音にはしないけれど、届いて欲しいこと
失うことを恐れながら、失いたくないと震えながら
何かを、誰かを所有しているよりも、
いっそ固執せずに、自分のもとから手放して、
カゴには、鍵をかけないで、
失った痛みとともに、過去を慈しんで、懐かしんで、
思い出を呼び戻して、思い出と歩いていきたいような夜。
独りの自分を抱きしめて
遠くのあなたを思い遣りながら生きることの方が、
もしかしたら、もしかしたら
ずっと、ずっと
愛なのかもしれないと思って。
あのときよりも未来まで、ずっと一緒にいたならば、
ひとりで生きられないことに、慣れてしまいそうだったから。
境界線は曖昧で、溶け合うように依存していた私の心を、
ひとりでも立てるようにしてあげたかったんだ。
きれい事、歯の浮くようなセリフ、絞り出した褒めことば。
全部全部いらないから、
あの人がくれたようなまっすぐな優しさを、
ただ自分のなかにも育てたかった。
自分で、枯れそうな花に水をあげられるようになりたかった。他人にも、水を注げる余裕が欲しかった。
忘れないよと誓ったことさえ、いつか忘れてしまう予感がする。
そんな、脆くて塵のような愛だけれど、
胸にこびりついた欠片はきっと、いつか鈍く光る錆になるでしょう。
だから、だから言わせて欲しい。
やっぱりわたしは、君を泥みたいな心で愛していたと。
よくいう話。
失ってから気づくことはたくさんあるけれど、
失わないと気づけないこともたくさんあるけれど、
ねぇ。もう2度と手に入らないほど価値のある日々を
大事にできないでいたあの頃。私は知っていた。
今が永遠には続かないこと。
そして、
いつかその大切なものを失ってしまったならば、
今は暗く靄のかかって見えない何かに、無理やり気づかされてしまうことを。
失う前から予感していた。
それでも私はいうんだろう。
失ったから気づけたと。
失う前から、分かっていたのに、失うまで変えられなかった。
怠惰な私を救済する言い訳として、相応しいものは、
人が変わるためには、何かを失った痛みが必要だという言葉だろう。
変わっていく、変わっていく。
痛みが、私を変えていく。
歩きたかった道を、見つけられるようになる。
あなたに恥じない私でいたいと願う。
痛い、痛い、痛みに誓うように。
一分一秒、変わっていく私のことば。
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