『海の向こうでこんなこと言われた』#10
「学校で苦しめられたから」
エジンバラで滞在したドンマリーホテルのバーにメガネをかけた若いバーテンさんがいた。
『君らはフェスで何をやるの?』と訊かれたので
「シェイクスピアの『テンペスト』だよ」。
すると肩を竦めて呆れたような表情になった。
「ちょいちょい、日本人がシェイクスピアやっちゃいけないのかよ?」
若い共演者が言うと、彼は驚いて、
『違う違う!シェイクスピアには学校で苦しめられたから』
彼の学生時代、英国ではシェイクスピアは必修科目で、メアリーとチャールズのラム兄妹作「シェイクスピア物語」(シェイクスピア戯曲中20編を選び少年少女向けの小説として書き直した古典的名作・日本では偕成社文庫で読める)に始まり、戯曲のリーディングまで丁寧に教える。
彼は苦手だったらしい。
『文法なんかはイヤだったけど、話は面白いので、大人になってからは時々舞台は観るよ。‥だけど、君たち偉いねェ、あんな大作演るんだ!』
ということだったらしい。
「君らが演るんだったら観たいな」‥残念乍ら切符はもう無かった。
「難しいからやらせない」じゃなくて、国の重要な文化・言語には必ず触れさせる。それはとても大切なことだと思う。
古典を必修科目から外し、抗議に対して「契約書の読み方などの実践的な国語を教えます」と答えるどこかの国とは大変な違いだ。
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