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新規商談30倍!製造業のマーケティング術 [後編]

前編では、製造業に携わる中小企業の課題感を中心に、株式会社FAプロダクツ顧問 / 株式会社カクシンCRO 天野眞也氏に掘り下げていただいた。後編では、コンテンツマーケティングを行うべき企業の傾向と、マーケティングの課題解決に向けた取り組みについて伺う。


企業価値を上げ、「新〇〇」とのパイプを繋ぐ

天野 新規開拓に向けた必要性は企業ごとに異なると思いますが、新しい出会いは、ビジネスの成長や広がりに不可欠だと考えます。特にこの時代、今受けている注文が未来永劫続く保証はないわけですから。

全く違う会社との取引に限らず、顧客とのお付き合いの中で生み出す新商材や新サービス、また、新部門や担当者とのお付き合いなども含め、「新規リード」として拡げていくことが、どの会社にも絶対に必要な要素です。私はこれを「新〇〇」と表現しています。

我々製造業の難しいところは、まさに言語化です。とても良い技術を持っているのですから、これを言語化して伸ばしていきましょう。
例えばITが急に伸びた理由は、プログラムだったからです。前の人が作ったものを読んで上乗せしていけたから、リスクを恐れずにチャレンジできた。
しかしリアルでものを作る製造業は、そうはいきません。マーケティングとか新規獲得というところに限定されずに言語化してみることで、ITが成長したようなエッセンスを取り込んで積み上げていくことができるようになります。

――今回の大きなテーマである「企業価値」「企業変革力」に直結しますね。自社の強みや課題感を言語化するところにも繋がっていく。

天野 おっしゃる通りです。ダイナミックケイパブリティ=企業変革力というのは今一番大事だと言われています。自社の強みの源泉を自分たち自身が理解するためにも、マーケティング術は重要なのです。

自社の強みをコンテンツ作成で掴み、市場と向き合う

天野 セールス系のお客様とお話しする際、営業担当者をランダムに3人呼んで、「御社の強みは何ですか」と問いかけることがあります。仮に1人目が「性能」、2人目が「コスト」3人目が「納期」と答えるとしますよね。これは、全員が認識している強みがバラバラだということなんです。
まず、強みが何かをきちんと把握すること。全員が同じように答えられることが大事です。
コンテンツを作って発信するということは、こういうことの整理にも繋がります。自分たちの強みを伸ばすのか、課題を克服するのか、どちらを選択すべきかも見えてきます。

企業変革力も大事なポイントだし、もうひとつ製造業に大切なのは、「ものづくり側が、市場とちゃんと向き合う」こと。当然、良いものを作らなければ買ってもらえない。しかし良いものを効率良く作るだけでは、万が一、市場のニーズに合っていない場合に不良在庫を増やして終わってしまいます。
この辺りもマーケティングを通じて掴むべきです。

――確かに。M&Aの世界においても重要なポイントです。

天野 私はM&Aに関してはそこまで詳しくありませんが、例えば最初にあった「127万社の事業継承者不在」の問題でいえば、全社がうまく承継できるかというと、それも大変な話です。となると、経営者は、企業変革力や企業価値をどうやって上げるのかを追求することになる。マーケティング術は、そのきっかけをもたらすのです。
最終的にそれがM&Aに繋がるのか、自社サービスが跳ねて成長企業になるのかわかりませんが、答えはひとつに絞らなくて良い。いろんな未来の夢があって良いと思います。

――IPOという道もありますね。

天野 そう。要するに企業価値を上げる観点に基づいた設計図、「未来予想図」を描くということ。そのゴールがM&Aだったり、急成長だったり、時にIPOだったりと、さまざまで良いということなのです。

「日本は世界の異流」

――マーケティングに取り組む意義について、深くありがとうございます。天野さんはグローバルな視点で、日本のものづくりを「世界の異流」と捉えていらっしゃいますが、そのエッセンスをお話しいただけますか。

天野 もちろん私が世界を全部知っているという意味ではないのですが、キーエンスでは海外戦略チームを経験して、今もグローバル製造企業に関わっています。
日本の製造業は元々、輸出が非常に多いのです。昨年の全体では貿易赤字と言われていますが、それでも90兆から100兆近く工業製品を輸出しています。我々の産業は海外と非常に密接で、逆に言えば、唯一の外貨獲得産業なのです。

この30年のポイントでいうと、日本自体の感覚が、世界では非常に異流に見えてきます。
例えば、ヨーロッパは複数の隣国が地続きで繋がっていますから、海外でビジネスを行うことが当たり前です。だから言語が違っても理解できるようにCGを用いたりして工夫をする。「わかりやすくどう伝えようか」というところに意識が向いているわけです。この観点がブランディングに通じている。少々飛躍しすぎかもしれませんが、日本ではここがあまり上手ではありません。

日本は経済複雑性指数(ECI )において、20年間ずっと世界第一位に君臨しています。ECIは組み合わせが難しいものを組み合わせる、すり合わせの技術力の指標で、言語化できない組み合わせで良いものを作る技術が世界一優れているのです。
メイドインジャパンと言われると、安心感があるでしょう?

――ありますね。性能が良くてスペックが高い印象です。

天野 そう。壊れないというイメージもありますね。日本の工業製品製造業は、世界でとても評価が高い。なのに、世界の多くがそれを知らないのです。発信さえきちんとしていけば、日本のものづくりは必ずもっと広く受け入れられると信じています。
日本は人口でも世界第12位くらいで、ヨーロッパから見れば土地面積も広くて人口も多い国です。しかし海に囲まれていて内需である程度賄えることもあるため、中小企業が直接海外でビジネスをしようという流れになりづらい。

――しなくても生きていけるという事実もありますね。

天野 そこが「異流」です。せっかくインターネットがあるわけですから、ターゲットを国内のみと限定せずに、日本の技術を発信して、直接グローバルと取引できる企業が増えていくのが理想的と思います。

発信すればするほどインプットが深まり、出会いが広がる

――日本のマーケティングはどこへ向かうべきか、今の話に通ずる部分は非常にありますね。これまでの業界構造では、高度経済成長を遂げる中で多重下請け構造ができて、中小企業はティア2(Tier2)を見て、ティア2はティア1(Tier1)を見てというように階層になっている部分が大きい。ただこれからは、ネットを、情報社会をどう活用するかという話になる。ここで自社の強みを今一度見つめ直して、どのように発信していくかが重要になるのですね。

天野 発信は、それだけで終わることがほとんどありません。そこから情報が集まってくるようになるのです。例えば私が対談させてもらって発信すると、松栄さんから今回のような話が入ってくる。ディスカッションの場に呼ばれる機会も増えます。実際、発信側である私自身が、非常に多くのインプットをいただいています。
発信すればするほど、必要なパートナーやお客様と繋がれる、出会いが増えるというところも、非常に重要ですね。

――今回、記事を読んでくださった方で、「自社のマーケティングを見直そう」という方は、天野さんにご相談いただいても?

天野 もちろんです!ざっくばらんに何でも聞いてください。
マーケティングやDX、M&Aなどのご依頼をいただいた際には、松栄さんと我々FAプロダクツが、それぞれの領域のスペシャリストから、しっかりとしたご提案をさせていただきます。
ダイナミックケイパビリティを高め、企業価値の向上に向けた支援をいたしますので、ぜひよろしくお願いいたします。
(※文中敬称略)


天野 眞也 氏 株式会社FAプロダクツ 顧問/株式会社カクシン CRO
1992年、キーエンスに新卒入社以降、営業ランキング上位の実績をあげ、グループ責任者、営業所長を経て社長直轄の海外営業・重点顧客プロジェクトの初代リーダーに抜擢。売上数百億円から二千億円の企業へと成長するまでの期間、営業として第一線で活躍し、その実績と経験を基に、2010年に起業。 東証一部上場企業など、メーカー数十社の営業・販売支援/コンサルティングを担った後、現在はFAプロダクツほか複数社の代表を兼任し、製造業のDXから生産ラインの開発・実装までを包括的に支援するコンソーシアム「Team Cross FA(チームクロスエフエー)」ではプロデュース統括として旗振り役を務める。

参考資料 ※1:中小企業庁HP「財務サポート 事業承継を知る」より
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/know_business_succession.html

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