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#フェミニズム

なぜ分断されるのか 山内マリコ『あのこは貴族』

なぜ分断されるのか 山内マリコ『あのこは貴族』

 読み終わったあと、「私は」と語り始めたい気持ちでいっぱいになった。「私は」に続くことばは、私はこうだった、私はこう思う。きっと多くの人が、この小説を読み終えたときに自分の経験を言葉にしたいと思うのではないだろうか。

 榛原華子と時岡美紀という、全く違う環境で育った2人の物語だ。華子は、渋谷区松濤で、親が整形外科医をしている裕福な家で育った。結婚を望み婚活をしている。物語は榛原家が帝国ホテルで迎

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タイトルのとおり 津村記久子『君は永遠にそいつらより若い』

タイトルのとおり 津村記久子『君は永遠にそいつらより若い』

  2021年に『君は永遠にそいつらより若い』の映画の感想を書いた。今読み返すと拙くてつくづく恥ずかしいが、この映画にとても感動したのだ。このときは大学院1年生で、大学卒業間近の女性が主人公の本作に自分を重ねてもいた。それから2年経ち、大学院も修了して「大学」があっという間に過去の記憶になっている。そんな折、新宿の紀伊國屋で「津村記久子フェア」が行われているのを知った。『この世にたやすい仕事はない

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アニー・エルノー『嫉妬/事件』

アニー・エルノー『嫉妬/事件』

映画『あのこと』が話題になっている、アニー・エルノーの『嫉妬/事件』。「嫉妬」と「事件」(『あのこと』原作)の二編が収録されている。

嫉妬(堀茂樹・訳)

 原題の「L'Occupation」が指すとおり、語り手の脳内を支配する、別れた恋人の今の恋人のイメージが延々とつづられる。「L' Occupation」(日本語だと「占拠」か)ということばがぴったりなのだ。語り手は恋人よりその相手の女性のこ

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フェミニズムと文学~今こそ読みたい『スウ姉さん』

フェミニズムと文学~今こそ読みたい『スウ姉さん』

 『赤毛のアン』や『若草物語』に比べるとそこまで有名ではない、気がする。でも確実に今響く、ジェンダーをテーマに扱った小説がエレナ・ポーター『スウ姉さん』だ。河出書房新社から村岡花子の訳で日本語版が出ている。

「原作者のことば」はこんな出だしから始まっている。『スウ姉さん』の主人公は「スウ姉さん」と呼ばれ、家族全員から頼られている女性、スザナ・ギルモアだ。父は銀行家であり裕福な家庭だったが、スキャ

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抗うためのポップな盾 チョーヒカル 『エイリアンは黙らない』

抗うためのポップな盾 チョーヒカル 『エイリアンは黙らない』

 アマゾンやツイッターが「おすすめ」してくることに馴れてから数年。でもやっぱり偶然に会う本や映画も好き。偶然というより、本に引き寄せられている感じがする。そうして買った本がたくさんある。
 意味のないイベントに出かけほとほと疲れた日の帰り、駅近くのショッピングモールで『エイリアンは黙らない』を見つけた。

みて、この目に飛び込んでくる蛍光色とデザイン。

表紙にも、「本文より」にも、岩井勇気と犬山

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『クイーンズ・ギャンビット』と「女ことば」とフェミニズム批評

今日は国際基督教大学ジェンダー研究センター主催のイベント『フェミニストとして書き、訳し、出版する』をZoomウェビナーで視聴した。話し手は作家の松田青子さん、翻訳家の小澤身和子さんとフリアナ・ブリティカ・アルサテさん、エトセトラブックス代表の松尾亜紀子さん。

 内容は4人が翻訳・執筆・出版を通して感じ考えたフェミニズム、それぞれの経験や日本の文学・出版をめぐる問題点について。まだまだ、フェミニズ

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