楽しいことをしていたい。『私ときどきレッサーパンダ』

 ってどういうことだろうと思っていた。ディズニー+でのみ配信されていた、ピクサーの新作がやっと劇場公開。舞台はカナダ・トロントで、13歳のメイ・リーが主人公だ。メイは我慢せずやりたいことはなんでもやる。成績は完璧。運動も音楽もできる。アイドルグループの4Townが大好きで、3人の素敵な友人もいる。そして、母親からの期待に応え続けようと頑張っている。
 そんなメイが楽しく暮らし、母親との関係に悩みつつも、アイドルのライブを心待ちにしていたある日、突然レッサーパンダになってしまう。メイの一族にはかつてレッサーパンダとなり街を守った女性がおり、彼女の力がだいだい引き継がれているという。しかし、現代社会で暮らす一族にとって、興奮するとレッサーパンダに変わるという力はいまや厄介なものとなってしまった。なんとかレッサーパンダを抑え込もうとするメイ。メイの母は、赤い月の晩に儀式を行えば元に戻ると言う。しかし、力をコントロールして、母が反対するライブにはなんとしても行きたい!メイと友人は作戦を練る。


オタク!友人!


 時代は2000年代初頭ということになっている。メイはたまごっちのようなゲームを持っており、ハンディカメラなど出てくる小物もちょっと懐かしい(今ならスマホで撮影するでしょう)。この時代にトゥイーンだった私にも懐かしい!そして本作の「ファン」の描き方の上手いこと!メイと友人たちは「4Town」の熱狂的ファン。彼らの話をしているときの楽しそうな様子、踊ったりなんとしてもライブに行こうと奔走する姿はオタク、ファン。この友人たちが、親からの期待とやりたいことの間で揺れるメイにとってとても大事な存在なのだ。友人がメイの心の安定を保っている。その描写に心揺さぶられた。レッサーパンダになったメイを落ち着かせるのは友人の愛だ。私も「ファン友だち」と言える人が何人かいるが、好きなコンテンツやアーティストはもちろん、色々話せる存在って助かる。
 その4Townというのも、アジア系や黒人といろいろな人種で構成されたグループで、メイの友人も同じくだ。2000年代初頭はこれほどアジア系をメインに描く物語は(少なくともメジャー作品では)少なかったし、4Townのようなグループも想像しにくかっただろう。時代設定は少し前ながら、ジェンダーや人種の描き方は今の公平性を意識している。

 そして物語の行き着く先は、「娘」の「母」からの自立だ。どれほど一緒に暮らしていても、母と娘は違う存在だ。別々の道を行くのだ。その「さよなら」を、大げさでもなくしっかり描いている。
 いわゆる「ファンガール」って、「すぐきゃあきゃあ言う」「軽薄」とバカにされやすいけれど、キャーキャー楽しむことの何が悪いのだ。好きなものを追いかける楽しさを、『私ときどきレッサーパンダ』は思い出させる。突き進むメイのパワーを観客にも!


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