただいて、具体的な対策についてお話しています。

――現在、後継者不在の企業は、全国で約127万社に上ります。もしも廃業となった場合、経済損失の試算は約22兆円(※1)です。ここで重要になるのが企業価値の向上で、マーケティングとは切っても切り離せません。ぜひ天野さんのノウハウを伝授していただければ。

天野 127万社とはシビアな数ですね。
そもそもの課題として、製造業は商談が成立する期間が長くかかる点があります。例えば1億を超えるような大きなプロジェクトだと、まず話題にのぼる時期があり、見積もりや構想にかける時間があり、担当者とのやり取りがあり、といった流れで、1年、2年かけてクローズに向かいます。

FAプロダクツの事業を例に取ってみましょう。商材は「産業用ロボット」です。肩から手首までしかない、目も頭もないロボットにカメラやコンピューターや、「ハンド」と呼ばれる物を掴む部分などを我々が作ってインテグレーションする、要は組み合わせてお客様に納めるのが仕事です。
商品の特性上から、認知獲得したのち商談や受注に至るまでに、2、3年かかることも珍しくありません。

――2、3年は長いですね! 商談成立までにかかる時間の長さが大きな課題だと。BtoBですから、稟議を通す時間も必要ですよね。

天野 その一方で、一度契約したお客様同士は、取引が長期的に継続することが多いのも製造業の特徴です。契約している側から言えば継続ですが、ライバル会社側から見れば、自社の商材にスイッチするハードルが高くなる。これが辛いのです。
仕様や設備のルールが各社ごとにあり、新しく納入する企業は、それらを理解しなければならない。ここでまた時間がかかるため、なかなかスイッチングしてもらえません。

且つ、商談の単価も大きい。中心価格帯が数千万円ですから。数百万円だと比較的安い方で、高いのは数億円にもなる。といってもケーブルや治具、金属部品加工など、最も安いものでは数千円〜という場合もあって、レンジが非常に幅広いです。

営業の敗戦理由を掴み、対策を

――多くの課題を抱えている背景を踏まえて、御社では、どうやって新規の商談を30倍に上げることができたのでしょうか?

天野 まず、なぜ商談に至らないかを把握すること。ターゲティングを意識して、そこに向けて自分たちの側をナーチャリングする必要があります。
突然ですが、松栄さんは、営業の敗戦理由の第1位はなんだと思いますか?

――うーん、難しい質問ですね。

天野 弊社に寄せられる相談でも、「新規開拓が苦手」「時間がかけられない」「うまくアピールできていない」など、さまざまな声をいただきます。
ではその理由はなんですかと問いかけると、スペックだったりコストだったりといった回答が返ってきます。もちろんそれも理由ではありますが、営業で勝てない理由の第1位は、なんと「不戦敗」。そもそも、商談の場に立てていないのです。

自分が全く知らない会社の営業マンが、知らないところでサービスを提案して、そこで決まってしまっている。これでは勝負になりません。
日本全国に、エンジニアは70万人ぐらいいるというのが国税調査のデータから明らかなっています。我々の商材やサービスはエンジニアの方に選んでいただくものなので、大きく言えば70万人全員が知っていることが大前提ということになります。

ここからちょっと、具体的にイメージしていきましょう。
商品のターゲットを70万人から絞り込んでいってください。30万人か、10万人か、どれくらいが分母になりそうでしょうか?
仮にローコスト帯の商品なら、3分の1が選定者になりそうだから25万人くらいかなとか。現場で選定する人を想像してイメージしていただきたいのです。

――ターゲティングですね。その次にSEOですか?

天野 今はそうですね。実はFAプロダクツがSEOに出会ったのは2018年で、それまではMA(マーケティングオートメーション)を目指して、オウンドデータへのナーチャリングに力を入れていました。

――そこの入口は展示会などですか?

天野 展示会や、企業訪問なども含めます。名刺を集めたり紹介をもらったり。大切なのはエンジニアさんの登録者数を増やすことですから、自分たちでデータベースを増やすところから始めて行きました。今はWEBとセミナーを組み合わせて配信するウェビナーとかですね。

SEOはなぜ商談獲得に有効か

――ナーチャリングは非常に重要ですね。商談獲得までに長時間かかる問題はありますが、翌年もう一度商談に上がってくる可能性もある。ここでデータベースのナーチャリングが生きてくるのだと思います。

天野 おっしゃる通りです。商談に時間がかかるから、連絡してサービスを紹介しても、すぐに採用されるのは難しい。だからこそ長い時間をかけてしっかりと、お客様に対する認知や告知を広げて理解を深めてもらう時間が大切になります。
ただ、一方で、「今すぐ欲しい」「すぐ検討したい」という情報も欲しい。

――両輪で必要な部分ですね。

天野 そこでSEOです。昔は、取引先の商社の営業さんやメーカーなど、情報を持っている人に直接聞いていました。
でも最近は、誰かに聞く前に一旦検索する人がほとんどでしょう。チャットGPTなどが今後取って代わるという説もありますが、今はまだ検索メイン。特に、Google検索は圧倒的です。SEO対策ができていると、ここで強みを発揮できるようになるのです。

皆さんもご存知の通り、SEOとは、Googleなどの検索エンジンを使用したときに出てくる膨大な記事の中から、上位に表示してもらうための対策です。
SEOで気にしておきたいのは、Googleの収益源が広告であることです。ユーザーが検索したワードに合わせて広告を表示する仕組みがあるから、検索機能をタダで提供できているわけです。ということは、確実にページトップに掲載しようと思ったら、料金を払って載せるというやり方が、まずひとつ。

――広告枠ですね。

天野 最上段にありますよね。広告運用をここで回すのは手っ取り早い方法です。しかし広告をやめた途端に表示されなくなってしまう。上位表示し続けるには、お金をかけ続けなければなりません。
この方法が合う商材・サービスもありますが、製造業の中小企業さんにとって現実的と言えるでしょうか。私はちょっと合わないかなと感じます。だからSEOが良いのです。
SEOが狙うのは、広告枠の次に出てくるところです。

広告枠の近くに自分の会社のコンテンツが出てくれば見てもらいやすくなります。そのために、求めるテーマで検索した際、できる限り上に上がってくるように記事を蓄積して行きましょうという話です。

――FAプロダクツさんの場合だと、検索ワードはロボットとかシステムインテグレーターとか、治具あたりでしょうか。

天野 弊社ならそうですね。まずは、自分が欲しい情報を実際に検索してみるとわかりやすいです。自社商材のワードで検索してトップに出てくるのはどんな会社か、その中身をよく見てみてください。
簡単に言うと、そこに書いてあるよりも良い内容の記事をたくさん作れば、その上に行くことが可能です。ただこれは、1、2ヶ月ですぐに効果が出るものではありません。信じて継続していく必要があります。

FAプロダクツの施策とその結果

――私のお客様でも、SEO対策をしたいけれども、社内リソースもなければ体制も整わない、継続してコンテンツを発信するハードルが高い、という声が多いのですが、この辺はどう対応を。

天野 実はそこまで準備を整える必要はないと思っています。こんな風に偉そうに話していますけど、私は、株式会社ストラーツの堀江氏に、コーチングとメンターを兼ねてSEOのイロハを教えていただきました。
堀江氏からは「6ヶ月は無風ですよ、天野さん」と。「途中で諦めてはいけません。その代わり、地道に続けていけば、とてつもない破壊力を発揮しますから」と励まされながら続けました。2018年にSEOと出会い、19年に会社のリブランディングとホームページのリニューアルをして、20年にブログとSEO、メルマガのスタート、というふうに段階的に進めてきたのです。
当初の体制は、社内で2名、いや1.5名ぐらいでしょうか。ライターなど外部のパートナーさん5名から10名ほどに執筆を依頼した感じです。

――執筆依頼時の分析や最初のキーワード選定あたりは社内で?

天野 最初は社内です。キーワード選定の基本はビッグワードを避けること。弊社なら「ロボット」というような抽象的なワードですね。ビッグワードは競合がひしめいているところです。
ワードの絞り込みは、社内と、パートナーの会社さんたちとコミュニケーションを取りながら決めていきました。絞り込みとは、例えばレストランに行きたい時に、ジャンルや駅名など、2つから3つのワードを組み合わせで検索しますよね。そんな感じです。

――ウェビナー、ホワイトペーパーの作成に入っていくのが2021年。

天野 2020年あたりからコロナ禍で対面ができなくなったので、オンラインで対応できるコンテンツを増やしました。今では400件を超えるコンテンツ数です。うちのエンジニアが調べものをする時に、「全部自分のところのページにヒットしてしまう」と時々笑い話になっていますよ。

ホワイトペーパーの中身としては、「今更聞けない産業ロボットの導入術」とか、PLCの「1からわかるプログラム術」とか、ロボット比較とか、いろいろです。私たちが「コンテンツ」と呼ぶ、このような読み物や記事をまとめたものを、ホワイトペーパーと呼んでいます。「計画的工場改善」とか、「製造工場の目標設定とはどうするのか」「基板検査治具の基本」など、ラインナップは実にさまざまです。

――ホワイトペーパーの威力は凄いですね。株式会社アペルザのカタログサイトの利用で、一気にダウンロード数が上昇して。

天野 2020年のスタート時点で109ダウンロードだったのが、翌年には1,825ダウンロード。22年には4,016ダウンロードですから、2年間で1.5倍です。アペルザを利用したことで、リード属性も広がりました。今もどんどん上がっています。

それまではメーカーや生産技術職の方々が、深く調べたい時に利用するサイトだったのが、商社の営業さんなどに見ていただけて紹介が取れるような形になってきました。まあまあ名前を知ってもらえるようになって、業界における認知や存在感が高まったのです。来年はさらに1.5倍ほど上がるのではないでしょうか。

「とにかく知ってもらう」ために

――企業としてマーケティングの仕組みが整って、営業担当の方からすると、常に新規の話題が発生できている状態になったのですね。商談でよく言われる、「営業担当が顧客に会った時には、既に50%は決まっている」という流れが実現できるようになったと。

天野 そういうことです。製造業の新規獲得は足が長いという話をしましたが、ホワイトペーパーが充実したことで、まだ見ぬお客様から検討していただける。初めてお会いした方が「あの資料見てたよ」と声をかけてくださったりします。
継続して、さらに右肩上がりに出会いの場が増えていくことを期待しています。

――コスト面が気になりますが。

天野 月平均で数十万円もかかっていない感じです。100万円なんて全然。月5本のコンテンツ作成を目標として、新卒のスタッフ1人か2人分くらいでしょうか。年間でいうと60本、かける3年で180本の計算ですが、出だしの頃はちょっと頑張って作ったのもあって、実際にはもう少し本数あります。

――「6ヶ月は無風」と言われた中で、中小企業にとって月100万円いかないくらいのコストを半年続けてきたわけですね。その中から商談が1件でも獲得できれば、1年で投資回収できる感じですか?

天野 商談1件取れたら全然OKです。自分たちの会社を知ってもらうことで、商談に臨むときにスタートがスムーズになる。これは非常に有効です。

――付帯した価値がついてくると。

天野 キーエンスにいた頃、多くの製造業を回って中小企業の方々にお会いしました。本当に皆さん、良い技術を持っていらっしゃいます。けれど、どうしても発信力が少し弱い。
「どうすれば自分たちの良さを理解してもらえるのか」という点については、一度コンテンツ、いわゆる文字などにしてみることで、自分自身でもよく理解できるようになっていきます。お金もかからないし、体制が整っていなくてもぜひ始めていただきたいですね。

始めるタイミングは、「今」

――いつ始めれば良いのか、もう遅いのではないかという不安を耳にすることもありますが。かなり強い記事が上位3位を押さえている場合、ここに自社が食い込んでいけるのかどうかと。

天野 スタート時期が遅いなどということは全くありません。まずもって製造業の会社は、それほどSEO対策をやっていません。手前味噌ですが、弊社も3年で日本一クラスになってきています。今から始めれば2、3年後には十分上位を狙えます。

仮に、やっていない会社と比較してみてください。検索する時に最初の5つしか見ない、などということはないですよね。いろんな検索でヒットさせて、2、3ページは見ますよね。これは、情報を出す側の努力なんです。
検索する側には、検索ワードの選び方など検索能力の違いがあります。そういう人たちにも必ず届きます。
まずはスモールワードというか、先ほどお話ししたワードの組み合わせや絞り込みで、自分たちのサービスを「取る」ことを目指してください。

――これは凄いノウハウですね。まずは競合が少ない、弱そうなワードを調べて、そこでまず自社が上位に来るようにする。弱そうなワードと言いますが、そこには独自性、ユニーク性が保有できるわけですね。ここは、月5本ペースとかで?

天野 やれるペースで全然良いです。ただし、諦めずにコツコツ作り続けること。発信し続けることが大事です。多くの会社がやっていない中、やるだけで絶対に差別化できます。

動画の時代を予告した山田太郎参議院議員

天野 山田太郎参議院議員は、かつてデジタル庁の政務官を任命されたほど造詣が深い方です。私は起業した当時からお付き合いがあって、2019年か、もっと早い段階で「これから動画の時代が来るよ」と言われたことがありました。
「動画は文字に起こせば文字コンテンツになり、うまくまとめれば提案資料にもなる」と教えられたのです。

その後、メインとサブの2チャンネルを開設しました。
サブは休止中ですが、メインチャンネルを中心に、今日の時点でチャンネル登録数が8万1,100人くらい、サブで約8,000人くらいですから、両方で9万人弱。現時点で、353本の動画をアップしています。
皆さん、300本の動画を今から作ろうと思ったらどうですか? ゾッとすると思いませんか?
だから、私たちと同じくらいの時期YouTubeを始めた人でも、結構やめてしまっているんです。

――継続が難しいのですね。

天野 SEOのところでもお伝えしましたが、動画も、継続がとにかく大事です。これは私の経験ですが、YouTubeの親会社はGoogleなので、YouTubeコンテンツは検索上位に上がりやすい感覚があります。

ぜひここでお伝えしておきたいのは、動画作成も全然難しくないということ。弊社もスマートフォンに照明といった簡単な機材で撮影していますし、編集も基本的に社内でやっています。外部パートナーさんに多少手伝ってもらうくらいで。
コストの心配もそこまでないうえに、YouTubeの動画は流用しやすいというメリットがあります。短く編集してYouTubeショートにすれば、TikTokやインスタグラム、SNSなどに活用できる。1つ作っておけば、さまざまなシーンで見てもらえるという良さがあるのです。

――商談に来られたお客様が既に見ていたようなことは?

天野 おかげさまで。商談に行くと「実物が来た!」みたいな。名刺交換する際でも、「〇〇の動画見ました」と声をかけられたりして、SEOの時以上にスムーズです。
動画コンテンツは親しみやすい特性がありますから、動画では自分の名前を出して、全体にエンターテインメント性を含ませています。

ホワイトペーパーと動画を活かし、インプットの材料に

――さまざまなコンテンツを蓄積して成果が見え始めて、今後は。

天野 ホワイトペーパーを動画にしようと考えています。通勤中などの、ちょっとしたインプットに使ってもらえたらと。

――リソースのない中小企業の方も、コンテンツやホワイトペーパーを作って、それを動画にするという流れで?

天野 逆に動画から作ってしまっても良いでしょうね。技術やサービスで自信がある領域は、動画コンテンツを先に作って、そこから文字起こしして整理する流れでも良いのではないでしょうか。自分たちの技術の整理にもなりますから、食わず嫌いをせずに、中小企業ほどやっていただきたいです。

先に動画を作るなら、それをホワイトペーパーにしていく。ホワイトペーパーから始めるなら、それを元に動画を作れば良いのです。
弊社でも、言葉だけで「製造業DX」とか「ロボット」を説明してもちょっと難しいわけです。対談動画を視聴していただいて、最先端のトレンドがどうなっているかなども含め、勉強というほどでなくてもインプットに使ってもらうやり方は有効だと思います。

※後編へ続く
新規商談30倍!製造業のマーケティング術 [後編]


この記事が参加している募集

マーケティングの仕事

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?