ハルカ

近現代日本文学やポップカルチャーをフェミニズムの観点から研究していました。今は会社員。

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なぜ分断されるのか 山内マリコ『あのこは貴族』

 読み終わったあと、「私は」と語り始めたい気持ちでいっぱいになった。「私は」に続くことばは、私はこうだった、私はこう思う。きっと多くの人が、この小説を読み終えたときに自分の経験を言葉にしたいと思うのではないだろうか。  榛原華子と時岡美紀という、全く違う環境で育った2人の物語だ。華子は、渋谷区松濤で、親が整形外科医をしている裕福な家で育った。結婚を望み婚活をしている。物語は榛原家が帝国ホテルで迎えるお正月という華々しい場面から始まる。ホテルや美術作品の固有名詞が次々と飛び出

    • 楽しいことをしていたい。『私ときどきレッサーパンダ』

       ってどういうことだろうと思っていた。ディズニー+でのみ配信されていた、ピクサーの新作がやっと劇場公開。舞台はカナダ・トロントで、13歳のメイ・リーが主人公だ。メイは我慢せずやりたいことはなんでもやる。成績は完璧。運動も音楽もできる。アイドルグループの4Townが大好きで、3人の素敵な友人もいる。そして、母親からの期待に応え続けようと頑張っている。  そんなメイが楽しく暮らし、母親との関係に悩みつつも、アイドルのライブを心待ちにしていたある日、突然レッサーパンダになってしまう

      • 今まで住んだ家を振り返る

         東京に来てからの7年間は、引っ越しとともにある。東京に保護者が住んでもいなければ持ち家があるわけでもない、お金のない独身として、転々としている。  一番最初の家は、大学寮だった。設備は新しく綺麗で、ほかの学生と2人で1部屋。キッチンとシャワーは共同だ。テレビのあるリビングもあった。管理人は住んでいるし、カードキー式で安全な物件だったと思う。家を出れば「自分一人の部屋」が手に入るかと思っていたので、ルームシェアなんて嫌だったけれど、案外居心地がよかった。事前のアンケートをも

        • 青が一番熱い色

           映画『BLUE GIANT』をまた観てきた。世界一のジャズサックスプレーヤーを目指す主人公がバンドを組み、東京一の場所で演奏することを目標に奮闘する。主人公、彼とバンドを組むピアニスト、ドラムをやることに決めた幼なじみ、と3人の葛藤と見せ場を作りながら、全く飽きさせず映画は進む。3人は靴もぼろぼろだし地味な服だけれど、なんて格好いいんだろう。音と映像で、この3人に夢中になる。私はジャズの曲の良さや演奏の良し悪しなんてわからないけれど、惹きつける演奏だってことは、これがこの映

        なぜ分断されるのか 山内マリコ『あのこは貴族』

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        • フェミニスト練習帳
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        記事

          悪なき殺人

           元気がなく、心の底から映画が観たくなって、映画館に行ってきた。悪なき殺人。  冬のフランスのとある地方で、女性が一人行方不明になった。女性の車を見かけた者、パリで出会っていた者、隠しごとをしているらしい者、大金を稼ぐ方法を模索する者。複数の、接点があったりなかったりする人物の人生が絡み合い、1つの事件へと収斂していく。  脚本が巧みで、そことここが繋がるのか!と驚きながらのストーリー展開。確かに「悪なき殺人」かもしれないが、「悪意」はある。登場人物それぞれが誰かに向けた「

          悪なき殺人

          『花束みたいな恋をした』のレビューを『キネマ旬報』の読者の映画評に投稿したところ、今月号に載りました。恋愛映画だけれど、「仕事」の描き方がとても心に響き、その視点からのレビューです。

          『花束みたいな恋をした』のレビューを『キネマ旬報』の読者の映画評に投稿したところ、今月号に載りました。恋愛映画だけれど、「仕事」の描き方がとても心に響き、その視点からのレビューです。

          なぜ映画が好きなのか

           なぜこんなに映画が好きなのか。楽しいから、わくわくするから、映像と音楽とストーリーの組み合わせを味わえるから……。今日、映画を観ていて楽しいと感じる瞬間に一つ思い当たった。  これまで観てきたものが「繋がる」瞬間だ。監督やテーマや俳優が意外なところで繋がり、自分の別の趣味と関連したとき。  例えば、私は数年前『愛について、東京』という映画を観た。在日中国人や留学生を主人公に、日本の中国人差別や行き場のない主人公たちを描いた映画だ。なかなか衝撃的な映像だったので、監督のこと

          なぜ映画が好きなのか

          お酒はそんなに好きじゃない

           2023年、もっと生活を充実させた方がいいのではないかという気に襲われた。これは会社員になったことが大きいと思う。4月に働き始めてからあまりに疲れ果て、休日は寝ていたからだ。一方で、毎月収入があるということは気を大きくし、仕事のあとに映画を観るという解放感は、高い映画料金を差し引いてもあまりあった。さらに、もっと人付き合いをした方がいいのではないかと感じるようになったのだ。  私の学生生活は地味だった。もっと前の時代の文學かぶれの学生みたいに、本ばかり読んでいた。サークル

          お酒はそんなに好きじゃない

          映画館にいたい

           映画が始まる直前が好きだ。この瞬間を何度も繰り返したいと思う。  私は映画が好きというより、映画館が好きなのだ。一人だけど一人ではない。2時間だけでも自由になれる。どんなにつまらない映画でもひどい映画でも、観ない方が良かったとは思わない(「それはまだ『○○』を観ていないからだよ」って言われたらそのとおり。『アタック・オブ・ザ・キラー・トマト』とか最後まで観たら後悔したかな)。  だから特に観たくない映画でも、上映時間が合えば観てしまう。とくに働き始めてからは、観たい映画より

          映画館にいたい

          ゆりかもめ

          2年前に書いたもの。   久しぶりにゆりかもめに乗った。何度乗っても、「自動運転」であることに不思議な気持ちになる。「自動車の自動運転」の話が出てきた今ではそんなに不思議なことでもないかもしれないけれど。ハイテクな乗り物が不思議だというより、窓の外に見えるビルではまだFAXを使っているかもしれない、というちぐはぐさが変な感じだ。ここだけが未来のような、それなのに取り残されているような。窓の外にお台場が見えると、「東京」にいるのだという気分になる。  小さい時は、「東京生まれ

          ゆりかもめ

          「私」から始める――2023年に読んだ本

           年々、エッセイやルポタージュへの関心が高まっている。取材したものも興味深いが、自身の経験を書いたものや生活史は強い力がある。そんな本を基準に、2023年に読んだ本から何冊か選んでみた。 1 比嘉健二『特攻服少女と1825日』(小学館、2023年)  「レディース」を取り上げた雑誌『ティーンズロード』創刊から全盛期を、雑誌を作り上げた本人が振り返る回顧録。『ティーンズロード』のことはまったく知らなかったけれど、引き込まれほとんど1日で読み終えてしまった。元旦に集まる「ヤン

          「私」から始める――2023年に読んだ本

          「新しい一年」は昨日の続き

           今年の年末は、初めて両親の家にも親戚の家にも行っていない。「年末年始」なるものに抗っている。一人でいると不安で仕方なく、仕事が始まるの嫌だなとか、年末の仕事でミスしていたらどうしようとか、お金ないなとか際限なくネガティブなことが浮かんでくる。家にいると時々どうしようもなくなる。  それでも、親や親戚には悪いけれど、一人で過ごす年末年始はとても居心地がいい。私の両親はとんでもなくいい人だし、二人のことは大好きだ。でも、「家族で一緒に過ごそう!」「年末年始は家でゆっくり!」「旅

          「新しい一年」は昨日の続き

          手紙

          手紙を書くつもりで書いてみた投稿です ALT:(ノートにボールペンで書いた手紙) こんばんは。手紙を書くことが好きなので、手紙を書くつもりでnoteを書いてみようと思いました。 お元気ですか?住んでいる場所はどんな気候ですか? 今日は、そろそろクリスマスカードを買わないとクリスマスに間に合わないと気がつきました。 あと昨日、よしながふみの「フラワー・オブ・ライフ」を読んでいたく感動しました。ぜひ読んでみてください。全3巻です。マンガです。 以上、友人に手紙を書くつもりで書い

          読書会『緑と楯 ロングロングデイズ』

           読書会で歌集を読んだ。雪舟えまによる短歌集『緑と楯 ロングロングデイズ』。「みどたてシリーズ」と呼ばれる、兼古緑と荻原楯という2人を主人公にしたBLシリーズの1作だ。小説もあるみたいだが、本作はもちろん全編が短歌。ほかの「みどたて」作品は読んだことがなかったものの、何も知らずに読んでみるのも面白いかと思い、この歌集だけを読んで参加した(ちなみに、この歌集はnoteのサポートで頂いたお金で買えた。ありがとうございます)。  私が言うまでもないことだけれど、やっぱり歌人の言語

          読書会『緑と楯 ロングロングデイズ』

          そろそろ整理すべきか

           今年は、いままでの24年間を合わせても足りないくらい、自分から進んでたくさんの人に出会った。私は今年の4月にいわゆる「新卒入社」で仕事を始めた(「新卒」って嫌な響きだ)。毎日決まった人に会うようになったせいか、それまで興味のなかった「人と話すこと」に興味がわき始めた。「職場と家の往復」だけになるのはまずいという思いもあり、何かしら居場所を作ろうと必死になっていた。  オフ会、トークイベント、読書会、バーと興味をもったものにはどんどん参加し、会った人と話すようになった。特にS

          そろそろ整理すべきか

          11月16日のダイ・イン

           犠牲者への哀悼と虐殺や差別への抗議を表し行われるダイ・イン(地面に寝転がり死者を表す)。イスラエル軍によるパレスチナの虐殺への抗議としてダイ・インに参加した。  パレスチナで虐殺が始まったことを知っても、「自分は今調子が悪いから」とニュースを避けてきた。それでも友人・知人がニュースを翻訳したり、プラカードを作ったり、デモに参加しているのをSNSで見るにつけ、自分はこれでいいのだろうか?と思いはじめた。ニュースでは軍が病院を襲撃したとか、多くの人が亡くなっているといった酷い話

          11月16日のダイ・イン